⑨ 末娘の幸せは家族の幸せですの
いよいよ物語の最終です。リモーネは思念を伝えることができるのでしょうか?
「アクイラさま。すごいです!」
ビランチェ公爵邸の図書室は先日案内してもらったソレイユ公爵邸のものより広くて蔵書数も多い。
ダンスパーティーが開けるほど広い部屋には何十もの書棚が並び、天井までびっしり本で埋まっている。それをキラキラの瞳で見回しているリモーネの横顔を、「ああ、この笑顔をずっと見ていたいな」と思いながらアクイラが見つめていた。
「好きな本を選ぶと良い。何冊でも貸してあげる。読み終わったらすぐに、次のを貸してあげる」
我ながらなかなか上手い言い方だ。こうすれば新しい本が入るたびにリモーネを呼ぶことができる。
リモーネは図書室をぐるりと一周して、その中から「オリバー・グレイ」の書いた歴史小説の新刊を選んだ。
これは7歳の少女が読むには難しい言葉づかいで書かれているのだが、歴史が大好きなリモーネはこのシリーズを既に6冊読んでいる。もちろん難しいところは姉たちに解説してもらいながらではあるが。
「リモーネ嬢はオリバー・グレイが好きなのだね?僕も今度読んでみるよ」
アクイラは彼女の好きな物を1つ知ったことでご機嫌だ。
「アクイラさま。宜しければ鳥の図鑑を一緒に見ませんか?」
リモーネからの提案に途端に表情が倍ほど明るくなった。
「そうだね。僕は鳥の研究をしているから、見ながら説明してあげよう。面白い話がたくさんあるんだよ」
(ええ、知ってますよ。ここに来るまでの馬車の中でティグレさまから、アクイラさまが鳥好きだと教えていただきましたからね)
そうして、まだまだ本気の恋になるまでたっぷり時間があるアクイラとリモーネが並んでソファに座る。
その姿は、日が傾くまで変わらなかった。
* *
その夜、アクイラが「正式にリモーネ嬢を婚約者にしたい」と願い出ると、父オルカ・ビランチェ公爵と母カメリア公爵夫人は一切の条件を付けずに了承した。
じつは数日前にソレイユ公爵から「私は機嫌が良い」とだけ書かれた手紙を受け取って、それが何を意味するのかオルカはすぐに理解していたのだった。
1週間後、再び真っ赤なバラの花束と婚約誓約書をティグレに持たせた。
アクイラとリモーネの婚約が公になると、リモーネの淑女教育が本格化したが苦痛ではない。「素敵な王子様から愛を囁かれたい」と夢見てきた少女には厳しい淑女教育すらも夢のうちなのだ。
そしてもう1人。
怒涛のアタックを始める赤髪の騎士団長がアリエーテ家に足しげく通うようになるのは、もう少しだけ先のお話。
* *
この日はリモーネがビランチェ公爵に残留思念を伝えるために極秘に公爵家を訪ねている。
レザーラが「聞きたいか」という確認を取ると、オルカは「どんな言葉でも、ひと言でも、恨み事でも構わないから聞きたい」と即答したのだった。
そしてアクイラを含めた全員を屋敷から出して、ソレイユ公爵立ち合いのもとでリモーネとアリエーテ子爵、それとビランチェ公爵の4人で「内容は非公開」として行われた。
リモーネはオリーヴァ前夫人と向かい合う形で椅子に座っている。
その他の者たちはリモーネの少し後ろに座った。
「では、今からオリーヴァ様の思念を嘘偽ることなく、わたくしが聴けることを全てそのままオリーヴァ様のお言葉でお伝えします」
そう言うと暫く肖像画をじっと見つめた。
その間、息を殺して3人が待つ。
リモーネが唇を窄めて長く息を吐くと、まるでオリーヴァが乗り移ったようにゆっくりとした口調で語り始めた。
「旦那様、わたくしは干しブドウは嫌いでしたのよ。旦那様の好物でしたから黙っていただきましたが、結構苦痛でしたのよ。ウフフ・・・。
それから旦那様が図書室の梯子を倒してわたくしの肩にぶつけてしまったことがありましたよね。傷が少し残ったのをずっと気にされていましたが、本当に何とも思ってませんのよ。
ああ、ダフネとローザですが、旦那様のことですから、良い御縁に恵まれているのでしょうね。
・・・旦那様。わたくしは心から旦那様をお慕いしていますのよ。でも、わたくしが死んだ後は、いつまでも悲しまずに良い方と跡継ぎを作ってくださいましね。それだけが申し訳なくて・・・。
旦那様。いつまでも笑っていてくださいね。わたくし、これからもずっと、このお屋敷で見ていますから。
旦那様、旦那様。応接室の風景画の絵の後ろにお手紙を残してますのよ。もう気付かれたかしら?
・・・旦那様。では、永く生きてくださいましね。
・・・オルカ様、わたくしを妻にしてくださってありがとうございました」
ビランチェ公爵はもちろん、ソレイユ公爵とアリエーテ子爵も鼻を啜りながらボロボロ涙を流している。
「以上にございます」
* *
今日もソレイユ公爵家の紋章が描かれた馬車で淑女教育を受けに行くリモーネ。
次期ソレイユ公爵となる従兄のリエーブル侯爵の貴族会議用のコートの襟に、頼まれた刺繍を施すぺスカ。
そして、今日もまた「どうしてプロポーズ成立しちゃったんだろう?」と呪いの依頼を失敗して首を傾げるフィオーレ。
そんな3姉妹の成長を目を細めて温かく見守る父。
その胸には娘たちが知らないペンダントが忍ばせてある。
ペンダントの中には母の思念が遺された若き日の母の絵が入ってあるのだが、それが明かされるのは、まだまだ先のお話。
— 完 —
フィオーレの独り言
「リモーネも幸せになれそうだから、次はぺスカね。・・・ティグレ様にどなたか紹介していただこうかしら?」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は、末娘の恋物語をお届けしましたが、あと2人の恋の話も用意しています。
また別の機会にお届けできれば、と思っています。
現在、年内公開に向けて長編小説を執筆していますので、ご縁がありましたら私のページを覗いてください。
静林
(ちょっと宣伝)小説家になろうにこの物語とは別に完結済みの長編小説を2作品公開しています。時間を埋めたいときや、眠れない夜に読んでいただけると幸いです。(どちらもハッピーエンドです)




