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GAFA誕生前にタイムスリップして記憶を頼りに全部創業してみた  作者: 加藤宅


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3/3

3 - 2000年の現在地

頭が割れるように痛い。

やけに騒がしいテレビの音声で目を覚ました。


「ん……あたま、痛ぇ……」

重い瞼をなんとか開けると、そこには見慣れた自宅の天井が視界に飛び込んできた。

昨日も朝まで飲んで、なんとかこの部屋までたどり着いたはずだ。

起き上がろうとした瞬間、ズキリと後頭部に鋭い痛みが走る。 二日酔いの痛みだけではない気がした。


そして、ふと違和感に気付いた。

一人暮らしのワンルームのはずの部屋に、もう一人、誰かがいることに。


「お、起きたか釜谷。お前、昨日変な転び方して頭打ってたぞ」


呑気な声が部屋に響き、釜谷はハッと声のする方を見た。

そこにいたのは、同期の大海原太一おおうなばら・たいちだった。


右腕には痛々しい分厚い包帯が巻かれ、顔には大きな絆創膏が雑に貼られている。 彼は格闘技を熱心に嗜んでおり、常にどこかしら怪我をしている規格外の男だ。


「太一……? なんでお前が俺の部屋にいるんだよ!?」

「何寝ぼけてんだよ。ルームシェアしてんだろ、俺たち」

「ルームシェア……?」


全く身に覚えがない。 混乱する釜谷に、太一は全く動じる様子もなく、包帯の巻かれた手で無造作にスポーツ新聞を放り投げた。

「というか、今どういう状況だよ……。俺、昨日普通に仕事して、飲んで帰ってきたはずだぞ……?」

「何言ってんだよ。昨日も今日もいつも通りの日だろ。いよいよ2000年になって頭でもバグったか? ほら、世間はミレニアムだなんだって騒いでるってのに」


「に、2000年……?」

「いてて……昨日の練習はマジでキツかったな。俺は肋骨イワしたから、今日は仕事休むわ。世界中のネット掲示板でも漁って裏情報でも集めとくわ」


痛むあばらをさすりながら、平然と欠勤を宣言する太一。

釜谷の視線は、投げ出されたスポーツ新聞の日付に釘付けになっていた。


『2000年4月』


その数字を見た瞬間、釜谷の脳内に落雷のような衝撃が走った。

「・・・?」


朝まで飲んで自宅で眠りに落ちたはずが、理由は全くわからないものの、自分は2026年からこの時代へと遡ってしまったらしい。

信じられない現象に全身の震えが止まらない。

「・・・?」


だが、呆然としたのも束の間、釜谷の心に爆発的な野心と歓喜が沸き起こった。


(2000年!? 時空を超えたのか、、あ、いや、となると薄本さんに怒られる生活が無くなったのか、、)

(いや待て。以前の記憶があるってことは、色々無双できるんじゃないか? これから伸びる株を今のうちに買い漁れば、それだけで大金持ちになれるじゃないか!)

(10年もすればビットコインだって出てくる。現代までの成長史という『未来の記憶』を持っている俺なら、この時代で何だってできるぞ!)


釜谷は跳ね起き、部屋の隅にあった分厚いデスクトップの旧式パソコンの電源ボタンを乱暴に押した。

ブラウン管のモニターがぼんやりと光り、ピーー、ヒョロロロ、ガガガッ……という、今となっては懐かしすぎるダイヤルアップの接続音が部屋に鳴り響く。

釜谷はその遅い回線速度に急かされるように、証券会社の口座開設ページへとアクセスした。


「ははっ、見てろよ。まずはあの企業の株を底値で買って、それから……」


血走った目でキーボードを叩き、画面に必要事項を打ち込む。 そして、震える指で『送信』ボタンを力強く押した瞬間だった。

画面の中央に、無機質なポップアップウィンドウが出現した。

『エラー:リクエストが却下されました』

「……は?」

目をこすり、もう一度送信ボタンを押す。


『エラー:リクエストが却下されました』

「なんでだよ!?」


何度やり直しても、別の証券会社のサイトを試しても、結果は全く同じだった。 暗号資産の口座に至っては、そもそもビットコインの概念すら誕生していない時代だ。

どうやら、未来の知識を直接使って手っ取り早く金に換えるようなズルをしようとすると、見えない力——まるで世界そのものが歴史の改変を拒絶するかのような『謎の制限』が発動し、一切の口座開設が物理的に弾かれてしまうようだった。


「なんだよこれ……! どうなってんだ! ふざけんな!」


キーボードをバンバンと叩きながら叫ぶ釜谷。

「おいおい、朝っぱらから何パソコン相手にキレてんだよ」


すでに自前のPCに向かい、海外のテックオタクの動向をリサーチし始めていた太一が、あきれたように鼻を鳴らした。

「そんなことより、お前早く会社行けよ。ただでさえ遅刻ギリギリの時間だぞ。薄本さんに殺されるぞ」


『 - 薄本 - 』

その名前を聞いた瞬間、釜谷の背筋に冷たい氷柱が突き刺さった。


2026年でも散々釜谷を震え上がらせていた、あの血も涙もない上司、薄本不死身すすきもと・しなないの顔が脳裏にフラッシュバックする。


「や、やばい!!」

釜谷は慌ててクローゼットから服を引っ張り出し、転がるように部屋を飛び出した。


――40分後。

息を切らして、全速力でオフィスのドアを開けた釜谷。 しかし、彼を待っていたのは、汗も凍りつくような極寒の静寂だった


「釜谷。遅刻だ」

フロアの奥から、一切の感情を排した低い声が釜谷を真っ直ぐに射抜いた。

上司、薄本不死身


2000年のこの時代でも、その冷徹さは微塵も変わらず、、そして当然のように釜谷の上司であった。


「す、すみません! 実は……信じられないかもしれませんが、俺、未来からタイムスリップしてきたようでして。 目覚めたら2000年で、色々あって混乱して……」


釜谷は苦し紛れに、いや、半ばパニックに陥ったまま、隠すべき真実を大声で口走ってしまった。

オフィス中の空気が止まった。 周囲の社員たちが「こいつ、頭がおかしくなったのか」「ついに薄本さんのプレッシャーで壊れたか」とヒソヒソざわめく中、薄本だけはただの一度も瞬きをせず、釜谷を冷徹な眼差しで見据えていた。


「それが、今日の売上報告書を提出しない理由になるのか?」

「……え?」

予想外すぎる返答に、釜谷は間抜けな声を出した。


「お前が未来から来ようが、異世界から来ようが、俺には関係ない。業務の遅れは会社の損失だ」

薄本は感情の完全に抜け落ちた声で、残酷な事実だけを淡々と告げた。


「つまらない言い訳をひねり出している暇があるなら、今すぐ席につき、1時間以内に昨日のデータをまとめろ」


薄本の瞳の奥には、本当に1ミリの揺らぎもなかった。

タイムスリップという本来なら大騒ぎになるはずの超常現象すら、この男にとっては単なる“ノイズ”でしかないのだ。


圧倒的なプレッシャーと絶対的な論理の前に、釜谷はそれ以上何も反論できず「……はい」とだけ呟き、逃げるように自分のデスクへと向かった。


西暦2000年

あまりにも前途多難で厳しい幕開けとなった。

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