【127話】ランディの誤算
後れて申し訳ございません。
僕を見つけては、チラチラ見たりしていた、レッドカーペットを歩く大貴族たち。
さすがに、周囲にいる侯爵等もここら辺に何かあるのかと思っていた所で、ドルデルガーさんとトワイライム姉さんが手をにこやかに振りやがった。
あかん、このままだと思いっきり目立ってしまう。
ならば持ち技のひとつを、ここで使おう。
僕はビックリした表情で、大袈裟にオタッキを見る。
「えっ? どうしたんだな? あれっ、なんか感じる視線が凄いんだな」
成功だ、ランディ奥義『スルーパス』これで、僕は助かる。
「数々の公爵や、来賓の大貴族の注意を引くあの者は?」
「知らない……侯爵ではない。ならば伯爵家か」
楽しそうな会話が聞こえてくるなか、次の来賓集団が入城してきた。
「ターベール王国、宰相、ムニエル・フォン・ターベール!!」
「宰相のムニエル様は、血縁を重要視するターベール王国にて、血縁がないのにターベールの姓を得た、特別に優秀な御方だ」
だからなんで、このジイサンは他国にも詳しいんだ?
「ターベール王国、闘食大臣、パスタ・フォン・ターベール!!」
「ターベール王国、育食大臣、マリネ・フォン・ターベール!!」
「ターベール王国、増食大臣、ドリア・フォン・ターベール!!」
あっ、ドリアさんがこんな所に。
『ヌホォ! ランディどの、出掛けてきます』と言って、昨晩からいなくなってしまったので、家族に会いに行ったのは予想していたんだけど、参加していたとは。
「あのお三方は、ターベール王国、国王の『チーズ・フォン・デュ・ターベール』の子供たちで、どなたも有能な大臣だと聞く。しかしドリア様、何処かに留学したと噂を聞いたのだが、まさかアルカディアに留学していたのか?」
恐ろしいほどの情報通なんだけど、何故ちょっと調べれば解るはずのドリアさんの居場所を知らないのだろう。
そんなことより、ドリアさん分かっていますよね。
絶対に手なんか振るんじゃありませんよ。
ドリアさんを見ていたら、目が合ってしまったが、ドリアさんは僕を気にせず、兄弟とお話。
ふう、話の解るやつで良かった。
すると、ドリアさんが僕の方に手を向けた瞬間、2人の大臣が頭を下げた。
ざわつく周囲に僕は、驚愕の表情でオタッキにスルーパスする。
「オタッキ……まさか、お前の芸術は他国にまで浸透しているの!?」
「えっ、知らないんだな。何故みんな、拙者を見ているんだな?」
実の祖父すら騙す顔芸、振り向く速度と角度が大事なのだよ。
それから、ムアミレプ王国のアンジェラ女王は、スカートを摘まんでお辞儀するし、ベルテタル聖国のヘキサゴンは片膝を地に付けるはで、その度にオタッキにパスしてやった。
そのせいか、全員の入城が終わって流れる音楽が静かになった頃、大貴族の集団にオタッキ含むダイハピネス家は、連行されてしまった。
ダイハピネス家は、侯爵と繋がりが持てるし、僕たちは、大人しく食事が出来るから、良いことだらけだね。
「ランディ、なぜ貴様がこんな場所にいるのかっ!」
聞き覚えのある方をみると、ゴテゴテに着飾った、ダメッサー侯爵がいた。
ダメッサー侯爵、こいつがこの国の最高訓練学校の1つ『ウエストコート高等学院』を取り仕切っていた貴族。
こいつとのイザコザのお陰で、学院を3年半しか通う事が出来なかった。
しかし、その縁で今の僕もあるのだから、個人的には嫌いでも、恨んでもいないし、敵でもない。
「お久しぶりでございます、メッサー卿。私は、幸運にも、ロベルト王子様の家庭教師役や荒事の処理役として活躍しております。それも短い期間でしたがメッサー卿の管轄していた、学院のお陰でございます」
「…………ふん、私が第一区画に入れるのも、ほんの僅かだが、貴様が関係しているようだな。だが感謝しない。何故なら私はあれから、ド田舎に飛ばされたのだからな」
言ってることが微妙に解りませんね。
たしか、大きな領地を貰ったって話だったような。
「貴方、そんな事より早く」
ダメッサー夫人と思われるおばちゃんが、階段の上を見ながら、早く移動しようと催促している。
「くくっ、どうやってここまで着たのか疑問だが、どこぞの侯爵家の護衛に任命されたか? しかし! 私はさらに上の地位にいるのだ」
さらりと取り出すのは、第一区画に入るための、金のプレート。
なんと、ダメッサー侯爵はさらに上の貴族にも親密な繋がりがあると言うのか?
