008
お読み頂きありがとうございます!
「偉大なる神は我々に力を、知恵を、武器を、そしてそれらを振るう場所を与えてくださいました」
チェンの演説はそんな一文から始まった。
……聴いててめちゃくちゃ恥ずかしいんだが、別に彼女は嘘を言っている訳ではない。
俺がこの国を発展させてきたというのは紛れもない事実なのだから。
「神はこうおっしゃいました。
好きに生き、好きに行き、好きに逝けばいい。
何かを成したいならば成せばいいと。
ただ一度目標を志したら決してそれを忘れるなかれと。
それは怠惰や惰性で行われてきた行為に価値は無いからです。
だからこそ、共に生きる目標を神に誓おうではありませんか!」
ああ、こうして新しい宗教文化が生まれていくんだなぁって感じだ。
……いや、確かに俺が言ったんだけどもさ。
こうして自分の発言を改めて公開されると物凄く恥ずかしいを通り越して倒れそうだ。
厨二病の人には黒歴史ノートを真面目な顔で読まれている事を想像してみてほしい。
絶対に悶えるだろ?
「ご清聴ありがとうございました」
俺が悶えていると、どうやら彼女の演説は終わったようで盛大な拍手と歓声が鳴り響いた。
……まあ、神に人生の目標を誓うというのは悪い文化じゃないからいいか。
仮に俺が誓うなら「不老不死を体現して現代まで生き残る」ということになるのだろうか?
どこぞにいるウロとか言う神様、俺は不老不死になる事を誓うぜ!
……誓う対象が俺じゃねぇか!
いや、どこぞのオーディンとかいう神も自分に自分を生贄に捧げていたから別に神が自分に祈るって不思議なことでは無いのか?
とりあえず先に用件を終わらせようか。
『チェンよ、俺は今お前の心の中に直接話しかけています』
秘技、鼓膜を直接振動させることによって無理やり相手に声を届ける魔法!
ほんの僅かな狂いも無い究極的な魔法技術を以ってして成立させるこの技はまるで相手に心の中に直接話しかけられたかのような錯覚をもたらす。
え? こんな技じゃ無くてテレパシーを使えばいいって?
……無いんだなこれが。
テレパシーは相手に意味をそのまま伝える必要があるんだが、その為には魂がどのように言語を意味として理解しているのかを完全に理解している必要がある。
そんなもんどうやって使えと?
「え? 神様ですか?
も、もしかして……わ、私の演説、聴かれてました?」
『ああ、俺だ。
……ま、まあ、いい演説だったと思うぞ?』
「ひゃ、ひゃい! ありがとうございます!」
『で、少しやって欲しい事があるんだがいいか?』
「はい、なんなりとお命じください!」
『孤児院にいるはずのフォルという苗字の無い孤児を探してくれ。
鍛治が上手い少年らしいから見つけたら俺に連絡してくれ』
「わ、分かりました」
よし、とりあえずはこれで問題ないだろう。
先に鍛冶場でも作っておこうか?
神器の完成を急いでいるという訳では無いので、のんびりと現代知識でも覚えつつ技を磨いてくれればいい。
■
「ふぉ、フォルと申します!」
「ふむ……」
あれから2時間ほどでフォルが神殿までやって来た。
赤い髪をした小柄な少年で、ドワーフのイメージとはかなり違うがそこは別に問題ではない。
魔力はまあ、一般人と言ったレベル。
「フォルよ、俺の下で働く気は無いかな?」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、とりあえず今どのくらいの才能があるか分からん。
というかどこまでの事が出来る?」
「か、簡単な鍛治なら一通り。
彫って作るのでしたら大抵の事は!」
「彫刻か、試しに何か彫ってみるか……。
とりあえず着いてこい」
俺がフォルを案内するのは神殿のかなり奥の方に作った鍛冶場だ。
設備は作り方が全く分からなかったので人力で6000度まで加熱できる炉とか金槌とか金床とか、必要そうな物を適当に作っておいた。
内部は魔力で光を灯しているので神殿の中とはいえかなり明るい。
「す、凄いですね。
まるで昼間みたいです」
「明るい方がいいだろ?
それよりも必要な物はあるか?」
「ちょ、彫刻に使用する小刀を頂ければ!」
あ〜、彫刻刀か。
……えーと? 平刃とか丸刃とか色々とあったよな?
20種類くらい作ればいいか?
