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カクテルとサワー

 エルフ族の戦士とドオル族の老兵と新兵を統率する。

 組織するとき、各自の名前と年齢を聞くが、平均年齢は60を超える。


 エルフの戦士が格段に引き上げているわけであるが、ドオル族の戦士もなかなかに歳かさだった。


「ドオル族は戦闘民族でございます。戦闘に適した肉体を維持するため、若い状態が長いのです。つまり初老に見える人はよぼよぼのおじいさんにあたります」


 とはクロエの説明であるが、ということはクロエも見た目より歳上なのだろうか。


 尋ねると、

「秘密でございます!」

 と人差し指を自分の唇に指す。


 とても可愛らしいが、見とれている暇はない。


 とりあえず新兵と老兵を交互にならべ、互いに補い合うように配置する。新兵は体力が余っているので兵糧などを多めに持たせる。その代わり老兵は新兵の面倒を見る。


 そのように指導するが、同じ種族同士ではそれが通用したが、やはりエルフとドオル族の相性は悪かった。


 ことあるごとに喧嘩をしてしまうのだ。

 まずはエルフ族から肉ばかり食べるドオル族にクレームがくる。

 肉は美味くない。臭う。肉ばかり食べるから体臭がする。粗暴になる、などだ。


 たしかに肉食は臭うが、言いがかりに近いような気もする。と思っているとドオル族も言いがかりをつけてくる。


 茸ばっかり食べやがって。きどっている。茸は量がかさむ。カロリーがない、などだ。


 どっちもどっちだな、と思いながらも解決策を考えていると、クロエが知恵を授けてくれる。


「ここは茸料理と肉料理をコラボさせたらいかがでしょうか」


「胃袋から掴むってわけか」


「左様でございます」


「エキュレートも肉自体は好きだった。ということは肉で出汁を取り、茸をメインに鍋でも作れば気に入ってくれるかもしれない」


 ただそれには――


「優秀な調理人の力が必要だ」


 と言うとクロエはにこりと微笑む。


「自慢ではないですが、私は料理大好きっ子です。おひいさまの館でも料理番をしており、大量に料理を作るのも得意です」


 ちなみに、と続ける。


「おひいさまの料理スキルもなかなかのものです。私が鍛えました」


 その言葉にシスレイアは呼応する。


「はい。クロエにはとても厳しく鍛えられました。宗教的に肉食がNGなお客様がきたときは、魚料理を。肉を一切使わずにフルコースを作ったり、美味しい出汁を取る方法も知っています」


「さぞ良いお嫁さんになるでしょう。どうですか、レオン様、ここはひとつお姫様で」


「一家に一台。お姫様と冷蔵庫、という感じもするが、今は結婚よりもエルフとドオル族を融和する料理をお願いしたい」


 と言うとシスレイアとクロエはにこりとうなずく。

「承りましたわ、レオン様」

 その笑顔は花のように可憐であった。


  

 その後、シスレイアとレオンはふたりでレシピを考案し、ドオル族とエルフ族が同時に満足するメニューを開発する。


 行軍中、それを輜重隊に伝授すると、皆に振る舞う。

 彼女たちの考案した茸鍋はまたたく間に兵士を魅了する。


 ふだん、おかわりをしない兵士がおかわりをし、鍋のそこに残った汁でリゾットを作ってくれと懇願するものものも出てくる有様。


 大成功である。


「しかし、美味しいご飯を食べただけでこんな効果が出るのは不思議です」


 不思議そうに首をひねるクロエ。

 俺は説明をする。


「同じ釜の飯を食った仲、という言葉もある。言葉や文化が違っても同じ飯、同じ酒を飲めばわかり合えることも多い」


 と言うと俺は新兵に酒樽を持ってこさせる。


「エルフにお酒を振る舞うのですか?」


「ドオル族は強い酒を好む。一方、エルフはあまり飲まないと聞く。しかし、エルフとて酒が飲めないわけではなかろう」


 と俺はドオル族の蒸留酒を水で割るように指示する。そしてそれにレモンの絞り汁を入れるように。


「なんかジュースみたいですね」


「そうだな。カクテル、あるいはサワーというらしい」


 こことは違う世界では、このような酒が女性や酒が強くないものに人気なのだ。

 酒を飲み慣れないエルフには最適な酒だった。


 サワー美味い、と、どんどん酒を飲み、頬を朱色に染め上げている。


 すると我が一族の酒を気に入ってくれた、とドオル族も気をよくし、一緒に酒を酌み交わすようになる。


 互いに肩を組んで歌う――という状況にはさすがにならないが、それでも互いに一目置き合うようになる。


 少なくとも戦闘中、互いに足を引っ張るようなこともないだろう。

 そう思った俺は安心してエルフとドオル族を混合して編成した。


「さすがはレオン様です。もう彼らの心を掴みました」


「まだ完全に掴み切れてはいないが、少なくとも反乱は起こされないかな」


 そう言うと改めて彼らを見る。

 皆、いい面構えをしていた。


「さすがは歴戦の傭兵種族ドオル族と、森の守り手のエルフ族だ。皆、いい面構えをしている」


 彼らを頼もしく思いながら、行軍ルートを定める。

 地図を指さしながら言う。


「斥候の報告、オーガの被害状況、それらを鑑みるにおそらくオーガの巣はこの岩穴にある」


「恐らくはその通りでしょう」


 シスレイアも同意してくれる。


「この地点まではエルフも案内ですんなりいけると思う。問題なのはどうやって巣穴からやつらを誘き出すか、だ」


「巣穴は暗くて狭いですからね。それに敵地ですから地の利は向こうにあります」


「そういうことだ。最終的には彼らを誘き出し、エキュレートが待ち構えている湖上に誘い出したい」


「レオン様ならば簡単に叶いましょう」


「まあ、無策にはいかないよ」


 そう言うとシスレイアはにこり、と微笑むが、少しだけ心配そうな顔をする。


「どうした? お姫様、やはり心配なのか?」


「まさか、レオン様には全幅の信頼をおいています。――気になるのはレオン様ではなく、クロエのほうでして」


「クロエ?」


「はい。浮かない顔をしています」


「そうか? いつも通りに見えるが……」


 テキパキと働き、兵士の食事を作っているメイドさんの様子を見る。変わったところはない。むしろ生き生きしているように見える。


 しかしお姫様にはいつもとは違うように見えるようだ。長年、一緒に暮らしてきたものだけに分かる変化があるのだろう。


 俺は自分の鈍感なところ、女心の分からなさを知り尽くしていたので全面的にシスレイアを信用する。


 行軍しながらクロエにそれとなく憂鬱な理由を聞きだすことにした。

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