~
実際は、票が余った一部の王族やオステンバーグ公爵が、メッサー侯爵が泣く泣くランディを切り捨て、王都に送ったと言う誤報を信じて、彼に票を投じたのだった。
~
「ふふん、貴様と私の格の違いを、上から眺めてやろうではないか」
どや顔の息子かもしれない、ダメッサーそっくりのおじさん2人と、おばさまと、護衛の5人で誇らしげに階段を上っていく。
まぁ、そんな事は気にせず、食べ物を探そう。
◇
◆
◇
城内二階(第一区画)
ここでは、王族、公爵、諸外国からの来賓、一部の侯爵が、技術の限りを尽くした料理、王族や公爵ですら滅多に飲まないほどの珍しい酒で、雑談をしている。
公的な話は、既に前日に済ませていて、大臣や侯爵が他国に取り入ろうと言う場に近いものがあった。
その中、エリザことエリザベート・フォン・ウエストコートは、若干焦りと苛立ちを覚えていた。
(ランディを城内で見つけて喜んでいたら、後続の来賓たちが、揃いも揃ってランディに注目している。アルカディアの西に行って、たった1年の間に何があったの?、それにベルデタルは東の国だったはずよ)
エリザの情報には『ベルデタル聖国の乱』はなかった。
一方、アルテシアンナ王国次期国王と、称されているドルデルガーも、自身を持ち上げる話を、心半分に聞きながら、王位継承権第一位を成しえた、一番の功労者、ランディを見ていた。
「お父様、話が一区切りしましたら、下階へ降りても良いかしら?」
「ライム? 下に降りても、得る話なんか……あっ」
ドルデルガーの側で話し合っていたのは、妻のトワイライムと、その父親であり、アルカディア王国の国王だった。
そして、下に行きたいと言う、娘の意図を遅まきながら気づいた。
どうにかして断ろうと、言い訳を考えていたウィルソンだったが、主賓の1人で第二王子のサンジェルマンがやって来た。
「姉上、既に公務は先日と午前で終わっている。家族としての話も昨晩にやった。警備も問題ない、いやあいつの近くに行くなら、強化したようなもんだ。好きにすればいいんじゃないか?」
「なっ!?」
サンジェルマンの言葉に、ウィルソンは驚く。
だが、この自分の言葉が原因で、自身が驚く事になる。
「貴方、愚弟の許可は貰ったわ、ランディの所に挨拶に行きましょ」
「ラッ、ライム、サンジェルマン殿にその呼び方は失礼であろう」
「いいの、いいの、ランディはちょうど3皿めを食べ終わるところ、なんの遠慮も要らないわ」
トワイライムは、ランディを逐一監視して、降りるタイミングを計っていた様だ。
「ドルデルガー殿、貴方は既に次期国王が確定している。そろそろライトグラム殿の恩恵を我にも頂きたい物だが」
「フランクルン公爵」
「そうですぞ、ドルデルガー卿。ここはエンカム卿とペソヤーマ卿に任せて、ライトグラム子爵を紹介して頂こう」
「ギルダエルダ公爵まで」
「仕方ないわね、みんなで行きましょう」
「ライム……」
こうして、アルテシアンナ側は、半数近い公爵が下に降りる階段に向かって、移動を始めた。
「……ネオハイム妾も、下階へ向かうのじゃ」
「アンジェラ女王……節度を……」
「ネオハイム、お前が今、この地位にあるのはどうしてなのじゃ?」
「ぐっ、ラ、ライトグラム殿と王女様をお守りした功績によるものです」
「その通りじゃ。ならば、しかと挨拶せねばな」
「はっ」
動き出すムアミレプ勢、それを見ていた、エリザ早歩きを始める。
「おい、国王! 使徒様……ランディ殿の愛弟子でる、私が後れをとるのは、非常に不味い事態だよな?」
「ハイ、ソウデスネ」
(あの、優しき剣聖ヘキサゴン様も、私には冷たいんだよな……)
「ならば、走らねばなるまい」
「ハイ、ソウデスネ」
(ヘキサゴン様も脳筋軍団の一員でしたか、場をわきまえて欲しいのですが)
「ぐずぐずするな、行くぞ!」
「ハイ、ソウデスネ」
(髪を引っ張らないでぇ。お飾りでも私、国王なの!)
