第15話 試し合格!サクヤの思い
「合格です」
優しい微笑みを浮かべながら彼女は俺にそう言った。
「合格……ですか?」
「ええ、合格です。あなたの才覚、覚悟、十分に見せてもらいました」
思わずポカンと彼女を見つめてしまう。相当間の抜けた顔をしていたのだろう。俺の顔を見て彼女は思わずといった感じで笑い出した。そんな彼女の態度に思わず憮然とした顔を向けてしまった。
「ふふっ! ごめんなさい。とても面白い顔をしていましたから!」
その楽しそうな表情に思わず、肩の力が抜ける。
「はぁ……。もういいです。それで合格というのは?」
「合格は合格です。あなたは私に十分な資質を見せてくれました」
自分の刀を腰の鞘に納め、まだ少し笑いを顔に残しながら彼女は俺に近づいてきた。
「ですが、俺は勝てていません。それどころか反撃すらできていません」
そんな俺の言葉を聞いて彼女は優しい笑みをそのまま苦笑に変えた。
「別に私は『勝て』などとは言っていません。ただあなたの覚悟を見せろと言っただけです」
「あ!」
そうだ。そうだった。つい彼女に勝つことが条件だと思い込んでいた。
「そもそもあなたのようなひよっこに負けることなどありませんよ」
「……はい」
思わず赤面する。確かにまだレベル1の俺がレベル99とか言ってもおかしくないこの人に勝てる道理がない。
「ふふっ。ですがそれくらいの気概があったからこそ私はあなたのことを認めたのです。それを今は誇ってください」
彼女の手が頭に伸び、撫でられる。
それは流石に、恥ずかしい! 咄嗟に後ろに下がろうとするが逆の手で腕を掴まれ動けない。
「ちょっ!」
「これくらい良いではないですか。これからは師弟となるのですから」
そういって楽しそうに笑う彼女に思わず毒気を抜かれてしまう。それでも頭の中で往生際悪く、いやでもと葛藤するが嬉しそうに頭を撫でてくる彼女に溜息をついて諦めを口にした。
「はぁ。他に人がいない時だけにしてくださいよ?」
「わかりました」
それから1分程で満足したのか彼女は俺の頭から手を放し、今度は俺の背を押して外に誘導し始めた。
「な、なんですか?」
「これであなたへの試しは終わりですから。次はあなたの従者、サクヤちゃんの番です。あなたは外に出ていてくださいね?」
なるほど。それにサクヤも心配しているだろうから、早く顔を見せてやらないとな!
「あっ! それとこれを……ポーションです。それほど深くはないようですがケガを治してください」
そういって薬の入った瓶を俺に押し付けてくる。
……そういえばケガをしていたな。アドレナリンが出ていたからか? 今更になって痛みが!
慌ててもらった薬を飲む。あ~やっぱりポーションは買っておかないとな。
そう考えながら足を速め道場の戸を開ける。そこには案の定心配げな顔をしたサクヤが待っていた。
「サクヤ、お待たせ!」
「主様! ご無事で何よりです!」
小さな手を胸元に当てながら安堵の溜息を流す。
「ありがとな! サクヤ!」
「いえ! それで結果は?」
「もちろん合格だ!」
「おめでとうございます! 主様!」
「ああ! さあ次はサクヤの番だぞ!」
その言葉と共に両肩に手を置いてその桜色の目を見つめる。
「……はい! 主様……! 吉報をお持ちいたします!」
そう言ってサクヤはシズカと共に道場に入っていく。
さて、しばらくは待ちだな。
それにしてもクエストクリアのインフォが来ないな? サクヤの試しが終わらないと出ないってことかな?
そんなことを考えながら道場の戸の前に座り込み、道場の戸を見つめる。サクヤ……かんばれよ!
━Side シュン Out━
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━Side サクヤ━
主様と別れ、私は女性の後について道場の中に入りました。
中央まで進んだところで女性が振り返ります。
「さて、それではあなたへの試しを始めましょうか?」
「よろしくお願いいたします」
私に向かってそう宣言する女性に頭を下げて礼をします。武を尊ぶ方は礼儀に厳しいと聞きますからね。しっかりと礼をします。なにより主様に恥をかかせるわけにはいきません!
