表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

1-6.退去

退去 ジロ


 「決まりですか。」俺がカールに聞いた。

「そうだ。」

オベリスクが接近中だ。3時間後にステーションを放棄する。

「グチを言ってもしょもない、準備にかかれ。」

カールに睨まれた。そりゃ皆、不満だろう。いつも明るいジョリイも沈んだ表情だ。

「リストのものは積み終わってる。あとは私物だけよ。」

「そうか。じゃ、すぐ終わるな。始めてくれ。」カールは事務的に言った。


 オベリスクが前回と同じ位置で止まった。俺はジョリィとエアロック手前で、スペーススーツで待機している。

「こちら猿のコーネリアス。メッセージを届けたいので、会見を希望します。」

何!?俺はジョリィと顔を合わせた。

「どうする?」俺はインカムで、カールに話かけた。

「メッセージだけなら通信ですむ。危険を犯す必要はない。」

「それを承知の上での申し入れだろ。あっちも同じだ。」

「危険な事を、あえてって事?」ジョリィが聞いてきた。

「そうだ。それだけの意味があるはずだ。」

「どんな?」

「会って聞いてみるさ。」

「待て、許可しないぞ。」カールが急いで言ってきた。

 「ジロ・シラセさん、B・スパイダーで来る気はありませんか。私もペンシルで出ます。」

コーネリアスからご指名だ!!俺とジョリィは顔を合わせた。

「行ってくる!」エアロックへ向いたところで、ジョリィに捕まえられた。

「大丈夫なの?」

「こっちの覚悟しだいだろ。」

ジョリィが俺をじっと見た。おもむろにインカムを操作して。

「行かせてあげて。」

「気を付けて行ってこい。」カールは呆れてるんだろうな。

 「無事に戻って。」ジョリィが手を離してくれた。

「もちろん。」俺はエアロックに入った。「こちらジロ。コーネリアス、どこで会えばいい?」

「オベリスクとステーションの中間で。」


 ペンシルが射程に入ったところで、ペンシルが横向きになった。

「マグネットアンカーをつけたいから、横に向けて。」コーネリアスから通信が入った。

相手が腹を見せているんだ、こっちも負けてられない。転回してペンシルに対して停止した。

 コーネリアスがアンカーから伸びたワイヤーを伝って"降りて"きた。

「わざわざ来てくれてありがとう。」コーネリアスが顔をライトアップしてから告げてきた。

今回は猿語が聞こえてこない。口パクから遅れて通訳機の声が聞こえてくる。

「腹見せをしてくる相手から、逃げ出さなくてよかった。」

「・・・。」コーネリアスがとまどったようだった。表現が悪かったかな。

 「それで、わざわざこんな所で伝えたい事はなんだ?」

「私達は本当に、切実にあなた達と仲良くしたいの。」

「は?」そんな内容?俺はもっと重要な事だと思っていた。

 戸惑う俺をよそに、コーネリアスが続けた。

「私達は当初、惑星プロキシマbをめざしていたの。」

「!」

プロキシマbは、太陽系に最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」にある地球型の惑星だ。猿は別の星からそこを、めざしていたということか。

 「もうすぐ到着という所で、地球に知的生命体がいる事がわかったの。地球は生命にあふれていて、プロキシマbとは比較にならなかった。それに、このあたりには他に知的生物はいなさそうじゃない?ぜひ仲良くなりたい。だからここまで来たのよ。」

「・・・。別にやりようはなかったのか。強引すぎる。」

「いろいろ制約があるのよ。火星をお勧めされたけど、寒すぎる。」

火星を?知らなかった。

 「仲良くしたいという割には、俺達をステーションから退去させるのか。」

「月の共同開発、恒星間航行技術等の提供を断って、核ミサイルを撃ってくる人達の近所には住めないわ。」

俺は頭をかかえたくなった。こっちは、いろいろ撥ねつけていたらしい。

 コーネリアスが月を見上げた。俺も一緒に見上げた。リラーマが手前にある。

「リラーマは今、最も脆弱な状態なの。あそこには、たくさんの人が住んでいるわ。核のないロケットが当たるだけでも、大惨事になる。」

 コーネリアスが俺に向き直った。

「しばらく、ステーションから退去してください。」

イヤと言っても、しかたないんだろうな。

「しばらくって、どれくらい?」

「私には、わからない。」

「そうか。」俺はうなだれた。


 「別のお願いがあります。」

俺は顔をあげた。「何だ?」

「ステーションを、破壊しないでください。」

「それは、こっちのセリフだろう!!」

「我々はそのつもりはありません。使用可能なうちに戻れるように計らいます。」

「本当か。」

「皆さんを、地球に押し込める気はありません。」

 「俺達は交流するのか。」

「しないで済ませられる?」

「無理だろうな。」即答した。

「私の代では無理かもしれないけど、地球の観光地をあちこち見たいわ。シブヤで待ち合わせも、してみたいわね。」

俺は苦笑した。ケンの冗談を理解したらしい。

 「ケンが、そっちの観光地に行く約束をしていたな。」

「こっちの観光地は、これから作るんだけどね。」

二人はだまった。双方が繁栄できれば、それに越した事はないんだろう。

「再度、伝えます。我々は本当に、あなた達と仲良くしたいんです。」

「うん、言いたい事はわかった。」

「ここへ来て良かった。では、しばらくさようなら。」


 コーネリアスは、ペンシルへ"昇って"行った。

俺もコクピットへ戻った。ステーションへ向かってメインスラスタを吹かしてから反転した。

ペンシルの後部が光って、遠ざかって行った。


 「ジロ~。よかったぁ。」ジョリィから熱烈な抱擁を受けた。

「そんな心配する事なかっただろ。」

「うん。大役お疲れ様。」

「ただいま。」インカムでカールに話かけた。

「後でこらしめてやるからな。今は休憩しろ。ジョリィはそのまま待機。予定時刻に降下船に乗り込む。」

「了解。」エアロック前の二人がハモった。


 俺が最後に降下船へ、乗り込んだ。

「席について体を固定しろ。」カールが、席から振り返って言った。

「了解。」

「すごく揺れるからね。」ジョリィが、首をひねって言ってきた。

「わかってるよ。」大気圏を揺れなしで降りるなんて、猿にもできないだろう。

「準備完了。」

「降下船を、ステーションから切り離す。」カールが言いながら操作を開始した。

ガコンと音がした。

「ステーションから離脱、降下軌道に入る。」

 これでしばらく宇宙とおわかれだ。でも、俺はきっと又くる。

その時は、猿と握手できるようになっていれば、良いのだが。

降下船が地表へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