全てに限界まで強化魔法を付与して圧倒的な耐久力を持たせておく。
もう超鋭角なものにこうして耐久性を増大させる魔法を付与すると、とんでもなく切れ味が良くなるのでこれでどんな金属にでもサクサクと彫刻できるだろう。
「この位でいいか?」
「す、凄い……、あっという間に金属を加工なされるんですね!」
「うん、ゴリ押しも良い所なんだが……。
間違いなくこの世に存在する中では最高の逸品だと思うが……これでいいか?」
「は、はい! あ、ありがとうございます!
そ、それにしてもこんなに種類があるんですね……」
「先の刃の形を見て自由に使い分けてくれ。
センスの欠けらも無い俺よりも、お前が考えて作った方が良さそうだしな……」
最後にそう言って俺はプラチナの塊を加工して何の変哲もないロングソードを作り出した。
今回彫刻してもらうのはコレだ。
ゲーム風にするのなら白金の剣とかだろうか?
ん? 神剣は作らないんじゃなかったのかって?
この剣はメソポタミアとかエジプトとかその辺の文明が誕生しそうなところの岩に差し込むつもりである。
ただ、岩が風化してもあれなので『この剣は選ばれし者にしか抜けない』とか岩に記載して全力で補強しておく。
……読める人が現れるのかどうかは知らないが、誰にも抜かせるつもりは無いので間違いなくそのうち発見されて伝説になる事間違いなし。
メソポタミアってどこだっけな……。
まあ、アラビア半島のどこかに刺しておけばいいだろう。
……その為にはアラビア半島探しから始める必要があるんだが。
「これにカッコいい感じで刻めるか?
あと金で装飾したい部分があるならそこに積んである延べ棒の中から使うといいぞ」
「き、金属に彫刻するんですか?」
「その彫刻刀を使えばどんなものでもパンのようにサクサク切れると思ってくれ。
だいたいどのくらいで仕上げられる?」
「そ、そうですね、ふ、2日ほど頂ければ」
「分かった。
ここにあるものは自由にしていいからお前の全力を見せてみろ。
他に何か困った事があれば自由に聞きに来てくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
うん、まあこんな所でいいだろう。
俺も自分の研究を進めるとしますかね。
とは言っても今の所は総当りゲーなので、魔力を流すだけの全自動作業である。
……せっかくだし空間魔法でも開発してみるか?
■
まず今の所把握しているのはこの世界が11次元だと言う事だ。
平行世界もあるようなので実質的には12次元と言えなくもないんだが、とりあえずは11次元という事でいいだろう。
で、通常の次元が縦、横、高さの3つに時間を加えて4次元という訳だ。
で、残りの7次元がどこにあるのかと言うとそのうちの6次元は超コンパクトに折りたたまれている。
うん、言っていて俺もよく分からないんだが、カラビ・ヤウ多様体だったか?
そんな形をしているらしい。
残りの一つは重力が関係する次元で、こっちはどんな形をしているのかよく分からない。
……いや、まあ要するに空間は折りたためるという事なので、魔力でゴリゴリに空間そのものを完全に捻ってやれば外部からは一切干渉できない不思議な世界が作れる可能性があるということだ。
「……えーと?
とりあえず重力遮断結界を使って余剰次元方向に捻りまくってみるか?」
どうやるかって?
気合いだよッ!!
ふぬぬぬぬぬぬゥゥッ!
全力で魔力を込めつつ、空間を捻って捻って捻りまくると、結界で覆われた3次元空間は完全に消失しそこを中心に世界そのものが歪んでいるように感じる。
というか実際にこの部屋の時空間がちょっと球体状に歪んでいる。
確かにほんの10cm程度の差だが何か不思議な感覚がする。
そこに空間がある筈なのに触れる事が出来ないのだ。
天井から床までの距離はどこも同じはずなのだが、切り取られた空間が存在している所が一番低くなっているように感じる。
もちろん壁と壁の距離も完全に違う。
「ダメだな、どうやったってこの方法じゃここに何かがあるって分かるぞ……」
他の案は無理やり空間を拡張して拡張した空間を捻じるという事と、空間に穴を開けて実際に存在する倉庫に接続するというものだ。
……まあ、取るなら空間を拡張してやるほうかな?
