クロエとレオン
粛々と行軍をするエルフ族とドオル族。
先頭はこの森に詳しいエルフ族が勤めている。
険しい道などを通るとき、ドオル族はナタで小枝を薙ぎ払う。
それを見て木々を愛するエルフたちはむかっときたようだが、特に文句は言わなかった。
植物を操り、小枝を避けられるのはエルフ族の特権、それができない種族は茂みをナタで、切り開くしかない、というのは分かっているのだろう。
なので喧嘩になることはなかった。
「これもすべてレオン様のおかげですね」
シスレイアは微笑むが、それよりも問題なのは無表情に行軍しているクロエだ。
彼女は先ほどからぶすっとしながら求婚をはね除けている
自称婚約者のルルルッカを無視しながら行軍していた。
最初、よほど求婚がウザいのかと思ったが違うようだ。シスレイアが言うとおり、なにかあるのだろう。
そう思った俺はルルルッカが去ったあとに、なにげなくクロエの横に並ぶ。
「…………」
「…………」
両者、最初は無言であったが、沈黙がいたたまれなくなった俺は、クロエのメイド服の一部分を褒める
「……頭に付けているそれ、似合うな」
「ホワイトブリムですね……ありがとうございます……」
「…………」
「…………」
それで会話が続くことはなかった。だが、クロエという少女は大人なのだろう。
「……っぷ」
と吐き出した後に、俺の意図を理解してくれたようだ。
「一〇〇〇〇の兵の前でも臆することがない軍師レオン様が、小娘である私に臆しています」
「……臆してはいないが、君が少し元気がないと聞いて」
「おひいさまですね。勘が鋭い」
「なにかあったのか? 体調不良か?」
「女は月に一度、元気がなくなります」
「……前に俺が言って怒られた記憶があるのだが」
「女は堂々と言っていいのです。ま、嘘なのですが」
「嘘なのか」
「はい」
「では先ほどから求婚をしてくるルルルッカがうざいのかな?」
ちらりと後方を見ると、いまだ闘志に燃えるルルルッカが見える。俺の話が終ったら、再び求婚をするようだ。道すがら咲く野花を摘んでいる。
――毒草も摘んでいるのは、彼女が戦士として育てられた証拠だろう。花ならば全部同じだと思っているのだ。
まあ、俺も同じようなものだが。さすがに毒草と普通の花の区別は付くが。
俺の視線に気が付いたクロエはくすくすと笑う。
「ルルルッカ様は本当に面白いお方です。もしも結婚をすれば退屈とは無縁でしょう」
「ならばしてやればいいじゃないか」
「それではレオン様もしてあげてください」
「それは厭だな」
「なぜですか?」
「俺には成すべきことがある」
「私もです。まずはおひいさまの幸せの道筋を付けなければ結婚などする気にはなれません」
「なるほど。しかし、結婚はともかく、心にある憂いを取り除くのは今でもできるんじゃないか?」
「……どういう意味ですか?」
「いや、なにか悩み事があるから元気がないのだろう。この森にきてから憂鬱だとお姫様は言っていた」
「……おひいさまには隠し事はできませんね」
「女同士、ましてやともに髪を結いあった友にはな」
「ならば正直に話すしかないでしょう」
と言うと後方にいるルルルッカを見つめる。
「彼女が関係するのか」
「そういうわけではないのですが」
「だが彼女には聞かれたくないことか」
「はい」
「では少し離れるか」
と言うと後方に下がり、密やかに彼女の話に耳を傾けた。
ふたりきりになるとクロエは独白するかのように口を開く。
「……実は私には兄がおりまして」
「まじか」
「……意外でしょうか?」
「ちょっと意外だけど、よくよく考えればクロエも木の股から生まれてきたわけじゃない。親もいれば兄弟もいるだろうな」
「はい、その通りです。レオン様にもご兄弟はおられるのですよね?」
「姉がひとりね」
「ご健在ですか?」
「…………」
言いよどむ俺の姿を見て察してくれたのだろう。それ以上はなにも言わない。俺としても今は自分の家族について話すときではないと思ったので続ける。
「その兄が君の憂いであるのだな」
そう言うと彼女はこくりとうなずいた。




