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アリエーテ子爵家の3姉妹は能力持ち~末娘リモーネ編  作者: 静林


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① わたくし、確かに呪いましてよ?

この物語は9話で完結してるので気軽に楽しんでいただけたら3姉妹も喜びます。


「これが真実の愛だとわかったから、この美しい令嬢と結婚する!」


 侯爵家主催の舞踏会で、侯爵令息が声高らかにそう宣言したのである。

 それまで賑わっていたボールルームがその瞬間、シーンと一切の音を失った。

 勝ち誇ったように清々しい顔の令息の隣で、満面の笑みを浮かべ、小さくガッツポーズをする男爵令嬢。

 2人の後ろでハンカチを口に当て、血の気を失って今にも倒れそうになっている侯爵夫人と、禿げた頭を抱える侯爵をこの場に集った全員が見た。

 恐らく今晩、屋敷中に侯爵夫人の怒り狂った声が響き渡るに違いない。


(あれ?今、「結婚する」って言ったよね?「婚約破棄」じゃなくて?)


 そんなハズはない。聞き間違いだろうか?

 しかし、目の前では唇を重ねる2人が見えているし・・・。


 フィオーレは頭の上にいくつものハテナマークを浮かべて、この状況に至った経緯を振り返ってみた。



 職業斡旋ギルドに「呪いのお仕事、依頼おまちしています」の貼り紙をしたのが1か月前。その貼り紙を見て、仕事の依頼をしてきたのがその3日後だった。

 ギルドの職員から受け取った依頼書を確認し、その指示通りにとある侯爵家を訪ねたのがその翌日。

 広い応接室には、ソファにでんと座るちょっと太った侯爵夫人と、ソファの横に立つ気の弱そうな執事がいた。


「あなたが『呪い屋』のフィオーレさんね?」

「はい。お初にお目にかかります。アリエーテ子爵家長女のフィオーレ・アリエーテにございます。呪いのお仕事の依頼、ありがとうございます」


 仕事用の黒いドレスのスカートを摘まんで会釈すると、夫人から「どうぞ」と座るよう言われた。コブラン織りの豪華なソファに腰掛けると、ニコリともしない人形のような侍女が紅茶を置いて出て行った。


「あなたから全部説明してちょうだい」


 これまた表情が読めない侯爵夫人が、覇気のなさそうなひょろひょろの執事にそう言って、自分はティーカップに真っ赤な唇を付けた。


「はい、奥様。・・・アリエーテ様に呪っていただきたいのは、とある男爵令嬢でございます。半年ほど前に公爵家で開かれたお誕生日会で知り合われまして、お坊ちゃまがその男爵令嬢をえらく気に入り・・・・・・」

「違うわ!あの女狐に誑かされたのよ!男爵令嬢ごときが!それで勝手に『婚約する』と言って、夫の紋章紙を使って婚約証を作って教会に提出してしまったの」


 紋章紙とは、その家の家紋が透かしで入れられた特別な用紙である。そこに書かれると、法的にも効力が生じるほどで迂闊に使用して良いものではない。

 おまけに教会に提出してしまったとあれば、ひっくり返すのは難しい。


 侯爵夫人は怒り心頭の様子で、ティーカップをガチャンと乱暴に置いた。その拍子に紅茶がポタリとテーブルクロスに零れたのを、フィオーレは「ああ、紅茶のシミってなかなか落ちないのに・・・」と見ていた。


「それで、お坊ちゃまの気持ちがそのご令嬢から離れるように呪っていただきたいのです」

「3週間後に当屋敷で花の日の舞踏会を開くので、それまでに仕事をしてちょうだいね」


 依頼は単純で簡単なものだったハズだ。

 令息からのプレゼントの花を枯らしたり、デート中にミツバチの大群に襲われるというような「可愛らしい」呪いをかけるだけなのだから。

 それなのに、今、たった今、令息はその男爵令嬢との結婚を多くの貴族の前で宣言してしまったのだ。

 フィオーレは首を傾げて、どこで何を間違ったのかを考えるが思い当たる節がない。


(また失敗してしまったのだわ)


 後日、男爵令嬢とケーキショップでばったり会った時にその答え合わせができた。

 枯らしたはずの花は箱一杯のマーガレットになり、襲撃してくるはずのミツバチの大群は綺麗な蝶に変わっていた。それを男爵令嬢が感動して、ますます令息のことが好きになったのだと、顔を赤らめてフィオーレに打ち明けてくれた。


 仕事の依頼金は半分を前金で受け取っている。上手くいかなくても返す必要はないが、侯爵夫人に合わせる顔がない。


 フィオーレはパチパチと拍手している来場者たちに隠れるようにして、侯爵邸から逃げ帰った。


「ああ、フィオーレ嬢は後ろ姿も美しい・・・」


 あわあわと焦って屋敷を出て行く銀髪の子爵令嬢を、1人の赤髪の騎士団長が目を細めて見ていた。


     *     *


 フィオーレ・アリエーテ、20歳。7年前に母を亡くしてからは3姉妹の長女として貧乏子爵家を父と支えている。

 来年デビュタントを迎える次女ぺスカに、そこそこ高位の貴族の3男と良縁を結んでもらい、家督を継がそうと目論んでいるのだ。自分は旬が済んだ「縁起の悪い娘」なので、結婚はできないだろうと当に諦めている。

 ぺスカが結婚した後は、父と2人、田舎でのんびりと花でも育てながら「呪い屋」をすれば良い。2人なら食べるのに苦労はないだろう。贅沢はしたことがないので、欲もなかった。

 だからあと1年、何としてもぺスカを立派な令嬢に仕立てるためのお金が必要だというのに・・・頑張って呪い倒しているのに・・・どうも上手くいかない。


「フィオ姉さま。今夜も失敗してしまったの?」

フィオーレの独り言

「侯爵夫人があの後、気絶したらしいけど大丈夫かしら?でも、あの男爵令嬢はとても素直で優しい方だから、きっと公爵夫人も納得されると思うのだけど・・・」



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