【174話】完勝
みんなの戦いの解説をしたいから、テラストラム擬きに、時間をかけていられないな。
僕は本体から、装備を預かっている。
そう、アーサーと戦った時に装備していた、強力なマジックアイテムを。
ギィン!!
物理攻撃が無効なはずの相手に、傷を付ける。
そのまま、距離をとって離れる。
敵の光線攻撃が来た。
ある程度の距離があれば、飛び道具無効の『ディスプレイサークローク』があるから当たらない。
そして、もう一度近づいて攻撃。
しかし、最初の攻撃の傷が半分くらい修復されていた。
再生能力も健在ですか。
「第3レベル呪文……オグルパワー。エクストラダメージ!!」
呪文で腕力を上げてから『フレイムフレイル』の1日3回までしか使えない大技を発動する。
フレイルの鉄球部分が赤く燃え上がり高速回転する。
本体ならば、このままクリティカルヒットを狙うのだろうが、今の僕だと失敗する可能性があるから、堅実に攻撃する。
ドゴォォォン!!
身体中に亀裂が入る。
「エクストラダメージ! 王神流奥義、鬼人鎚!」
後、使える大技は1回。
『第5レベル呪文……ストライキングス、エクストラダメージ、王力鎚奥義、極」
武器のダメージ上昇、2種類と闘気合わせた攻撃で、動きが鈍くなったから、テラストラム擬きの光線攻撃はわざと受けて、反撃にする。
「オラオラオラオラオラオラオラァ!!」
結果、3回も光線攻撃を喰らったけど、別の世界では『無敵』と有名なテラストラムを短時間で破壊した。
みんなの様子は……
カミーラが王神流の剣士を圧倒している。
カミーラも王神流の剣士であり、吸血鬼の上位種『ノスフェラト』だ。
さらに、冷却系の魔法を得意とする。
むしろそのカミーラ相手に、まだ持ちこたえてるのを誉めた方がいいだろう。
「王神流奥義、流星剣」
「ぐはぁぁぁっ! ば、ばかなぁ!?」
無数の斬撃に翻弄される剣士君。
「さすがは『冥王の愛』の加護じゃの。まだ死なぬか……舞え雪吹よ、王神流奥義、彗星剣!」
冷却魔法で動きを鈍らせてからの『彗星剣』か……剣士がやられるのも時間の問題だな。
カワイソウ……
「お馬鹿さん、隙あり!」
吸血鬼同士の戦いは、ひなたんが優勢だ。
しかも、僕やカミーラの戦いに気を逸らされたっぽい。
「何故我等が圧されるのだ? 特に我は偉大なヴァンパイアロードに冥王様のギフト持ちだぞ。しかも、あのバハムアークに次ぐ『格』があると言うのに……何故だあ!!」
「そんな名前の人、知らない」
えっ? 今、あのお笑い吸血鬼の名前が出ちゃった。
あのお笑い吸血鬼より下って『負けフラグ』回収してんじゃん。
それに、ひなたんもただの吸血鬼じゃない。
元々は『エルダーゾンビ』だったひなたんに、僕、カーズ、ガルとアーサーの肉を食べさせ、格が上昇した時に、最高位のクリエイトアンデッドを使って、ヴァンパイアロードにしたんだ。
所謂、ひなたんは『エルダーゾンビ』と『ヴァンパイアロード』のダンピールなんだ。
死に難さはガールズNo.1なのさ。
もう、あの吸血鬼の見所がねぇ。
なまじHPがあるから、くたばるのに時間がかかるだろうから、キンジを見学しよう。
「火弾、火弾、火炎弾、火弾、火弾、火炎弾、火弾、魔破火炎弾! ふう、ちょっと休憩」
「光を束ね弾けよ。光破」
細い光がリリスたんの右手の先に集まり、直径10cm程の玉になり、光線になってガチムチ君を襲う。
キンジも2人の援護のお陰で、なんとか戦いになっている。
相当鍛えられてるな。
まさに『蝿のように舞い、蚊のように刺す』感じで戦っている。
相手にとってこれほど迷惑な行為は、そうそうないだろう。
「第1レベル呪文……マジックミサイル」
まさしく『蚊』の一撃だな。
「ゴルァァァァァァァッ!!!」
ガチムチ君がキレて『金チョー○ラリアット』がキンジに炸裂したぁ!
