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自己犠牲的献身

挿絵(By みてみん)


いつの間にか宿屋に【千本槍】の面々が戻ってきていた。


娼館でスッキリしてきたから機嫌が悪いという事もない筈だ、と思っていたのだけど…

何故かテレンス、ランドン、クラークの顔色は暗い。


「外国人が武器や防具を売ってもマルセル王国では買い叩かれるのは目に見えてるのにな…」


「ああ、だが道理を説明して説得したとして聞き入れる様子じゃなかっただろ」


「ずっと探してた人が見つかったんだ。焦る気持ちは仕方ないんだろうな」

と話し合ってる様子から


(…チェスターが何かやらかしてる、という事なのかな?)

と思った。


私が率直に

「何かあったんですか?」

と訊いても経験上

「何もない」

と嘘をつかれるのは分かりきってる。


話す必要性がない相手には些細な事さえ話さずに済まそうとする秘密主義的感性が冒険者には少なからずある。

どんな些細な情報でもどんな風に悪用されて足元をすくわれるか分からないのが世の中だ。


だが警戒せざるを得ない世の中で警戒し続ければ…

いざ「秘密主義による嘘は人同士の親しみを切り裂くのだ」と分かっても、急に秘密主義をやめられるものでもない。


「何かあったんですか?」

と訊いてみると


予想通り

「何もない」

とテレンスが答えたのだが…


クラークが微妙な顔をして、ランドンがテレンスに向かい

「…いや、お前、そう言ってもどうせ分かる事だぞ」

とツッコミを入れた。


「…チェスターさんの事で何かあったんですか?」

と私が尋ねると


クラークとランドンが顔を見合わせて

「そうだな。客観的には『チェスターが娼婦を身請けしたいと言い出してる』という状況になってる。

まとまった金が居るんだが、外国だという事もあり、冒険者ギルドに預けてる金を引き出すのにも手続きが複雑で時間がかかるし、武器や防具を売って金を作ろうにも買い叩かれる。

チェスターからすれば『ずっと探してた幼馴染みが見つかった』って事なんで、悠長に一度帰国して金を用意してから身請けのために改めて訪れるような手間を省きたがってるんだ。

プレスコットにも(【海鳥の尾羽号】の船長にも)頭を下げて金を貸してくれと頼んでる状態だし、しかも護衛任務も果たせない娼婦を帰りの商船に乗せて欲しいと言ってる。

こっちに難癖つけてきたプレスコットにそんなお願い事をして借りを作ると、後々まで足元見られそうなんで俺達としては反対なんだが…。

チェスターはお前をプレスコットに売り渡してでも幼馴染みの女を身請けして連れ帰りたいらしい…」

とランドンが答えた…。


「…ええぇ〜…?」


(…それって絶対「何もない」では済まない案件だと思うんだけど…。特に船長に狙われてる私は「当事者」にされてるんじゃないの?!)


私がジト目でテレンスを見遣ると

「………」

テレンスはスーッと目を逸らした…。


「…ともかく俺達としては、『人買いから逃げてきたマリーを売り飛ばして金を作ろうなんて言語道断だ』って反対してるんで、お前がプレスコットに売られる事だけは絶対にないと言える。

だが出来る金策はしておかないと【千本槍】メンバー間で遺恨が残るだろう。

なので今日中に日帰りで出来る仕事で金になる依頼を探してたんだが…そう都合良く実入りの良い依頼がある訳もない。

…それで、どうしたものかと悩んでたところだ…」

そう言うランドンの話を聞きながら


(…要は手っ取り早く金をゲットしたい、という事だよね)