拡張して作り上げた空間をさっきみたいにねじ切ってワームホールの様なもので中と外を繋ぐ、これでアイテムボックスのできあがりというわけだ。
「あ、一応これ動かせるのか……」
この空間を元に戻そうと気合いで触ってみると、歪んだ空間を手で掴むことができた。
地球がものすごいスピードで移動しているのでそれでこの空間が動かずにここにあったという事は、地球の動きに伴って周囲の空間そのものも同時に動いているのかもしれないな。
これは嬉しい誤算である。
これならワームホールなんて作らなくても普通に空間を常に持ち運んで一部を元に戻して中身を取り出すなんて事もできるだろう。
……わざわざ空間を捻じる必要があるのでかなり面倒臭いのだが。
いや、そんな事をしなくても普通にバッグの中に物凄く広い空間を収めれば実質的な世にも奇妙なアイテムボックスのできあがりだ。
だが俺でもめちゃくちゃ疲れるので、作るとしてもほんの二、三個になるような気がする。
「やっぱり目指すのはAUOのアレだよなぁ」
あの宝物庫が作れればもう何も言うことは無い。
何も無い所から自由自在に入口を出せる空間収納が間違いなく最高位収納魔法だと思う。
俺が名付けるならばそう、大神ウロの小さな小窓。
剣を発射とかいうバカバカしい事をする気は無いが、ここから鎖をバーっと発射して相手を一瞬で拘束するとかやってみたい。
あと普通に鎖を鞭のように使って叩きつけるだけでもかなり強いと思う。
「よっしゃ! やる気出てきたぞ」
とりあえずは空間を拡張するという事だろう。
だがもうこれにはちょっと見当がついている。
まず11次元の結界球を作ります。
んで、この球体を無理やりに外側に拡張するように引っ張る。
次元がコンパクト化されている?
なら無理やり立体になるまで引っ張れば良いじゃない!
俺が出した結論とはつまりゴリ押しである。
「ウラァァあァぁァぁぁッ!」
俺の全力。
文字通り神の如き力を誇る俺がその全ての力を使って空間を無理やりに引き伸ばす!
なんか全力で宇宙そのものが抵抗してきている様な頑丈さだが、そんなものは知ったことではない。
「うぐぐぐぐっ、あ、いった」
俺が全力魔力を行使し続ける事約30分、余剰次元が引き伸びたと言うよりも他から空間そのものが流れ込んできたような感覚と共に一気にこの部屋が広くなった。
元々10メートル四方で高さが3メートル程だった空間が、半径100キロメートルは優に超えるであろう巨大な球形状の不思議空間に早変わりだ。
これには匠もビックリ。
「……って、逆に広くなりすぎじゃね?」
さらに、不思議な事に歩けばほんの少しでその膨大な距離を移動することができる。
なんといえばいいのか、だまし絵の中に入り込んでしまった気分だ。
箱の体積よりもその中にある球の方がデカい感じと言えば伝わるだろうか?
宇宙の 法則が 乱れている!
まず紙を思い浮かべてくれ、それを丸めて円錐を作ってそこに上から見て円になるように線を引いてみてくれ。
そしてこれを平面だと思ってくれ、円錐が円柱に近付けば近付く程に書いた円が外径に近付いて行くだろう?
そして、最後に円錐の形が無くなって完全な円柱になった時に外形と一致する。
この時に円の大きさが変わらないように外形の方を狭めて出来た上が大きい円錐台、これが俺が見ている光景だ。
「えーと、これを元通りに切り取ればできあがりだな」
……いや、これ中に入れるのは余裕だろうけどもどうやって取り出すんだよ!?
入口を開けて手で突っ込むとかいう青だぬきのような真似はどう見ても無理ゲーだし、自動的に取り込むのならまだしも、飛び出すようにするなんてことも無理だ。
俺やノインならばアイテムを魔法で引っ張る事ができるのだが、たとえ俺でも物が増えてきたら望んだものを取り出すなんて不可能な芸当である。
仮に望んだものを取り出せるとしたとしてもテンパった時の青だぬきのようにあたりに物を取り出しつつ展開するしか方法は無いように思える。
……まさにクソゲーである。
「あー、そのうちこれも考えなきゃなぁ」
とりあえずは俺の天をも縛る白き鎖専用という事にしておけば問題は無いだろう。
そのうち地球外から白金を大量に掻き集めて物凄い長さの鎖にするつもりなので一つくらいは専用空間を作ってもいいのかもしれないな。
ブクマ、評価等ありがとうございます!