【189話】巻き添え召喚
国王と随伴した貴族や騎士たちが、エスパルにやって来た。
分身がドリアさんと王宮騎士のテスターとジョーシンを連れて、状況を説明しに出かけた。
僕たちは、カーズの呪文『クレアボイアンス』を使って、別室で覗いている。
もう1つの呪文『クレアオーディエンス』も発動中だ。
カーズ呪文を、テレパシーで共有してみんなで覗き見だ。
分身が王様と他のお偉いさんたちに説明をして、それをドリアさんが補足をしている。
全ての説明が終わったところで『そんなバカな』とか『あり得ない』等の言葉をなげつけるが、ジョーシンが『私が見ていた限りでは、全て真実』だと説明していた。
ジョーシンの説明で証明出来ない部分を、今度はついてくる。
『本当に神の使徒なのか?』『何故ウラタギリタ侯爵を殺した?』とかだ。
全く面倒くさいな。
そんな時は、説明係のカーズに……ん?
「俺 説明 する」
エスパルの森で、雑草や昆虫を食べに出掛けていたはずのアーサーが、大事な場所に乱入していた。
なんてこった、一番言葉足らずの男がいったい何を!?
当然、分身もビックリした顔でアーサーを見る。
テレパシーで繋がっているカーズは『おぅふ……』と意味不明な言葉を吐き、ガルは『通訳のキンジが要るな』と楽しそう。
僕たちは、楽しければ後はどうなっても良いんだけど、分身はこれからずっとここに居るんだよ?
「お前は誰だ!」
「ただの 人間 アーサー」
お前だけは、人間を語ったらダメだろ!
「4人の使徒様の御1人です」
ジョーシンがフォローをする、ナイス。
王族特務隊として、参加しているイケメン、アルテリオンが、アーサーに質問する。
「使徒、使徒と周囲は騒ぎますが、アーサーどのは、いったいどなたの使徒なのでしょうか?」
「暗黒女神 カレアス」
ここで、ランディのギフトを知っている極一部の人間は納得した顔をする。
「そんな神の名前は知らん!」
まあ、そう答えるよな。
そんな言葉に、アーサーがまともに返答するとは思えない。
ハラハラ、ドキドキ。
「判別器 用意する ランディ 見る」
そうか、僕と分身のギフトには『暗黒女神の愛』となってるんだっけ、お前は本当にアーサーか?
「何をいってるんだ!」
「急ぐ!」
「ンピャアッッ!? は、早く用意しろ!」
アーサーめ言葉の威圧を使ったな。
そうして、分身のギフトがみんなに証された。
ギフト『暗黒女神の愛』『冥神の愛』と。
一気に騒がしくなる、お偉いさんたち。
「暗黒女神という神が実在するのか!?」
「待てっ、それよりギフトの中でもレア物の『愛』が2種類もある。こんなことは今までに1度も……」
「それより『冥王』じゃなくて『冥神』となっていると何故だ?」
「判別器の故障じゃないのか」
「ま、魔力総量が4000を軽く超えている。バ、バカな……」
「冥神 友達 加護 頼んだ」
大騒ぎの後、アーサーを使徒と認めたようだったけど、別の一言でもう一波乱発生してしまった。
それは、ガルが調べたアカシア王国へと裏切った貴族の名前を全て言ってしまったからだ。
エスパル周辺の領地で、裏切っていない貴族は、大貴族ではキャンブルビクト侯爵だけだったからだ。
「国王! この者は事実を語った上で、嘘を織り混ぜ私を陥れようとしています」
「俺 嘘 言ってない 心外」
ヤバい、アーサーが喧嘩腰になってきた。
「だれかっ! 特務隊のガルサンダーを呼べ! 早く!!」
さすが王様、嘘発見器のガルサンダーを使えば、貴族の嘘がばれてしまうね。
事態が悪転したことで、脂汗をながす貴族。
「待ってる 長い 暇 潰す」
アーサーが暇潰しをしたいと、言いながら上着を脱ぐ。
「俺 力 見る お前は 剣 振る 頑張る 許す」
と言いつつ箸をもつアーサー。
「は?」
理解が追い付かない貴族。
さすがに見かねた分身が、通訳をかって出た。
「失礼します。彼は特務隊を待っている間に、裸のアーサーに傷を付ければ、なかったことにするって言ってます」
そこまでは言ってないだろ。
「そ、そうなのか?」
「彼は箸での防御のみ、誰か味方を巻き込んでもいいですよ」
分身の口車に乗った貴族は、犠牲者を2人追加して、アーサーと遊ぶようだ。
「かすり傷1つでもいいんだな」
「ふっ、舐めおって……私は爵位を頂くまでは騎士として過ごしていたのだよ」
「くくっ、私も貴族でなければ、騎士長まではなれたかも知れない力をもっている」
3人のバカ貴族がアーサーに襲いかかる。
「ゼー、ゼー」
「ハァ、ハァ」
「ば、化物だ……」
「化物 違う 人間」
