第三十五話 海賊船と聖杯
フラウとリリィは捕まっていた。
たまたま巡り会った船は正真正銘の海賊船で、実力を兼ね揃えたNPCが沢山乗っていた。
彼らは二人の小さな船を見つけるや否や大砲で射撃し、二人の船は耐久もなく海の藻屑となって消えた。
何とか海に浮かんでいた二人を海賊船は捉えて捕虜としてしまった。
「ガキがあんな船のってんじゃねーよ!」
「食いもんもありゃしねぇ」
「親方が来たらお前達を処刑してやるよ」
船の海賊チックな男の人や女の人は大声で笑った。
フラウもリリィも困ったとばかりに眉根を寄せる。
今はロープで二人纏めて柱に固定されている。
実力は定かではないが、人数が多く、実力があれども戦うには二人が不利である。
フラウが「狼になって一気にやっつけちゃう?」と提案したが、船の破損はできるだけ避けて、綺麗な状態で奪いたいところだった。
「親方が来るって言ってたな?」
「うん」
「ボスが出てきたらボスをやっつけちゃえば船は奪えるぞ」
「他の人はどうするの?」
「船を奪えば全員消えるか、それとも船の名義が変わればNPCは配下に着くのか、どっちか分からないけど、とりあえずお頭が来るまで大人しくしとくのが得策だな」
「わかった! 親方が来たら直ぐに縄切って、やっつけちゃおう!」
フラウとリリィがコソコソと話を進めていると、船のBGMが変化する。
二人はとたんに来たぞ、と身を固くした。
「なんだ、騒がしい」
重々しい声と共に空の色も薄暗く変わっていく。
「俺たちの船に捕まったのが運の尽きだな」
"親方"らしきNPCが金の聖杯を掲げると、天気が荒れ、渦が現れ、稲妻が鳴り始めた。
「あれがお宝か」
「みたいだね。じゃあ早速縄を切るよ!」
フラウが「"ウルフメイク"」と唱えた。
フラウの姿が黒い狼になり、縄は擦り切れて自由になる。
「こ、こいつら!!」
NPCは狼狽えたが、戦闘モードに変更された。
早速お頭を狙った二人だが、親方は舵のところまで一気に飛び上がり「宴だーー!!」と声を張り上げた。
稲妻が激しさを増し、海にまで落ちてくる。
酷い豪雨が船を襲った。
フラウとリリィは親方の位置までたどり着くために、手下のNPC達をどんどん倒していく。
しかし、どこから湧き出てくるのか、一向に減る気配を見せない。
「あいつを倒さなきゃ、こいつらは無限に湧いてくるってことか」
リリィは舌打ちしてフラウに目を配る。
フラウは頷き「"グロウボディ"」を使って体を大きくした。
そのままNPCに向かって突進する。
リリィはその背中に捕まり、一気に舵まで駆け上がった。
「よく辿り着いたな……だが、ここからが本番だ!!」
親方は金の聖杯を二人に向けた。
すると聖杯から津波のように大量の水が現れ、二人を襲った。
「そのまま溺れ死ね!!」
親方は勝ち誇ったような高笑いをあげた。
二人は水圧に負けないよう立っていたが、それ以上は進めない。
リリィが「ゴホッ」と息を大きく吐き出した。
フラウはそんなリリィを助けようと大きな体でリリィを庇う。
「"ディバインプロテクト"!!」
フラウは防御の壁を作った。
そして、流されかけていたリリィを口で咥え、津波から思い切り放り出す。
「うわぁ!!」
リリィは突然の浮遊感に狼狽えたが、見事着地した。
親方のすぐ傍に飛び出たリリィは、大剣"鬼面"に武器を持ち直し、親方の首を狙って思い切り振り上げる。
「ぐぁッ……!! お、おのれ……!!」
親方はギリギリでそれを避けたが、無傷とはいかなかったようだ。
切り口から電子の粒子が空へ向かって零れる。
リリィはふらつく親方に狙いを定めた。
一気に駆け出し、大きく大剣を振り上げる。
「"天誅"!!」
リリィの攻撃は親方に見事命中した。
頭の先からつま先まで、縦断された親方は悲痛な叫びを上げて消えていく。
同時に豪雨や竜巻もすっかり元の姿に戻る。
他のNPCも悲鳴をあげながら消えていった。
その場に残されたのは、船と金の聖杯のみだった。
二人は静かになった船にほっと息をついた。
「やった!!」
フラウは人の姿に戻って喜んだ。
リリィもフラウに駆け寄りハイタッチする。
「じゃあフラウが名前登録して、この船貰っちゃおうぜ。あたしはあの金の聖杯に登録するよ」
「そうだね!」
フラウは船の舵を掴んだ。
船は輝き、所持者の部分にフラウの名前が入る。
リリィは床に転がっていた金の聖杯を拾い上げた。
「おっ! これ正真正銘のお宝だ! 水を操る精霊の聖杯だって。あらゆる水を操れる、だから天気を変えることも出来たのか」
「水なのに天気まで変えられるの?」
「雲の水蒸気を使ったんだろ。雷も大気の変化で発生するし、聖杯の中からは無限の水が溢れてくるんだって」
「そうなんだぁ。よく分からないけど強そうだね」
フラウはそう言ってリリィに笑いかける。
リリィは「きっと強いぞ」と笑い飛ばした。
こうして二人は無事船を手に入れた。
船には食べ物も多く積んであり、暫く色々口に含んでみる。
するとまた新たな船の反応が近くに現れた。
「行くか!」
「うん! 次はどんな船なんだろうね〜」
二人はそんな会話をして船をそちらへ向かわせる。
反応がこの船より少し大きかったので、きっとまた大きな船なんだろうとリリィは思った。