「よろしくお願いします。まず自己紹介から私はシズカ。神通流派継承者にして、この道場の主。古き御技を今へと繋ぐ者です」
微笑みながら私に名を告げる、彼女から感じる圧力が増していく。
「試しの内容は至極単純です。私に覚悟を示してください」
圧力がどんどん増していく。私は無言で刀を抜く。
「参ります」
彼女がそう言った瞬間、とんでもない殺意がこの場を満たした。
「なぜ平然とあなたは立っていられるのです?」
目を見開いて彼女は私を見つめていた。
そう濃厚な殺意がこの場を満たす中、私は平然としてこの場に立っていた。
そのままなんでもないように問いの答えを彼女に返してあげる。
「……私にとってこの程度の死の恐怖など日常茶飯事だっただけです」
「え?」
私の答えに彼女は更に目を見開く。
「私の元の種族は堕鬼、ゴブリンです。毎日のように仲間たちがただ甚振るように殺され、踏みつけにされる。誰よりも何よりも弱い種族」
毎日……毎日怖かった。ほんの少し歯車が狂えば甚振られ殺される。人だけじゃない。あの草原にいる人以外のものと遭遇しても、それが仲間以外のものであれば次の朝日を拝むことなどできない。常に死が隣にある。そんな毎日。
「ゴブリン……」
「そうです」
「ですが、あなたはゴブリンには見えません。角以外は普通の女の子です」
「その通りです。今の私はゴブリンでは……堕鬼ではなくなりました」
「それは……?」
「言わずとも、もう答えはわかっているのでしょう?」
「シュン、ですね?」
「はい」
あの時。私は間違いなく殺されると思った。私の命運はあの時に尽きたのだと思った。
初めてだった。差し伸べられた手も、掛けられた言葉も!
「主様が私をあの絶望から救ってくださった」
奇跡のようだった。どうしようもなかった現実の筈だった。
手のぬくもりに安堵した。あの天の色を映したような優しい瞳に救われた。握られた手の力強さにほんの少しの勇気をもらった。名前という願いに未来をもらった。
だから私は……!
「私の全てでもって主様と共にある」
そう決めたんだ。
「傷ついたって、どう使われたって構わない。あの方の進む先に、未来に! どんな形でも共にありたい!」
笑われたって構わない。弱者の分際でなにをと。それでも思いを決意を願いを覚悟を道を決めたんだ。
「だから絶対に諦めない! 主様と共に進むために力が欲しい! こんなところで躓いてなんかいられない!」
思いの丈を叫ぶ。私が……サクヤが望んだ、たった一つ。全てを諦めて来た私が決して譲れないと譲らないと覚悟したもの。
それがたとえ私より遥かに強い彼女であったとしても!
私は刀を構え、切り掛かる!
「っ!」
しかしあっさりと躱される。
「! まだ!」
すぐさま彼女を追いかけようとしてすさまじい衝撃と共に吹き飛ばされた。
数メートルは吹き飛ばされただろうか? あまりの衝撃に目の前がちかちかする。
たった一撃。それだけで私は殆ど死に体となってしまっている。
「これで終わりですか?」
彼女の声が聞こえた。終わり? これで、終わり? 違う。終わりじゃない。まだ終わらせない! 諦めるなんて絶対に……!
必死に身体を起き上がらせようと藻掻く。
だがどんなに身体を起き上がらせようとしても身体は言うことを聞いてくれなくて……。
「終わりですね……」
彼女が近づいてくる音がする。
終わり? そんなの……嫌だ……。嫌だ!
自分の弱さに自分の脆さに泣き出したくなる。
どうして! どうして私は……! こんなにも!
彼の優しい天色の目が頭をよぎる、勇気をくれた暖かな手を思い出す。ああ!
思わず口元に笑みを描く。
主様はいつだって私に力をくれる。
「グ、ぅ」
いつのまにか私は立ち上がっていた。目の前まで近づいてきた彼女を見上げる。
虚勢でもなんでもいい、笑って見せる。
そんな私の顔を見た彼女はとても優しい顔になって……
「はい。合格です」
と言った。
「合、格?」
「はい。あなたの覚悟。見せてもらいました。十分です」
徐々に頭に言葉の意味が浸透してくる。目にほんの少し涙が滲んだ気がした。
「ありがとう、ございます」
その言葉を最後に私の意識は暗転していく。
「ゆっくり休みなさい。目が覚めたら一緒にシュンさんに報告に行きましょうね?」
最後に見た彼女の顔はとてもきれいなものだった。
━Side サクヤ Out━




