フィランダー視点:5
俺はめでたく王立学院を無事に卒業。
三年間同じクラスで学友だったヒューバート・ウィングフィールドとは今後
「約束を取り付けて会う」
のでなければ会えなくなる。
幸い俺もヒューバートも入学後直ぐに冒険者登録していて今ではBランクだ。
大抵のダンジョンは出入りできる。
「そのうち南部か西部のダンジョンへ一緒に行ってみたいよな」
という話はついているので今後は
「2、3ヶ月に一回。泊まりがけの旅行でダンジョン巡りをする」
形で友情を保つ事になる。
まぁ、どの道、東部の情報逐一を仕入れて断罪をスムーズに進める準備は今後も怠るつもりはない。
困るとしたら「情が移る」という事だけだ。
手始めに王都近郊のCランクダンジョンへと行ってみた。
そこで俺は
「運が良いのか悪いのか」
悩む事となった。
何せ先日ダリウスから聞いた【魅惑】スキル持ちの少女と鉢合わせする事になったからだ…。
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護衛騎士の中ではリチャード・イーグルとヴィクター・イーグルが群を抜いて強い。
ダンジョン内では何があるか分からないので
Cランクダンジョンと言えどもイーグル兄弟を伴う事にした。
リチャード、ヴィクター兄弟のイーグル家は、本家こそ東部貴族のイーグル侯爵家だが…士爵家から身を起こしたこのイーグル家は十何代も前に枝分かれした分家。
中央騎士団で出世して代々近衛に任じられてきた伯爵家。
いずれ侯爵位へと陞爵される予定だ。
領地を東部に持たないので東部貴族粛正の対象からは外れている。
兄のリチャードの方は既に士爵位を賜わっている。
戦力的には王城の護衛騎士、近衛隊の最高戦力だ。
ただ「女に弱い」という弱点がある…。
イーグル兄弟も俺と同様に学生時代に冒険者登録していて、今ではランクはA。
リチャードならSランク資格も昇級試験を受ければ通りそうな気がするが…
「王都から日帰りで行き来できる場所にSランクダンジョンが無いので資格を取得しても使える場面がないんです」
との事。
【2倍の加護】スキルは戦闘職で頭角を表しやすいがリチャードはその典型。
「娼婦に貢ぎ過ぎて身包み剥がれる事がある」
のが玉に瑕と言われる男である…。
そのリチャード…。
冒険者ギルド、ファイアストン支部のギルド会館にて他の冒険者とぶつかっていた。
互いに前を見ていなかったらしく相手はリチャードとぶつかって後方へすっ転んだ。
「大丈夫か?」
とリチャードが相手を助け起こそうとした所ーー
リチャードの脳内ではリンゴンと教会の鐘の音が鳴ったそうだ。
当人曰く
「運命の出会いをしました」
との事。
柄にもなく一目惚れしたリチャードは、ぶつかった相手とそのまま別れてそれっきりになるのを
「惜しい」
と思ったらしく…
「リチャード・イーグルです」
と馬鹿正直に本名を名乗ってしまった。
相手も
「アンジーです」
と名乗ってはくれたが…
アンジーはアンゼリカの略称でしかない。
「精神干渉系スキル保持者」リストの要注意人物アンゼリカ・メイクピースだとリチャードは気付かなかった。
(姿絵までは情報共有してなかったので仕方ないと言えば仕方ない)
なので
「ソロで活動してらっしゃるんでしたらご一緒にどうでしょうか?」
と勝手に誘ってしまった。
相手が
「良いんですか?是非」
と返事をした後で
「チャドは何をしてるんだ?」
と俺がリチャードに気付き声を掛けた。
(チャドはリチャードの略称でリチャードの冒険者名)
リチャードとお喋りしていた女は金髪で水色の瞳。
高位貴族に多い色目だ。
(この女、貴族の庶子とかか?)
