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GAFA誕生前にタイムスリップして記憶を頼りに全部創業してみた  作者: 加藤宅


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1 - 2026年の現在地

2026年

ー 東京 ー


熱気がアスファルトを焦がしているというのに、オフィスの空気は凍りつくように冷え切っていた。

フロアに響くのは、無機質なタイピング音と、時折聞こえる誰かの押し殺したようなため息だけだ。

窓の外に広がる無数のビル群を一瞥し、釜谷翔平かまたに・しょうへいは自身のPCモニターに視線を戻した。


画面に整然と並ぶのは、ただ消費されるだけの数字の羅列と、終わりが見えない業務タスクのリスト。

どれだけこなしても達成感はなく、自分の代わりなどいくらでもいるという現実が、釜谷の心を真綿で首を絞めるように蝕んでいた。


「釜谷」


背後から掛けられた、感情の一切こもっていない低い声。

たった一声で、釜谷の背筋に冷たい汗が伝った。

振り返らなくてもわかる。

上司である、薄本不死身すすきもと・しなないだ。


「昨日提出させた達成プランだけど、収益モデルの前提から破綻してない?この数字の根拠はなに?」


薄本は釜谷の背後に立ち、モニターを氷のように冷ややかな目で見下ろしていた。

彼の声には怒りも、落胆もない。


ただ計画比でGAPしている事実を淡々と、残酷なまでに正確に告げるのみだった。薄本不死身という男は、社内で「冷血機械」と恐れられている。


過去に担当プロジェクトが頓挫しかけた際も、取引先と致命的なトラブルが起きた際も、彼は決して動じなかった。

いかなる危機的状況であっても顔色一つ変えずに最適解を導き出し、無能と判断した部下は容赦なく切り捨てる。


「申し訳ありません……見通しが甘かったようです。すぐに修正します」


釜谷は身を縮め、喉から絞り出すように答えた。言い訳など通用する相手ではない。

薄本はそれ以上何も言わず、踵を返して自分のデスクへと戻っていった。

その足音すら、妙に規則的で感情が抜け落ちているように聞こえた。


釜谷は深く息を吐き出し、キーボードに突っ伏した。

2026年というこの時代、テクノロジーは進化を極め、社会はどこまでも効率化された。


しかし、その洗練されたシステムの中で、釜谷はただの歯車としてすり減っていく日々を送っていた。

(こんなはずじゃなかった……俺の人生は、こんな誰かの作った枠組みの中で終わるものなのか?)


釜谷の胸の奥底には、常に燻っている熱い感情があった。いつか自分の手で何かを生み出し、世界をひっくり返すような巨大な何かを打ち立ててみたい。

この退屈で息の詰まる現代社会から抜け出し、すべてを自分の思い通りに創り上げてみたい——。

窓の外では、夕暮れが東京の街を毒々しい赤色に染め始めていた。


「……全部、俺が創ってやる」


誰に聞かせるでもなく、釜谷はモニターに向かってポツリと呟いた。

今はまだ、この冷酷な上司の下で耐え忍ぶしかない。


しかし、いつか必ず自らの手で「全部」を手に入れる。


その無謀とも言える強烈な野望だけが、釜谷の精神を辛うじてつなぎ止めていた。

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