3-2.野営
野営 イザベラ
リョーマの側を離れ、野営の準備を始めた。
必要な物は、シートに付いている。機体を屋根がわりにしても良いだろう。
コパイシートからも、サバイバルパックをとりはずし、機体下に降ろした。
今までずっと、アイツと乗ってたのか。今までのフライトを、思いかえしてみた。
コパイの生物は従順で私に合わせようと、がんばっている感じを受けていた。
確かにアイツらしい。最近、好調というか、興奮している感すらあったのは、薬のせいだったのか・・・。
リョーマの所へ戻った。「もう日が落ちる。今日は機体の下で夜を越そう。」
「俺はここでいい。」
「あれは一応、風よけになるぞ。」
「いいって。」苛ただしげに言われた。
ムっとしかけたが、薬が効いているのを思い出した。
「薬が切れるまでは、そっとしておいてやるから。大丈夫だ。」
「オマエがいると、ダメなんだよ。」
「私がキライだからか?」さすがにムっとした。思い返してみると、整備でも訓練でも、かなり振り回した。
「荒い操縦だったのはすまない。でも、やらなきゃ堕とされてた。」
「違う!そんなんじゃない!」リョーマは叫んでから、ぱっと口に手をやった。やはり薬のせいか様子がおかしい。
「どういう事なの。」やさしい口調に変えた。
リョーマが驚いた様子をみせた後、再度膝をかかえて縮こまってしまった。
「お願いだ。ほっといてくれ。」
「危なくて、ほっとけないよ。」
リョーマが傍目にも、葛藤しているのがわかった。が、ついに根負けしたらしい。こちらに顔を向け叫んだ。
「一緒にいると、オマエに殴りかかりそうなんだよ!」言うなり顔をうずめて丸まってしまった。
言われた私は、キョトンとしてしまった。コイツがこんな事を言うなんて。
「そうか、やっぱり私は気にいらない女だよな。」
リョーマがばっと顔をあげた。「何言ってんだ、俺はお前が好きだぞ!」言ってから口を両手で覆った。
「えっ・・・。」頭が真っ白になった。自分が、恋愛に関係があるとは思ってなかった。
「それは、薬のせいだったり?」
「違う。これに乗る前からだ。」
「そ、そうか。」後は、私がリョーマをどう思うかか。
そういえば、他よりも丁寧に整備をやってくれてたし、これに乗る前に、私を庇って殴りかかっていったりしてたな。好意はもてるけど、恋愛はどうだろう?
「私もキライじゃないよ。とりあえず、今晩はなるべく離れて過ごして、後の事は基地に戻ってからでいいか?」
「オ、俺でいいのか?」リョーマは驚いているようだ。
翌朝、虫の羽音で目が覚めた。少し離れてリョーマが穏やかに寝ている。薬の効果が切れているようで良かった。
「おはようございます。朝早くにすみません。」機体の影から、声がかかった。
ばっと、体をはね起こした。まだ、日が昇りきっていない感じだ。
「ずいぶん早かったな。少し待ってくれ。」急いで身だしなみを整える。
「あわてずに、落ち着いて。」
「心配すんな、そんなにあわててないよ。」機体の反対側へ向かった。
「こちらに、害意はありません。」
「何!?」少し離れた地面に、ドローンがいた。あれは・・・猿のもの?
「ご無事そうで、よかった。」
私が唖然としている間に、話かけられた。ディスプレイはないがカメラ、スピーカー、マイクが付いているらしい。
パニックになりそうなのを押さえて、落ち着いたフリで答えた。「おかげさまで。」
「はじめまして、シンドラーと呼んでください。」
「イザベラよ。アンタはあの降下船に乗ってきたの?」とりあえず、思いつきを口にした。
「いえ、あれは無人です。今、私は軌道上の、オベリスクにいます。」
なんとなくほっとした。
「イザベラ。誰かいるのか?」リョーマから、声がかかった。
「落ち着いてこっちへきて、猿のドローンと話してる。」
「何!?」声のすぐ後にリョーマが、あわてて銃を持って出てきた。
「このドローンに武器はついていません。安心してください。」シンドラーから声がかかった。
リョーマが私を見た。肩をすくめて答えた。銃をおろしてゆっくり近づいてくる。
「もう一人、いらしたんですね。」
私が二人を紹介した。
「何の用だ!?」リョーマが尋ねた。声が荒い。薬が残ってるのか?
