エピローグ ~精霊の巫女と精霊の勇者~
ルーク=ウレイアは、さらわれたエレナ=ルクウィッドを
救出して無事に村に帰宅した。
もちろん、ビショップ=ルクウイッド、カストルも
一緒である。エレナを腕に抱いたルークが村に戻ってきた時、
村人たちの歓声が彼を祝福した。
今までルークを馬鹿にしていた者たちも、ルークが
彼女を助け出したことでようやく認めたようだ。
ただ一人、エレナの祖父だけは別だが。
「わしはまだウレイアの小僧を認めておらんぞ!!
絶対に認めたりなぞせんからな!!」
だが、エレナの祖父も心の奥では彼を認めていた。
認めたくないのは、ルークが落ちこぼれだった
からではなく、エレナの好きな人だからなのだろう。
ビショップは祖父の真意にそこで初めて気づいたのだった。
今までいじめてきたのも、エレナに進言していたのも、
全ては孫娘大事と考えてきたからのようだ。
「おじいちゃん!! もういい加減にしてよ!!」
しかしエレナはその事実に気づいていなかった。
ぷうっと頬を膨らませつつ祖父に文句を言う。
祖父が「エレナ~」と情けない声を上げたので、
さすがにビショップが彼女の耳に何事か囁いた。
エレナのエメラルドグリーンの目が瞬き、続いて
祖父を温かい目で見つめた。
「ねえおじいちゃん、私ルークが好きなの」
「え、ええええエレナ///!!」
ストレートな言葉にルークの顔が赤く染まった。
悲しそうに二人を見つめるカストルの方を、なぐさめる
ようにビショップが叩く。カストルは少しホッとしたように
笑うと視線をビショップに向けた。
「おじいちゃんが私のことを大切に思うのは分かるわ。
だけど、おじいちゃんにもルークを認めてほしいの」
「よろしくお願いします!!」
ルークが頭を下げる。祖父は渋い顔になったが、ためいきを
つきながらもルークの手を取った。これが返事の代わりの様だ。
「エレナを頼んだぞ、ウレイアのこぞ……ルーク」
「はい!! エレナは絶対に幸せにします!!」
祖父は「ウレイアの小僧」と言いかけて慌てて「ルーク」に直した。
エレナの顔が幸せそうに輝く。ビショップもカストルも、祝福するように
手を叩いて二人を見守った。
「さあ儀式のやり直ししようよ!!」
こうして、中断していた精霊祭が再会したのだった――。
最初から儀式はやり直しになった。再び精霊の巫女の衣装を
まとったエレナが美しき舞を披露する。ルークは今回は前回の
ような発言はせず「綺麗だ」と彼女の姿を褒めた。
エレナの舞いは見事で、最初に舞った時よりも数段動きが
洗練されているように思えた。
「精霊の巫女は、ルーク=ウレイアをパートナーに指名します」
ヒュウと口笛を吹く音が響いた。今度は前回のように落胆する
男性もいない。祖父も幾分柔らかくなった視線で二人を見ていた。
誰もがルークとエレナを祝福していた。
ルークはエレナがさらわれたことを思い出して一瞬躊躇したが、
今度は絶対に離さないとばかりに彼女の手をしっかり握った。
「ルーク、やっとあなたと踊れるのね」
エレナの髪には百花百連の髪飾りがしっかり飾られていた。
過去を思い出したルークは誇らしい気持ちでそれを見つめる。
「俺もエレナと踊れてうれしいよ」
二人は楽しそうに踊りだした。踊ったことのないルークはあまりうまく
リードができなくて一同の笑いを誘ったが、エレナはそれでも嬉しそうだった。
と、踊りが終わった後に七色の光が壇上にきらめいて二人を包み込んだ。
ルークとエレナ、そしてビショップとカストルが頭上を振り仰ぐと、精霊の女王と
なったアンジェが女神の様な笑みで四人を見守っていた。
さようならとその口が動く。一瞬その目に涙が光ったのが四人には見えた。
精霊の女王となった彼女とは二度と会えないかもしれない。
四人の目にも涙の粒が光ったが、彼女が泣いていないのだからと四人も
涙はこらえて彼女を見つめていた。やがて、彼女の姿がかき消える。
『エレナ!!』
アンジェが消えたすぐ後のことだった。
いつの間にか、以前『精霊王の城』に一緒にいた仲間たちが
そこには立っていたのだ。後日そのことを聞くと、逃げ遅れそうに
なってアンジェに救われたのだという。
リエンカ、ステラ、ジゼット、ミルカがエレナに抱きついた。
ルークは彼女たちの反応から、エレナが今まで仲良くしていた
友人たちだなと思った。
エレナも涙をながしながら四人を順々に抱きしめていた。
こうして、ルーク達の冒険は終わりを迎えたのだった――。
『スピリッツ』もようやく終わりを迎えました。
ひょっとしたらまた後日談や続きを書くかもしれませんが、
お話はここで終わりとさせていただきます。
今まで見てくださっていた方、本当に
ありがとうございました。