第13話 晴れと雨の恋愛劇
「…ということで!みんな、今日は湖白ちゃんねるにきてくれてありがとー♡次の配信は明後日⭐︎楽しみに待っててねー!」
画面に〔放送終了〕の文字が現れた。
彼女は・水風湖白。現代の雨の神だ。
YouTubeの配信が終わると同時に彼女の従者が部屋に入ってきた。
「湖白様、お夕食のお時間です」
「ああ、すぐ行くわ」
湖白は10歳をいくらか超えたくらいの少女で幼い顔立ちをしている。
「次の仕事はいつかしら?」
「ねえ、次の仕事はいつ?」
「神様の気分もありますが…春ですので仕事は増えるかと。周期的には明後日ですね」
「うわあ、配信の日だあ」
「気分もあるのでまだわかりませんが」
「うふふっ、こはが挫けると思った?」
「いいえ、思えませんね」
「そうでしょう?こは、これでも雨の神ですわよ」
「そうですね」
「雨は嫌われ者だけど、こは自身が明るくいれば大丈夫!雨の神だってことも関係ない!そうでしょう、水香」
「ええ。雨には湖白様がいい印象を与えてくださいましたから」
「大袈裟よ」
「あ、忘れるところでした。来週いっぱい、ツアーがあるらしいです」
「そっか。ツアーのことすっかり忘れてたわ」
ードオオオオオオオオン
大きな発砲音が響き渡った。
「何っ!?」
「確認してきます」
「…ええ」
(夏陽さんは無事なの…?)
* * *
同刻、晴れの神・夏陽炎夜の邸宅も襲撃を受けていた。
「蓮火、すぐに雨に連絡しろ!」
「はっ」
炎夜は同じところを歩き回った。
(湖白ちゃん、湖白ちゃん)
雨も襲撃を受けませんように。
そう、祈った。
* * *
「湖白様!」
「水香、なんかあった!?」
「晴れからメールが届きました!」
「なんて書いてあったの?」
「主に襲撃のことのようです。文面からみて晴れも襲撃をうけたようです」
「夏陽さんは!?夏陽さんは無事なの!?」
「まだ連絡が入っていません」
「こは、夏陽さんのとこに行く!」
「メールにはなんと返しておけば…」
「こっちも襲撃を受けたって書いといて!こはは行くから…!」
湖白はリュックの中にスマホと着替えをぶち込んでチャックを閉めながらリュックを背負う。
「ごめんね、水香。これだけは行かせて…お願い…」
水香は溜息をついてから口を開いた。
「私がなんと言おうと行くんでしょう、湖白様」
彼女は問いかけるというより語りかけるように言った。
「水香…ごめん。水香はここに残って。誰か来たら状況説明して。水香を怖い目には遭わせられない…!」
「湖白様っ!お願いします。私も連れてってください。ここには人を残して…」
「駄目なの。こは、水香しか信用できないの。…ごめんね、我儘で」
湖白は水香の答えを聞く前に自転車に飛び乗った。
「ごめん、水香は連れていけない」
ー嗚呼。主人は本気だ。
「ホントに、ごめんね…」
ーこう言う時はなんで言えばいい?
「絶対戻るから」
ー主人は、前に進もうとしている。
「絶対戻るから、待ってて…くれる?」
水香は気づいた。
孤独な主人を救える神に会いに行くのだと。
自転車を走らせる主人は前しか見ていなくて。
自分を救ってくれる神の方しか見ていない。
ー嗚呼、この世界はあまりにも残酷すぎる。
湖白が神にならなければこんな気持ちを抱くこともなかった。嫌われることもなかった。ただの愛される少女でいられた。
なのに、母は神様だった。
双子の姉は2年前に不幸の死を迎えて。
そのせいで、天真爛漫な少女は神様になってしまった。
今、この舞台の主人公は夏陽炎夜様でヒロインが水風湖白様なのだろう。今、気持ちを書かせてあげなければならないのは湖白だろう。
ということで視野を湖白に譲ろう。
勢いで邸宅を出てきた湖白は峠道に1人佇んでいた。
「うぅ…」
電動自転車の充電がなくなって山の中盤で止まってしまった。
(夏陽さん…夏陽、炎夜さん…)
晴れの神のことしか考えられない。
(夏陽、さん…)
「うぅ…あ…」
今まで泣いたことなんて数えられるほどしかない。
「う…ううー…」
本当は泣き虫なのだ。今まではきっと、知らないうちに強がっていたのだろう。
「っ…っうぅ…っ」
そんな彼女が泣いた。
ーこの世界は残酷だわ…
神様は味方についてくれない。いつも悪戯をしてくるだけ。
「…っ…っ」
そんな残酷な世界は天真爛漫な少女を神にした。
神様はいつもそうだ。
残酷な世界は少女に厳しすぎて、
「うっ…」
少女は時に崩れてしまう。
ー嗚呼…
残酷な世界には合わないほど天真爛漫に見せていた少女は
ー夏陽さん、
強くて弱くて
ー夏陽、さん
それでも強いように見せて
ー夏陽…さん
どんなに泣いても、逢いに行きたい人がいる。
ー夏、陽さ…ん
そんな少女が雨を齎していることをまだ知らない。
そして、そんな少女が来てくれていることにも、気づいていない。




