第六十四話:紅蓮の弓矢と南の岬への同期
――ガガガ、ギギギギギッッッ!!!
晴明の父親であり、元掃除屋の探偵――泰臣が放った【急急如律令:漆黒の絶対縛鎖】が、長田神社の境内を埋め尽くしていた新型怨霊どもの影をガチッと地表に縫い付け、完璧なシステム固定を作り上げやがった。
「博雅、前だけを見て走れッ!」
「おうっ、泰臣さん! 瀬戸の親分さん、その盾は一枚も割らせねえ!」
博雅は獰猛に笑ってコンクリートの床を蹴り、高校生ながらもその頑強な肉体から、まばゆい『黄金の氣』を限界突破のクロックアップ(最大出力)で爆発させた。
背後では、能力に覚醒したばかりの新一年生――弓削が、顔を真っ赤に染めながら、今にも壊れそうな半透明の防壁(紅蓮の盾)を必死のステータスで維持し続けている。大物幹部が九州へ向かって手薄になったこの神戸の西セクターで、歳の若い後輩が命懸けで防衛パッチを当てている。源家の次期当主として、男の面子を潰されたままログアウトできるわけがねえよな。
「――俺の黄金の矢は、どんな特級バグ(怪異)も、一パケット残さずブチ抜くッッ!!!!」
博雅の咆哮とともに、その太い両手に凄まじい高密度で凝縮された『氣の弓』がレンダリングされ、弦が引き絞られる。番えられたのは、眩い閃光を放つ純度100%の極大の矢だ。
狙うは、アザミがこの長田神社の地脈の底に仕込んだ、ドス黒く拍動する『第二の依り代』の正確な座標――。
――ヒュ、ドガァァァァァァンッ!!!!
放たれた黄金の矢は、音速のプロトコルを置き去りにして夜の境内を鳴動させ、アザミの第二の依り代を正面から文字通り分子レベルで粉砕した。
不気味な悲鳴のエラー音が響き、空間に滞留していたドス黒いノイズが綺麗に消滅していく。
西の長田セクター、完全クリア――。
だが、安堵のタイムラインに浸る猶予など、この最悪な全面戦争のストリートには一ビットも残されていねえ。
依り代の粉砕と完全に同期するように、俺たちの耳のインカムから、有世の管理する電脳タブレットの激しい電子ノイズ(ザッピング音)が走り抜け、次の戦場のデータが頭の中に強制上書き(強制転送)されてきやがった。
――場面は一転し、南の重要拠点、和田岬セクター。
ザザ、ザーッ、とノイズが晴れた網膜のOSの向こう側。
そこでは、ユニフォーム代わりにまとった戦闘用コートの袖をバサッと引きちぎるようにして腕を捲り、爛々と輝く瞳を限界まで鋭く尖らせた、元・女子バスケ部のエース――道満が、不敵な笑みを浮かべて暗黒の霧のなかへとログイン(侵入)を完了させていた。
「おい、睦会のクソども。……うちと晴明のイチャイチャする時間を邪魔したツケ、その身に刻んであの世へ送ったるわ!!」
道満のその最高に狂暴な独占欲に満ちた音声ログが、潮の匂いが漂う和田岬の空気に放たれる。そのすぐ傍らでは、菱王会系山本組の組長――山本が、返り血を浴びる覚悟の若い衆たちを引き連れて、手にしたハジキ(拳銃)の防衛線を真っ正面からブート(展開)させていやがった。
東西南北、同時多発カチコミ。
東、西をクローズし、タイムラインはついに南の岬の乱闘ドメインへと完全同期。ヤクザの冷徹な銃弾と、道満が解放する七体の暗黒式神の最大火力が、闇のなかで激しく、そして容赦なく火を噴き始めようとしていた。




