【152話】不死城②
ここは『生きた遺跡』と呼ばれる不死城の地下7階。
リマシター率いる横取り戦士たちは、グールと遭遇した。
基本性能は、ゾンビウォーリアーより少しだけ強い程度。
後は、弱い麻痺毒を持っているくらいだ。
リマシターも大馬鹿ではなく、予備知識をもって戦わせている。
そう、今までこの人たちは、聖水を使用しながら戦っていたんだ。
もちろん、麻痺専用の薬草を所持しているし、デトックスが『C』で対応出来ることも知っていた。
しかし、知っているだけでは、このグールと戦うには、少し甘かった様だ。
戦士の5人が軽傷を貰い、4人が麻痺毒に、かかった。
この戦いを見て、こいつらの戦闘能力をはかり間違えたのに気づいた。
対人戦闘ならば、ユタの一般戦士より若干強いと評価したが、対モンスター戦だと逆転して、少しだけユタの戦士がうまく戦えると思い直した。
そう言えば、僕も対人戦闘は大型モンスターと比べると若干苦手だもんな。
治療が終わり、ドロップアイテムをリマシターの所に持ってくる。
「こ、これは保温器ではないか! やっとこの階層からまともなアイテムが出てきた」
なるほど、クーラーボックスの事を保温器と言うのか。
じつは、クーラーボックスはユタの町とナパの町に少数、配ってある。
原理は分からないけど、普通のクーラーボックスより、頑丈で保温能力が高いのだ。
「はじめはどうなる事かと思ったが、このペースで行くならば、予定より多くの遺跡のアイテムを手にする事が出来る! みんなっ、頑張ってくれっ。褒美は期待できるぞっ!」
「おうっ!」
「森猿にこの報酬は勿体ねえ」
「俺等だけで独占してやろうぜ!」
「まて、まて、下層の泥と石くらいは恵んでやろう」
「さあ、気を引きしめて行くぞ」
「おうっ!」
「こらこら、正直に喋りすぎるな」
リマシターは、まともにフォローする事すらしないか。
僕は、このまま彼らを見続けた。
……
…………
地下8階層
ここからアンデッドモンスターの攻略が、段々難しいものになっていく。
ユタの戦士にも、僕なしでは地下7階までの許可しか出していない。
そう、この階層から出てくるモンスターは、ワイト。
死体に乗り移った幽体モンスター。
生前の名前を呼ばれると、動きが鈍くなる弱点があるのだが、こんなダンジョンで出没するワイトに、名前を調べる術はない。
後は、唯一の攻撃魔法使いが鍵となるか。
僕は運び屋も兼ねているので、クーラーボックスにレンガと粘土を詰め込んで運んでいる。
僕は戦い始める横取り戦士に邪魔にならないように位置どる。
ワイト対策をしていなくたって、本物の熟練戦士ならば、倒すことは出来なくても撃退までは可能だ。
出現したワイトは、たったの2体。
ドロップアイテムは、四種秘薬のパチもん品四種の薬剤。
中身は『超強力接着剤』接着剤の『溶解剤』どんな汚れ物もスッキリ洗う『超強力洗剤』もうひとつは『消毒液』だ。
凄く便利なアイテムなのだが、ユタの戦士が攻略出来ないから、流通はさせていない。
こう言ったのは自分達で何とかさせないとね。
「相手は、たったの2体だが、慎重にいけっ!」
「おおっ!」
「おお!!」
うまく戦う……だが、その程度じゃ、そのうち崩れる。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「ひぎゃぁぁっ!」
ワイトの精神攻撃が思いの外効いてるようだ。
昔、トウドウ、サイドウの部隊も全滅したって言ってたからな。
「おい、どうなっているんだ、この程度の怪我で何故あんな悲鳴を?」
「解りません。しかし我々も善戦はしたが、アイテムは見つけられなかったと聞いています」
(嘘です精神攻撃です。今んとこ、これを倒せるのは僕とペンタゴンだけですが、そのうち攻略しますよ)
因みに、ペンタゴンには地下11階層でドロップする『ゴーストタッチ』の特殊能力をもつ『鋼の剣』を渡したんだけどね。
ワイトとの戦いも、激化している。
「な、なかなか倒せない。どうなってんだ?」
「火だ、火を使え!!」
「……だめです。こんな混戦状態じゃ無理です」
「なっ、何とかしろ!」
「くっ………………今だ、ファイヤーボール!」
威力を弱めたであろうファイヤーボールがワイトに着弾する。
味方も被弾したけど、正解だと思う。
ワイトはファイヤーボールに怯んで逃げるように移動してきた。
そう後方にいる僕やリマシターに向かって。
「ひ、ひぃっ!?」
「大丈夫です」
向かってきたワイトを冷静に避けて見過ごす。
「ふう、よくやった。しかし……」
そうワイトが逃げた先は、上に帰る階段の方に行ったのだ。
「ちっ、だがファイヤーボールが有効なのは解った。もう少し戦いやすい場所で待機しよう」
横取り戦士たちが一様に頷く。
たしか、ここから近い開けた場所は、僕にとってのボーナスエリアだ。
何故ボーナスかと言うのはもう少しで分かるかもしれない。
……
…………
「ライトグラム伯爵、なにか対策はないのかね?」
どの口で僕に聞くんですか?
「聞いた話と照らし合わせてますと、普通の火では怯ます事は出来ましたが、逃げるような事はなかったと言います。攻撃魔法使いのファイヤーボールは有効なのでしょう。ユタの戦士たちも、最低2回は全滅しています。きっと素晴らしいアイテムがあるのでしょう」
「……むう。なら退路を確保しつつ、マホガニーのファイヤーボールで倒せるか試してみよう」
そして運の良いことに、ワイトはのっそりと1体やって来た。
逃げられないよう、着弾地点に気遣いながら発射する。
「ファイヤーボール!」
ワイトは機敏に動き出して、マホガニーに向かってきた。
「ひっ、ファイヤーボール!」
ほとんど仲間に当たりそうになって、陣形が崩れる。
そして、奇跡的なタイミングで2体のワイトがやって来た。
「怯むな! こいつは勝てはしなくとも、負けることもない! 隙を作ってファイヤーボールの餌食にしてしまえ!!」
「お、おう!」
「あっ、はい!」
横取り戦士たちは、まだ崩れない。
だが、リマシターはかなりびびってる様だ。
「ご安心をリマシターさんだけは、生かして地上に帰らせます」
そう言いながら、守るふりしてある場所に誘導する。
「ファイヤーボール!!」
優秀な攻撃魔法使いだ。
味方にギリギリ当たらないようしっかりと計算されている。
そして、それが出来ない場合は、威力を極力弱めて魔法を放つ。
だけど……
「ひうっ、えっ!?」
怯んだ拍子に、リマシターはあるスイッチを押した。
リマシターが押したのは、ボーナスステージへの道、トラップスロープを出現させたのだ。
キンジ「ランディさん、落とし穴、もとい滑り台、狙って誘導してましたよね。しかも、ランディさんにはご褒美でも、ほかの人たちは……チーン、次回で不死城シリーズは終了です」