と私なりに事情を把握した。


「…私は物の価値とか相場をよくは知りませんが…。アクセサリー型の魔道具とかはどの程度高価なのか分かりますか?」


私が思い付いたのは、魔法効果を付与したアクセサリーを魔道具として売って金を得る事だった。


「ーーそんな物を、持ってる、というのか?」

ランドンが驚いたように目を見開いた。


「…私の母親は私を産んですぐに私を捨てた人でしたが、本当の人でなしではなかったと思うんです。

毒などの状態異常を回復させてくれる癒し効果のある腕輪型の魔道具を私に残してくれていました。

見た目は普通の腕輪で全然魔道具らしくない事もあり、私を憐んでくれた使用人達も取り上げずにいてくれて、後日魔道具だと自分で気付いたので大事に使ってきました」


私が尤もらしく嘘の説明をして

「状態異常回復《キュア》」魔法を付与した腕輪を取り出した。


「これを売ってお金に換えれば、チェスターさんの幼馴染みを身請けするお金の足しになると思うんです。

私は自分自身を売られるくらいなら、これを売って、自分自身は自由で居たいです」


私がそう言うと

「…そんな大切な物を出させる訳にはいかない…」

と、人の良いクラークが顔色を変えて布張りの小箱を取り出し


「まだ渡してなかったから手元にあるけど…。結婚指輪にと買い揃えておいたペアリング…。それなりに価値があるものだから、これを換金する」

と言い出した…。


「いやいやいや、お前がそんな事するとチェスターとマリーがアイリスから恨まれるぞ。そこまで身を切る必要はないだろ?売っても惜しくない程度の品を皆で持ち寄って売るだけでもそこそこ金にはなる」


「そうだ。恋人にやる予定の貴重品じゃなく、自分で使ってる不用品でも、俺達の装備はそこそこだ。売れば金になる。船上の戦闘に不要そうな装備を売れば良いだけだ」


テレンスとランドンが焦ってそう言うので

「なるほど…」

とクラークも納得したようだった。


それでいてランドンは私に目配せした。

(魔道具を売るならクラークにバレないようにやれ)

と言いたいのだろう。


善良な人の前でこれ見よがしに自己犠牲的献身を行うと罪悪感を植え付けてしまうので、自己犠牲的献身を行うなら善良な人の目の届かない所でやるように、と強いられる事は前世でも度々あった。


ランドンはそういった道理を理解している合理主義者のようだ。


(別に本当に母親の形見とかって訳じゃないし量産できるから何度でも売れるけどさ…。これが本当に形見だったら、それを売らせるアンタらって鬼だよ…)

と視線で言いた気にランドンとテレンスを見詰めた。


テレンスに続きランドンもスーッと私から目を逸らしたので

「とりあえず私も換金できそうな物は換金する事にします。商人ギルドとかに持って行けば良いんですか?」

と尋ねたところ


「いや、ホワイト王国内では商人ギルドに依頼するので間違いないけど、外国だと商人以外が商人ギルドを利用する場合に法外な手数料を吹っかけられたりと色々問題がある。

外国では冒険者は冒険者ギルドしか利用できないと思っておいた方が良い」

とクラークが世知辛い社会事情を教えてくれた。


「…それだと冒険者ギルドはあまり高く買い取ってくれないんじゃないですか?」


「そうなるが…それはそれで仕方ない事でもあるんだ」


外国だと何かを買い取ってもらうのにも安く買い叩かれるのが当たり前だという事なのだろう。

(うわぁぁ〜…。ムカつく…)


(…ともかく、クラークの目を盗んでバロワンの冒険者ギルドへ行き、魔法付与した腕輪の買い取りを要求してみよう。私、独りで行くと絶対、外国人だからという以上に買い叩かれるだろうから、ランドンかテレンスを付き添わせなきゃならないだろうな…)


そう思いながら私が肘でランドンを突くとーー

こちらの意図を察してくれたのか

ランドンはチラッとクラークの方を見遣った後に

(分かってる)

というように頷いた…。



********************



査定してもらった所、案の定、バカみたいに安値を言い渡された。

しかも「盗品の疑いがあります」だのと難癖付けてきて返してくれない。


私は

(今まで「付与《グラント》」魔法とセットで「剥奪《デプリベーション》」魔法があるのは何故だろうかと謎だったけど、今こそ「剥奪《デプリベーション》」で魔法効果を無効化するべき時だよね)

と思った。


魔法効果を付与する場合は

「付与《グラント》」

と

「状態異常回復《キュア》」

などのようにニ種類の魔法を同時起動する事になるが


「剥奪《デプリベーション》」

だと単体で稼働。


ただし予想通り「自分が権能付与したものしか権能剥奪できない」ものらしく、これまでに魔法効果を付与した物の一覧が表示された。


迷わず

「状態異常回復《キュア》魔法を付与した腕輪」

を選択実行。


(…またバックオーダーで似たような腕輪を出して「状態異常回復《キュア》」を付与しておかなきゃね〜)

と苦笑が漏れた。


(変な言い掛かりを付けずに普通に買い取ってくれる相手に遭遇するまで、その繰り返しになるのかも知れない…)


私の胸中を知ってか知らずか、ランドンが

「良いのかよ…」

と私の表情から何か察した。


小声で

「よく似た偽物にすり替えておいたから、大丈夫。今度はちゃんと買い取ってくれる所で売ろう」

と言うと

(なるほど)

と納得した様子で頷いた。


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