「突然、墜落したので、パイロットが気になって。」
「なっ。」二人で驚いた。敵に心配された??
「他の機体も、撃墜したくせに。」リョーマがつっこんだ。
「あの方達は、基地にたどり着きました。」
「・・・。」殺してないと、言いたいらしい。
「探査機で何を調べている。」リョーマは、尋問する事にしたらしい。
「地球環境を。」それは、以前の着陸から、既に解っている。
「何の為に。」
「私達は将来、地球へ降り立ちたいのです。」科学者の予想どおりだ。
「だめだ、許さないぞ。」リョーマが言った。いつもより攻撃的だ。やっぱり、薬が残っているのだろうか。
「まだ先の事です。今は結論を出さずにおきましょう。お互い、大使というわけでもないですし。」
私達は言葉を失った。では、この場はどうしよう?
「異星人と共に暮らすのは、そんなに嫌ですか?友好的なSF作品もいくつか見ましたが。」
リョーマと顔を合わせた。うーん。そういえば、何が気にいらないんだろう。
「ゲートウェイを破壊し、宇宙進出を妨げている。」リョーマが切り出した。
うん、やっぱり敵だ。
「核ミサイルを、使用されては困ります。」
これは、あまり強く言えないな。
「領空侵犯、不法侵入だ。」
そうだ、敵だ。って自分で考えてないな私。
「この件については、おわびします。許可をとっていれば、あなたは納得しますか?」
「・・・。気に入らないな。」苦い顔で答えた。私はうなずいて同意した。
「イザベラさんは、いかがですか?」
振られるとは思わなかった。
「私は軍人よ。戦えと言われれば、地球人とでも戦う。」思わず事務的に答えてしまった。
「では、個人的に。我々はどうすれば、友好的にしてもらえるでしょう?」
「えっ。」猿と仲良くする?思わず、リョーマを見てしまう。ヤツとだったら、好きと言ってくれたし、良くしてくれるし、今後もケンカしながら、仲良くやっていきたい。
リョーマが怪訝な顔をした。いけない、こんな場合じゃない。
「すぐにはわからない。私に何かしてくれるの?」
「話友達になる、くらいでしょうか。」
「まにあってる。」
「そのようですね。」
と、ドカーンと爆発音がした。思わず身をかがめる。何事かと見渡すと、何かが煙を吐き出して、天へ向かって行くのが見えた。ロケット??
「驚かせてすみません。サンプルを打ち上げました。」
「何のサンプルだ?」リョーマが慌てて聞いた。
「土、水、空気です。」
「目的完了って事か。」
「ドローンの調査は、継続します。」
「させるかっ!」リョーマが再度、銃を向けた。
「待って!」言って自分で驚いた。両方が動きを止めている。
「もう、最大の目的は完了したんでしょう?シンドラー。」
「はい、ここで破壊されても、かまいません。」
「じゃ、もうちょっと地球観光させても、よさそうじゃない?」リョーマへ言った。
「そんな、気安いもんじゃないと思うがなぁ。」言いつつ銃をおろした。
「実のところ、このドローンには捕獲しに来た人との接触、という重要任務があります。」
この会話が、重要任務だっての!?
「これまで何人も接触していますが、こんなにお話させてもらえませんでした。」
もう何回目か、リョーマと顔を合わせてしまった。
「心配して見に来てくれた相手を、邪険にできなかったってことで。」私がリョーマへ言った。
「そう報告するのか。まぁ、こっちもいろいろ聞けたしな。」
「ありがとうございます。これで失礼します。」
ドローンが音をたてて飛び去った。
「はぁー。緊張した。」リョーマが座りこんだ。
思わず笑ってしまった。「薬が効いてたんじゃないんだ。」
軽く睨まれた。「相棒を守るのは、あたり前だろ。」
「それは、頼もしいね。」そんな気もなさげに答えた。
「ちぇ、真剣なんだけどな。」リョーマは、うなだれてしまった。
「わかってるよ。ありがと。」しゃがみ込んで、頬にキスをした。
驚いて頬に手を当てるリョーマに、さっきの気持ちを告げた。
朝日が差してきた。戻ったら、リョーマと猿の事を話してみよう。