ゴミ焼却
鰹節に治癒魔法を付与して食べさせるのでは、魔法効果が分散されるので何度か食べないと綺麗に治る事は無いだろう、と思ったのだがーー
意外にも効果はてきめんだった。
(猫は人間よりも遥かに身体が小さいからかな?)
と考えると腑に落ちた。
消費される魔力の量で効果も変わる。
人間1人を治療する分の魔力がこもった魔法の効果が分散されたとしても、猫くらいの体重の生き物ならば、それで充分効果が届くという事なのだろう。
微妙に骨の曲がっていた猫の骨が自然な形に伸びて
見るからに病気の猫の動きが急に良くなり
見るからに疲労していた猫が元気になった。
「小動物の治療は人間よりも魔力消費が少なくて済む」
という事がハッキリした。
(これなら何度も通う必要はないな…)
とホッとしたので
「またね」
とは言わず
「じゃあね」
と言って、その場を去った。
猫好き少年のほうは、私が帰るのを見て後を追いかけたそうに立ち上がったが…
流石に
(…ここで追いかけるとストーカー扱いされる)
という事は理解できているようで、そのまま留まってくれた。
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野良猫達の協力により
「障害矯正」
「適正化」
が生き物の治療に使える事は分かったが…
(生き物以外の物にも使えるとか?は無いのかな?)
と疑問に思った。
(まぁ、ともかく、今は郊外に出て、携帯トイレと大小便を焼却処分するミッションを予定通り完遂しなきゃね…)
こういうデリケートな問題に関する処置は黙って独りで行う必要がある。
誰かに尾けられていたらマズいので、物陰に入ってすぐに
「不可視」
を使い、姿を消した。
門衛の脇を抜けて郊外へ出ると
(一応バリアーも張って、あとアヴォイダンスもしておくか…)
と思い、それらも追加で使った。
「回避」魔法…。
飛んでくる矢が逸れてくれたので、効果としては攻撃が逸れるといったもののようだ。
名前からの連想で自分の身体が勝手に動いて攻撃を回避するのかと思ってたのだが、良い意味で予想を裏切られた。
これらの魔法で対策しておけば魔物や野生動物に襲われる事はないだろう。
(…不用品を焼却処分するには灯油でも出した方が良いだろうか?)
とも思ったが…
(灯油の匂いは独特だし、この世界に灯油は無い。そんなものを使えば流石に怪し過ぎる)
と思い直した。
(焼却炉を出せたら、それが一番良いのだが)
地道に普通に焚火をする。
火が燃え盛ってきてから亜空間収納庫より使用済み携帯トイレを出し
「乾燥」
で乾燥させて、火にくべた。
やはり水分を抜いて燃やすとよく燃える。
この際だからと思い、地球の製品に付いてきた紙容器やビニール容器やプラスチック容器を燃やしておく事にした。
インカーネーション・ファイアは最初はマッチ一本で着ける程度の小さな火しか出なかった。
なのに今はインカーネーションで出せる火の大きさが若干大きくなった気がする。
(もしや魔法熟練度が上がった?)
と期待して「使用可能魔法一覧」を見てみると
案の定、いつの間にか
「火壁」
が使えるようになっていた。
(使用済み生理用品は毎月焼却しなきゃならないし、これは本当に助かる…)
と思い、肩の荷が降りた。
燃やすべきものを燃やし終えて、野原を抜け、町の門まで来ると
「非番の日の冒険者活動ってアルバイト扱いになるから禁止なんじゃなかった?」
という声が聞こえた。
ふと見ると、見た顔だ。
今回の盗賊団討伐に参加していたソロのBランク冒険者。
(ドウェイン・レイヴンズクロフトだっけ…)
と、すかさず名前を思い出した。
無口で根暗そうな印象の男。
だがなかなかのイケメン。
ソロでBランクという事は独りで相当死線を潜って来ている筈。
そのドウェインの側には冒険者らしき男が2人。
ドウェインを含めて3人組で何処かへ向かう様子だ。
(あの人、ソロ冒険者の筈なのに…他の冒険者達と郊外に出るのかぁ…)
と疑問に思ったのだが…
そこで思い浮かんだのは先ほどの言葉。
「非番の日の冒険者活動」というからには…
ドウェインの連れは冒険者に見えて、本業は別の仕事だという事だ。
副業を禁止する仕事は多い。
副業の方が儲かるとなると本業を疎かにしかねないからだ。
(…なるほど。ドウェイン・レイヴンズクロフトは一緒に組みたかった友人が冒険者とは別の本業を持ってる人だからソロ冒険者として活動してきたんだな)
と納得がいった。
ーーのだが。
ドウェインの連れが
「我が家の中でお前だけ騎士団に入らなかったんだ。『冒険者になった方が強くなれる』と言い張って冒険者になったからには、俺達にもちゃんとお前の言葉の正しさを証明する必要があるだろう?」
「弟の成長を見たいしな!」
などと言ってるのが聞こえて
(…兄弟?だったのか…?)
