【131話】ターニングポイント(子爵→伯爵)
【43話】の伏線をやっと回収しました。
思い出せないひとは、のぞいて見てください
プリウス伯爵襲撃の事件から10日後、僕は王城に、呼び出された。
勝手に仕返しをした事で、呼ばれたのかな?
と思っていたら、別件だった。
集まっていたのは、王族特務隊に王宮騎士と王様がいた。
このメンツでいったい何があるんだろう。
「ランディ・ライトグラムよ。明後日に正式に言い渡されるが、そなたは『伯爵家』として、新たな任に就いてもらう事になった」
おおっ陞爵するのか。
しかし、新たな任ってなんだろ。
すると、ここにいる皆が残念そうな顔をしている。
ちょっと! 僕に何をさせる気なの?
そして、声をあげたのは、王宮騎士団十傑の1人、メロンさんだ。
たしか、本名はスターツ・フォラムだっけか。
特徴はスキンヘッドで、怒ると頭全体に血管が浮き出る見た目恐ろしい人だ。
この人も強すぎて、あのリッツ教官と同じくらいの強さを有している。
「ランディ・ライトグラム。おま……貴方は、伯爵となると同時に、領地を王より賜る事になる。その領地は伯爵家としては広大な土地だった」
なんだ、その台詞と合致しない表情は。
「その、土地の場所は、ノースコート地方最北端に位置する、無直轄地帯『エスクリダオパルキ』通称『エスパル』だ」
ノースコート地方は聞いたことあるけど、エスクリ何とかは聞いたことないな。
今度は、王様が口を開いた。
「あそこは広大な土地の割りには、住める場所が非常に少ない。しかも敵国『アカシア王国』の国境のせいか、ここを治める者はいない」
「国境なのに、誰も治めていないの?」
なんか、おかしいよね。
「ランディ、お前高等学院でバトルしかしてなかったのか? エスパルは北側の国境が大渓谷となっていて、しかもほとんど人が居住しにくいエリアだ。ただ、今は人口は千に満たない小さな町がひとつあるだけだ。まあ村と言っても構わないくらいのな」
王子に言われると、若干腹が立つの何故か?
「その町の人は、移住とかしないんですかね?」
「ランディは郷土愛と言う単語をしらねぇのか? 彼らは貧しいながらも、今の土地で暮らすことを選んだのだ」
王子に言われると、かなり腹が立つのは何故か?
「で、その町を含むエスクリなんとか一帯を、僕が治めるって事ですね」
そこで、王様が申し訳なさそうに話してきた。
「領地で言えば侯爵クラスだが、人口で言えば男爵や子爵並みだ。ランディにはこの非常に統治の難しい領地を任せることになってしまった。すまないな」
うぅむ、陞爵は兎も角、領地は王様の意図しない方に、話が成立したと見た。
ここの王様は、絶対権力者じゃないからな。
「オヤジ、そう気を落とすな。あそこは屈強な獣を狩って、その素材で生計を立ててる町だ。ランディには、お似合いの領地じゃないか」
「このバカ息子が! ランディ商会が丸ごとなくなった事を想像したのか?」
「あっ…………くっ、誰だ、ランディをあの領地を薦めた奴は」
「遅いわっ」
こんな場所で、親子漫才をやってていいんですかね。
僕としては、ロイエン、クラリス、ついでにレジーナの恩返しをする環境と金をプレゼントするだけだ。
たがら、辺境に転居するのは、都合の良い可能性が高い。
それに、冒険の香りもするし、楽しみだ。
「さて、忙しい私がここに来て、ランディを呼んだのは、もうひとつ理由がある」
王様が手で合図をすると、王宮騎士の1人が消えて、代わりに『フルプレートメイル』がやって来た。
「これは?」
「これは、我が特務隊が命を懸けて手に入れた、アカシア王国の鎧だ。これは正体不明の金属で出来ていて、軽くしかも頑丈に出来ている。お前にも見て貰おうと用意した」
説明してくれたのは、王様の弟で特務隊のボスだ。
最近は信頼されているから、よく解らない事まで聞いてくるが、鎧を見るだけで何が解るんだろうか。
フルプレートメイルを調べると、出来の良い作りになっていて、かわりに体格が合わないと使いにくい
仕様になる。
これを、この国で精製出来る金属から鎧を作ると、軽く120㎏は超えるだろう。
これを装備すれば、超重騎士の出来上がりになるな。
関節もガードされているから、攻略の難しい鎧だ。
ただし、こんな重装備を使いこなせればだ。
持ってみると、思いの外、軽い金属でできていた。
60㎏満たないかもしれない。
「強度はどんな感じでしたか?」