と思いながら目をやるとリチャードが
「この子はアンジーです」
と紹介した。
アンジーと聞いて、つい
(そう言えばハリスがアンゼリカ・メイクピースをアンジー呼びしてたな)
と思い出した。
それでマジマジと「アンジー」を見詰めたところーー
(…うん。アンゼリカ・メイクピースと特徴が一致。姿絵にも似てる)
と分かった。
俺はリチャードに返事を返すのも忘れて
ヒューバートとヴィクターの方へとって返し
「危険人物リストに載ってる精神干渉系スキル持ちの女がリチャードを引っ掛けてる。
リチャードは手遅れかも知れんが、俺達は頭を弄られないように気をつけよう」
と二人に小声で告げた。
「「………」」
ヒューバートとヴィクターが
((えっ?俺達は何を言われたんだ?))
と戸惑ったような表情になり、次いで
「「えっ?!」」
と驚愕した。
「一体どう気をつければ操られずに済むんだ?!」
「なんでそんな危険人物が野放しになってるんですか!」
二人の声がデカいので
(背後のリチャードとアンゼリカに気取られたかも知れない)
と少し心配になった。
「ーー先ず、お前ら。声がデカい。後ろにいるだろうが。あの女、報告書によると【魅惑】スキル持ちだぞ。
婚約者のいる男を誑かして婚約破棄させた前科がある。
俺達の場合は婚約者などはいないが、せいぜい騙されないように自戒しなければならない。
対策としては精神干渉系スキルを持つ魔物への対処と同じだ。
先ずは『精神干渉は精神攻撃である』という事実をしっかりと理解しておく事。そして精神攻撃が仕掛けられたタイミングでレジストする事。
精神干渉が仕掛けられてる時には、よくよく聴覚を意識しておくと、モスキート音に似た奇妙な音が聞こえ眩暈が起こると言われている。
だがそれが別の音に変換されて認識される事もあるので、必ずしもモスキート音が聞こえると断言はできないそうだ。
とにかく幻聴が聞こえたら、それをちゃんと意識すること。そして幻聴を打ち消すつもりで脳内で聖句や座右の銘を唱え続けること。
レジストの成功率は人にもよるらしい。もちろんレジストしようと身構えなければ100%引っ掛かる。頑張れるだけ頑張るんだ」
俺が有り難い対処法を授けてやると…
「関わらないのが一番なんじゃ」
とヒューバートが呑気に正論を宣うたが…
「リチャードが関わってしまってるだろが…」
「スミマセン、ウチの女好き愚兄が…」
俺とヴィクターは既に現状を受け入れて戦闘体制に入った…。
そんな訳でーー
俺とヴィクターは多分ちゃんとレジストできていたと思うが…
リチャードとヒューバートは色々とおかしかった。
アンジーの言いなりになるだけでなく
「アンジーが言って欲しそうな気遣いの言葉を率先してかける」
ようなこまめな男になっていた。
まるで恋人同士のような甘々な雰囲気の会話がすぐそばでなされ、絶えずイチャイチャされ続けたのだ。
ダンジョンへ行って
ダンジョンへ潜って
ダンジョンから帰ってくる間
俺とヴィクターは異常に疲れ果てた…。
リチャードとヒューバートはアンゼリカと
「連絡先を書いたメモ」
をやり取りしていたが…
それは隙を見て俺がスリ取っておいた。
(勿論アンゼリカの荷物からも二人の連絡先を回収した)
その後、解散してから
「あれ?メモがなくなってる…」
「あ、俺のも無い…」
と残念そうに肩を落とした馬鹿二人には
「何処かで落としたんじゃないか?…縁が無かったんだよ。諦めな」
と言ってやった。
俺の仕業だとはバレるまい。
スリのテクニックはハリス仕込みだ。
(ハリスはその道のプロとして食っていけるレベル)
後腐れが生じずに済んで本当に良かった。
めでたしめでたし…。