「ガッ!?」
突然香織ちゃんがガチムチ君の左脇から出現する。
ガチムチ君の身体には、香織ちゃんのダガーが深々と刺さっていた。
もちろん、キンジは華麗に吹き飛んでる。
香織ちゃんは、姿と気配を消すことの出来る、恐いマジックアイテムを持っているのだ。
「ふはは、見たかぁ! ガルさん直伝『4対1攻撃』の味は? やられる方は、たまったもんじゃないけど、あの人外さんたちが一番得意な戦法っすよ」
キンジも復活が早い。
僕らを『人外』とか言っちゃって、僕が見聞きしてるんだけどな、後でチクってやろう。
「第3レベル呪文……ライトニングボルトォ!」
「魔破火炎塵!!」
「我が力、魔の下に凝縮し魔光となり弾けよ。魔光破!」
「ふっ!」
キンジの呪文が炸裂し、マーニャ火炎が唸りをあげ、リリスたんの魔法が生命力を削ぎ、香織ちゃんのスローイングダガーが吸い込まれるように突き刺さる。
死んだな……
ちょうど、カミーラが止めを刺したようで、剣士が地面にキスをしながらピクピクしている。
後はみんなで、最後まで戦ってるひなたんを応援していた。
吸血鬼のHPが0になった瞬間、吸血鬼にとってキツイ一撃をかます。
「第6レベル呪文……レイズデッドLVⅡ」
たった1秒しかないチャンスだけど、ヴァンパイアの死んだ瞬間更なる死を与えるとどうなるか……
答えは『一撃で霧から灰になる』だ。
そうなった吸血鬼の復活は、それより上位の第8レベル呪文の『オブリタレイト』が必要になる。
解りやすく言うと、不死の吸血鬼は自力では復活不可能になったってことだ。
くたばっていた筈の剣士から声が漏れる。
「な、なぜだぁ……我々は冥王様の愛を授かった特別な人間……なのに……」
瀕死だけどまだ生きている。
さすがは冥王のギフト。
「ククク、だが貴様らの全滅は免れない。クククッ、あの空を見よ……ごふっ」
ガチムチ君が吐血しながら笑ってる。
そのガチムチ君のいった方向には黒い雲が見える……いや雲じゃないな。
無数の飛行物体だ。
まさか……
「ククク……あれは、アプレンティスの衛兵だ。しかもマスターの衛兵が2体もいるのだ……ごふっ……ククク、さあに2000体の衛兵にどこまで抗えるかな? ……カハッ、貴様らの全滅する様子が見れないのは残念だが……こ、これで終わりだ……」
そうはさせないよ。
「第1レベル呪文……ライトヒーリング。カミーラ、ひなたん、こいつの血を吸って瀕死にしておいて」
ガチムチ君を今すぐ死なすわけには、いかない。
だけど、僕の回復魔法だと回復し過ぎるから、死なない程度に、グッタリして貰う。
「ひでぇ、助けたと思ったら、もう一度臨死体験! だけど一緒に闘ったよしみで言うっすけど、おれが受けた修行より楽っすよ?」
キンジに早く強くなって貰いたいと言う、カーズたちの愛を感じるな。
「さて、先ずは冥王の作戦を誉めておこう。もしかしたら何処かでこっそり覗いてるかもしれない……いや覗いてるのは確定だな」
理由は上空に突然、赤い満月が出現したからだ。
それはリリスたんの故郷にある月だ
赤い月はリリスたんの魔力を増幅させる力がある。
そんな事が出来るのはカーズだけだ。
カーズは今の状況を確認できるってことだ。
僕はリリスたんを手招きして、引き寄せる。
「リリスたん、裏リリスとは話せる?」
リリスはコクリと頷いて、瞳を閉じて数秒後……
「ランディ、久し振りじゃの」
若干、カミーラと話し方が被る『裏リリス』
リリスは産まれた瞬間から、宙に浮くほどの魔力を内包していた。
リリスの父親は、リリスに普通の生活をさせたいと願い、自らの命を触媒にしてリリスの魔力を封印した。
そうして、リリスは封印され、もうひとつの人格リリスたんが誕生した。
だけど、僕が限定的に封印を解除して『リリスたん』と『裏リリス』の二重人格少女が誕生してしまった。
「裏リリス、魔力は貯まっているかい?」
「安心せよ、最強の魔法まで使用可能じゃ」
ならば、リリスたんの封印を解いて、あっさりと決めてしまおう。
「第6レベル呪文……リバース……リムーブカース!」
ガラスが割れるかのように、リリスの周囲の大気が鳴り響く。
そして、リリスから爆発的な魔力が溢れ出す。
「魔力は貯まっているおるが、今後のことを考えて、弱い方で行くぞ」
あれを使うのか、しかしあれを弱い方って言うのは問題ありなんだけど。
そのまま。殺ってくださいと合図した。
裏リリスは、両手をヘソ付近の位置で交差させたり絡ませたりしながら、呪文の詠唱を開始した。
『昏き闇と融合せし漆黒の魔神達よ、混沌の破滅をこの地へと導け、爆霊の波動となり彼の大地に降り注げ…………爆霊黒魔冥王烈破』
圧倒的な存在感を示す闇の槍が、上空全体に覆い尽くす……その闇の槍の数は一万や十万の単位じゃない。
そんな槍が、一斉に上空にいるガーゴイル軍団に襲いかかる。
ガーゴイル軍団は、テラストラム擬き2体を残して全滅しちゃった。
「ば、バカな……あの2000体もの衛兵が一瞬で……バカな」
ガチムチ君が青ざめて震えているから、慰めてあげる。
「ガチムチ君、逆だよ裏リリスのあの魔法を受けて、2体も生きてるなんて自慢してもいいよ。恐らく僕の知るテラストラムより、防御性能が高いんだな。でも壊れかけだけど」
「さすがだの、これを受けて壊れぬとは、だが後一押しと言ったところか」
そう言った裏リリスは、右手をかざす。
「暗黒の力、七つの鍵をもって開放せよ、ルルイエの紋章に集い全てを貫く魔光となれ。降魔紋章光破」
裏リリスの周囲に7つの光の玉が出現して、かざした右手の前で紋章を描く、紋章が完成するとより一層輝きだし、紋章の形のまま光線となり、壊れかけの敵を襲う。
まあ、止めの一撃だよな。
2体のテラストラム擬きは消滅した。
「さて、お前ら香織ちゃんたちを舐めるように見ていたな? 一応本体が戻ってきてから、処遇を決めよう。間違いなく僕より怒るはずだからね」
見てるかい?
こちらは、圧勝したよ。
僕は4人の帰りを、このまま待つことにした。
キンジ「リリスちゃん大活躍でしたねぇ、もしリリスちゃんが気になるなら、鹿鳴館の作品『異世界に巻き添え召喚されました』の2章がリリスたんが登場しています」