と首を傾げた。
家族とか兄弟と思うには3人とも容姿に共通点がない。
似てない兄弟というのも珍しくはない。
(あの人って、独りだけ良い遺伝子をもらっちゃったのかも知れないね…)
と思うくらいにはドウェインだけ顔が良かった。
他人を寄せ付けないソロ冒険者にも色々事情はあるのだろう。
私としては
「顔と名前だけ知ってるだけの人」
の事に大した興味はないので、そのまま通り過ぎて町へと入った…。
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盗賊団討伐は終わったので、帰りは自由。
必ずしも護衛の仕事を受ける必要性はないが…
どの道帰り道に沿った護衛の依頼はある。
複数ある依頼の中から条件の合うものを選んで受ければ良い。
依頼の中には商隊が護衛の分の食事を提供してくれる条件のものもあったが…
基本的に護衛の仕事が長い冒険者は
「食事は自前で用意する」
事が多い。
全員が同じ食事を食べて全員が食中毒になった場合が悲惨だからだ。
複数のパーティーが護衛に就く際も
「パーティーごとにバラバラに食べる物を用意する」
のが望ましい。
護衛歴が長いほど
「リスク分散するべき」
という対策に思い至るからだ。
帰りの食事も私が用意する事になる。
ピュリフィケーションで殺菌できるので私が同行する場合には食中毒の心配は要らないのだが、他の者達はそんなことは知らない。
ハートリーからエアリーマスへ向かう仕事の中から
【風神の千本槍】はブラックウェル商会の商隊護衛の依頼を選んだ。
大商会なので資金も人脈も潤沢。
地方権力とコネクションがある商会は専用の私兵で身の回りを固める事も出来そうだが、護衛を冒険者に依頼している。
「良い人材との出会いを大切にしたい」
との事らしい。
連携のことを考えると専属護衛で固めていつも同じメンツで仕事をしていた方が効率が良い気がするのだが…金持ちの考える事は私には解らない…。
ともかく私が考えるのは食事のことだ。
護衛期間中、野営の際、朝と夜は食べ物の匂いを充満させないために温かい食事は取らない。昼食のみ煮炊きして作って良い事になっている
燻製肉は冷めても美味い。
前世では、アルミホイルと木片チップが有ればフライパンでも燻製を作る人達が居たし、動画で作り方は見た事があるが…
アルミホイルを地球からバックオーダーするより、ハムをバックオーダーした方が手っ取り早い。
この世界では塩漬け肉を干した物が保存肉の定番。
(「乾燥」を使えば干し肉もすぐ出来るし、調味料を使って味付けしたものを干し肉にしても良いかも知れないな…)
朝と夜はパンとチーズと干し肉もしくは燻製肉。
昼は道中で狩った魔物肉を調理する予定でいて、一応昼の分も保存肉を準備しておくので良いだろう。
足りない分は、またも携行食を作っておいて補う。
(なら、材料の買い物、バックオーダーでの仕入れをそれぞれ済ませておかなきゃね。宿屋の厨房を借りる時間も最短で済むように、色んな味のものを一人前づつ作って、それをアトラクションで増やすとしよう…)
頭の中で計画を立てて、計画通りに動いていった…。