「二組しか奪うことが出来なかったから、調べ尽くしてないが、厚い部分は剣すら通さない。装甲の薄い箇所ですら強度があり、矢も通さない」
似ている。
ミスリル銀に、非常に近い金属とみた。
アーマークラスはこれ一組で12又は13くらい有るかもしれない。
すると、その鎧を装備した、誰かがこの場にやって来た。
「ランディ、コレと闘ってみろ。コレの中身は竜神の加護を持った王宮騎士だ。既に何回か試してみたが、無敵と思えるくらいの結果だった」
王弟のボスが、ニヤリとする。
後ろで、サンジェルマン馬鹿王子も腕を組んでニヤリとする。
2人の共通点見つけた。
王族の次男は、そういった血統なのだろうか。
先ずは棍を借りて、闘ってみる。
……
…………
こちらの攻撃は、ことごとく通用しない。
何回か闘っただろうから、試合運びもうまくなったと想像できる。
関節の稼働部や装甲の薄い箇所に当たらないよう僅かに体を動かすだけだから、次の攻撃に移りやすい。
こっちは狙いを定めながら、力もかなり入れないと衝撃が通らない。
多少の実力差では、この鎧を攻略できない。
だけど、王様も特務隊も王宮騎士も僕が負けるのを期待して呼んだわけではない。
ならば、攻略法を示してあげないといけない。
「武器の変更をお願いします」
僕が手にしたのは、ハンマー。
相手は王宮騎士とは言え、実力は中くらいと見た。
さあ、再戦と行きましょう。
何度か撃ち合いをした後、説明しながら闘う。
「この装備の弱点は手首。ここの強打に成功すれば、武器を落とすことができます」
ハンマーを逆に持ち、攻撃に速度を上げて叩く。
勿論、初手で上手く狙わせてくれないから、フェイントや他の部位への攻撃を織り混ぜてから、本命を狙う。
「……と、こんな感じに武器を落とす訳です」
「おおっ」
「さすが師匠」
「むう……」
「チッ」
誰?『チッ』って言ったの。
馬鹿王子だった。
王子じゃなかったら、ここで僕と試合させるのになあ。
「さらに、関節の稼働域が狭い。転倒すると立ち上がるのに時間がかかる」
ハンマーを器用に使って転ばせる。
「急所の頭部を守るために、視界が狭い。命中しなくてもそこを狙えば、いくらか怯みます」
ハンマーの柄を使い、顔面上部に連続して叩き込む。
「最後に頚部を稼働可能にしたため、大きな弱点があります」
隙の出来た王宮騎士に、ハンマーで頭部を強めに叩く。
「アグッ!?」
すると、頭部のみ激しく揺らされた衝撃で、王宮騎士はよろけて倒れた。
「バカな……あの鎧を装着したジョーシンは、十傑と闘っても負けることがなかったのに」
「さすが師匠、先の棍での闘いで弱点を看破されていたのか」
「さすが主殿、命を懸けてあの任務を達成した甲斐ができた」
「ああ、多くの特務隊が命を落としたが報われたな」
話した順番は、王宮騎士の誰か、特務隊マテラ・ラーン、ガルサンダー、ボスだ。
あと、僕が倒した相手はジョーシンデ○キさんでした。
ちょっと闘っただけで、喜びようを見ると、少なくともこの国では、重騎士はいなかったと確信した。
確かに、既存の金属を使ってこの鎧を制作すれば
重すぎて、戦いにならないからな。
だから、アカシア王国の技術力の高さが気になるな。
「そう言えば、アカシア王国って毎年戦争してるけど、何年か前から停戦してるんだっけ?」
「6年前からだ。アカシア王国が6年前に休戦協定を申し入れてきたんだ」
そうだ、たしか学院に在学中、アカシア王国の話を聞いた。
毎年定期的に小競り合いをしていた、アカシア王国が、突然休戦を申し入れていた話を。
そうか、恐らくその少し前に新金属を発見し武具にしようとしたのだろう。
そして、6年間で開発、量産をしたのか。
特務隊が気づくのがもう少し遅ければ、次の戦争は大敗したかも知れない。
だけど、もう少し早かったら色々対策が練れたのだろうけど。
あれ、まてよ?
「ねぇ、今までアカシア王国軍との戦争って何処でやってたの?」
「うむ、ノルデンバーグ地方のタタカッタ高原でその争いは行われていた。今までは様子見の争いだったが、今回は大きな戦になるやもしれん。丁度今年で停戦協定が切れた。今回は我ら王宮騎士もその戦に参加する」
そんな大事な時に、僕は別地方に行くのね。
僕は、僕でやるべき事をするか。
こうして僕は数日後、伯爵になった。
マテラ・ラーン「師匠がいなくなる……」
ガルサンダー「主殿が、辺境に……」
二人「「特務隊辞めるか」」
バカ王子「待てっ、はやまるなっ」
(まずい、なんとか対策を練らねば)