ベルデタル聖国の様子を見ていた、ターベール王国陣営は……
「ヌハァ! 出遅れてしまった。 ヌホゥ! まさかこんな式典で、アグレッシブに動くなど想像していなかった」
「ここで、出遅れるのは食の国、ターベールのメンツに関わりますな。パスタ、マリネ、何とか出来ないか?」
「ここで、ドリアに責任を取らすの簡単だが、それではなんの解決にもなりませんな」
「パスタ兄さん、わたくしに案がございます」
話しているのは、ドリア、ムニエル、パスタ、マリネの順番だが、急ぎ足で歩く4人の内、マリネの瞳がキラリと光る。
「ドリア、出遅れたのは貴方の責任、貴方が挽回するのです」
「姉上? 何を……ヌハ? ヌ、ヌヒィィィィィィィ!!」
階段上にて、マリネに蹴りを喰らったドリア。
「なるほど、流石はマリ姉、ドリアの肉体なら、大きな怪我もなく、転がり追い付けますね」
今、城内の中央にある大階段は、混雑の極みにあった。
「はぁ……何てこった」
サンジェルマンのため息の真後ろで、怒気を含んだウィルソン王がいた。
「馬鹿者が、おまえの何気ない一言で、とんでもない事態になったぞ」
「ははっ、これは俺様も想定外だ。もう知らん」
怒るウィルソン王を前にして、早速諦めるサンジェルマン王子。
ここで2人の貴族が、やって来た。
「王よ、この混乱を静めるには、簡単にはいかないでしょうな、しかし私ならば何とか出来るかと思います」
「サウスコート公爵、やってくれるか」
「待て、サウスコート卿1人では心許ない。私も馳せ参じよう」
「おぉ、オステンバーグ公爵まで」
「では、オステンバーグ卿、行きましょう」
二大公爵の動きを、邪な物と察したウエストコート公爵も『嫌な予感がする』と言って、家族を連れて動き出す。
こうして、贅を尽くしたはずの第一区画は、3分の1が消え、残りの半数以上が第二区画を見下ろせる端に集まり、お通夜の様な雰囲気を出していた。
◇
◆
◇
ドドドドドドドドド…………
「ヌヒィァァァァァァァ」
えっ? 何事? えっ!?
ロイエンとクラリスらに、真似したいメニューを聞きながら、楽しく食べていたら、物凄い音が聞こえてきた。
1人はドリアさんの悲鳴で間違いないけど。
悲鳴のした方を見ると、エリザ姉さんやヘキサゴンを筆頭に見知ったら顔がズンズンと、歩いていや、もう走っていた。
僕、なんかした?
「ランディ!」
「ランディ!!」
「ランディ殿」
「ライトグラム殿」
「ランディッ」
「ライトグラム子爵!」
「ランディ子爵!」
「し、ランディ殿」
「ランディさん」
「あ~、はい。僕、身体はひとつしかないんで、お手柔らかにお願いしますね」
ロイエンとクラリスは、泡を吹いて気絶していた。
「ヌハァ! 1位とったどォォォォ!!」
「くっ、肉体強化も、限界まで使ったのに、2番か」
「一番先に動いたのに、3番目なんて……ボヤンキー、お仕置きよ」
「ライム、アルカディアは楽しい国だな。ここでは4番目だったか」
「えっと……私がいた頃は、馬鹿はサンジェルマン1人だったはずよ。私は5番目ね」