アーサーだけは『人間』を語っちゃダメだろう。
「特務隊ガルサンダー殿、到着致しました!」
終わった。
しかし、手を下げてよそ見をしたアーサーに襲いかかる3人のボンクラ共。
「隙あり!!」
「殺ったぁ!!」
「ん? なっ!?」
当然だけど、普通の武器では、アーサーに傷1つ付けられない。
武器に闘気を通わせるか、心血注いだ武器を作るか、生命を通わせた武器にするかの3択しかない。
ガルサンダーのお陰で、アーサーの言った貴族の裏切りが露見した。
連行されながら、叫ぶ裏切った貴族共。
「仕方なかった! あの鎧や武器を見せられては寝返るしかなかった!」
「そうだ、あれを見たら確実にアルカディア王国が滅ぶと解る」
「自分の領地を守るには裏切るしかない。それほどアカシアから産まれた金属は、凄まじい強度だったんだ!」
「あの 金属 ミスリル かなり 上質」
アーサーがアカシア軍の装備を認めた。
だけど、アーサーにはまるで歯が立たなかったよね。
「だが アルカディア もっと凄いの あった」
「……」
「……」
「……そんな話は聞いてない」
「ランディ アルカディアに 産まれた それで 充分」
ものすごく恥ずかしいんだけど。
その後、金翼騎士団と銀角騎士団による、裏切った貴族の粛清が始まった。
暫定的だけど、キャンブルビクト侯爵の管轄領地が増え、周辺の領地を統治する貴族の選定をキャンブルビクト侯爵と分身とですることになったようだ。
そして、2カ月後…………アカシア王国から降伏の知らせが王都に届いたのを確認したとき、僕の背中に悪寒が走った。
懐かしささえ覚える悪寒……巻き添え召喚の前兆だ。
僕たちは、何処かの異世界で起こるであろう『召喚』や『次元転移』に、巻き添えになって召喚される。
これは、永遠の寿命を手にした瞬間から得た、消えることのない、女神からの祝福。
僕たちは急いで集まり、分身と最後の挨拶をかわす。
「分身兄さん、この世界は兄さんの好きにしちゃってください」
「僕は独裁者か……」
分身がカーズに突っ込みをいれる。
「冥神の加護で、父さん母さんおまけにレジーナやアリサまで死に難い体になった。ありがとうなカーズ」
「ランディの性格なら使わないとは思うが、1度だけ使える連絡手段を、置いておくぜ」
「ガル、お前と会えないのが一番寂しいな。アマテラスに宜しくと伝えてくれ」
確かに悪ふざけ限定なら。ガルと遊ぶのが一番楽しい。
カーズとアーサーは、笑えないくらいやり過ぎるからな。
「体力 5倍 惜しい 戦いたい 惜しい」
「アーサー、体力だけあっても、レベル25のクレリックじゃ、戦いにすらならない。残念だったな」
分身はほっとしてる。
体力だけあっても、殺られるまで時間がかかるだけだもんな。
「ランディ、香織ちゃん、リリスたん、マーニャ、ひなたん、カミーラを頼むな」
分身の言葉に頷く。
「任せろ、ランディ。代わりにロイエン、クラリス、レジーナ、アリサ、ついでにドリアさんやカツ丼の面倒をみてやってくれ」
「ああ、この僕の寿命は有限だ。人間らしく短く輝いた人生をおくってやる」
「ああ、ずっと応援してる。頑張れ『ランディ・ライトグラム』」
「じゃあな『ヴェル・ランデイヤ』」
その言葉を聞いた瞬間、分身の姿が消えた。
いや、僕たちが消えたんだったな。
辺りは、何もない赤みがかった砂漠のような世界だ。
ここで、召喚主を捕まえて宴会を開くのは、難しそうだ。
ちょっとだけ、向こうに残った僕が羨ましくなる。
元気でなランディ……
「さあ、人間の大切な部分はおいてきた! 暴れるぞ、お前ら!!」
「暴れる 大好き」
「やっと兄さんらしくなってきましたね」
「そうか、あんまり変わらないと思うぞ」
今の仲間が僕に声をかけた。
「まあ、どんなランディでもついていくけど……」
「出来れば、お兄ちゃんとイチャイチャしたい。お兄ちゃん? つまらない道徳も置いてきたんだよね?」
「同じく、イチャつき希望」
「わたしも!」
「我は、妹と同様、主殿の剣となれれば問題ない」
僕が見つけて拾ったら女性たち……
ふっ、笑いで腹筋を壊してやるからな。
「ここで、ランディさんがいつも以上に、はっちゃけたら、大変な予感がするっすよ、主にオレの精神面が……」
いろんな、異世界を見てきたけど、キンジほど珍しい生き物は見たことがない。
僕よ……もう僕とは会うことはないだろうが、どっちが楽しく幸せになるか勝負だ!
to be continued makizoeshoukann
最後の一話は、今夜または明日の朝に投稿します。




