【122話】特務隊、帰還
タイトルから、話がずれますが、後半はパーティの話に戻ります。
あの時のお茶会から約1ヶ月後、事件は起きた。
ロベルト王子の家庭教師をしていたら、奇妙な気配に気づいた。
ただ、判っているのは敵意ではないこと。
僕は好意には気づかないし、敵意でもない。
なんだろうと思っていたら、部屋をノックする音が聞こえた。
「ロベルト王子、学習中大変申し訳ないのですが、ライトグラムさんを、お貸し願いたい」
「うん、事情があるのだろ? 君の名前と、ランディを要請した依頼主を教えてくれ」
ロベルト王子もあの頃と違って、一端の少年になった。
確か13歳くらいだっけか。
「はっ、私は王族特務隊所属、モライモン・ケンダーです。依頼主はダー、サンジェルマン様とジョナサン様です」
えっと、ジョナサンって誰だっけ? 聞いたことあるんだけど……
「兄さんと叔父上が!? 分かった。ランディ、僕に構わず行ってくれ」
「分かりました、ロベルト王子。それではっ」
そうだ、特務隊の隊長だった。
普段は称号でしか聞かないから、分かんなかった。
因みに称号『ダークマスター』は王様の弟だ。
近年非常に忙しく、北方の任務に出突っ張りだった人だ。
帰ってきたんだな。
しかし、何で僕を呼んだかな?
サンジェルマン王子達が、勝手に僕を非常勤幹部にしちゃったから、怒ってるのかな。
案内人の『貰い物は剣だ』さんに、付いて行く。
コンコン
「モライモンです! ダークロッド様を連れて来ました!」
「入れ!」
部屋に入ると、サンジェルマン王子、アルテリオン、多分だけど特務隊隊長と、片眼のないガルサンダーに片腕のマテラ・ラーンが居た。
王族特務隊『ダークマスター』『ダークスピア』『ダークソード』『ダークダガー』『ダークナイフ』そして僕『ダークロッド』と、殆どの幹部がここに集まった。
ガルサンダーとマテラ・ラーンは、疲労の抜け切らない状態だったけど、やりきった表情をしていた。
そう言えば、ボスも無精髭をはやして疲れているみたいだ。
「おおランディ、タイミング良い時にロベルトの所にいたな。オジキ、こいつが報告していたランディだ。目茶苦茶やりやがるから、よろしくな」
「バカ者! ここでは隊長かボスと言え! ……んんっ、お前がランディ・ライトグラムか」
「はい! お初にお目にかかります。ランディ・ライトグラムです。正規ではありませんが、王族特務隊、幹部の末席を預かっています。よろしくお願いします。 おや? スピアさんどうしました?」
サンジェルマン王子は僕の方を見て、驚いた顔を見せている。
「お、お前、まともに挨拶を言えるじゃねぇか。ビックリした」
「おおバカ者、話の腰を折るな! ランディ・ライトグラム、お前がダークロッドとしてここにいるのは知っている。だがその名を貰ったからには、不様な真似は出来ぬぞ? まあ十傑ふたりを同時に相手取って引き分けるならば、心配あるまい」
ほっ……どうやら、怒られる訳じゃなそうだ。
バカ王子は、怒られていたけどね。
「ランディ、呼んだのは他でもない。ダガーとナイフが任務を終えて帰ってきたからな。しかも、土産付きでよ。2人とも、お前に誉めてもらえばと思って呼んだんだ。ランス以外は全員集合したしな」
「あれ、特務隊の幹部にはもう1人『ニードル』っていませんでした?」
すると、満足気にしていたガルサンダーとマテラ・ラーンも顔を引き締めた。
「ランディ、ニードルは死んだ。ニードル、ダガー、ナイフとオジキは、北のアカシア王国に潜入任務をしていたんだ。まぁ詳しい話は何れするとして、今は2人を誉めてやってくれ」
2人を見る。
押せば倒れるくらい疲れているだろうに、自信に満ち溢れた顔。
余程の成果を上げて来たんだろうな。
確かに2人は、投げたボールを口に咥えて運んできた犬に近いものがある。
「マテラ・ラーン、ガルサンダー、よくやった。その姿を見れば判る。過酷な任務だったのだろう、しかし成果を出した。改めて言うね、よく頑張ったね」
「師匠」
「主よ」
ボスが2人の言葉にピクッとしたけど、気づかない事にしよう。
僕は目の前の2人に、形で労う事にした。
「これからも、僕と一緒に働こう。第5レベル呪文……シリアスリジェレネイト。第5レベル呪文……シリアスリジェレネイト。おまけに第2レベル呪文……ライトヒールサークル」
僕の回復呪文に、まず反応したのは、ガルサンダー。
さすが雷撃のガル。
「み、見える!? まさか主の回復魔法は、失った眼球まで回復できるのか?」
そして、片腕だったのが急に腕を生やして、バランスを崩した、マテラ・ラーン。
「う、腕が生えたぁぁっ!? し、師匠っ!!」
そして、再生呪文に気をとられていたボス。
「回復魔法についても怪物級とは聞いていたが、再生魔法の後に、体力を戻す広域回復魔法を使ったのか? ダガーとナイフはおろか、私の体力まである程度回復させるとは……なるほど王宮騎士より、こちら側だな。スピア、この男は式典ではどうなのだ?」
すると、サンジェルマン王子はニヤリと笑う。
「残念だったな。ランディは子爵だが、俺の誕生式典のパーティに参加だ。この俺が、ランディに招待状を提出した。オヤジは分からんが、ほぼ中庭は確定だろ」
「バカ者、サンパウロ王子が一年前倒しで、次期国王に内定する式典があるから、そっちが主になるだろ。ランディが護衛に付かないのは勿体ないが、不在な訳じゃないから、構わんか」
でも、事ある毎に『バカ者』呼ばわりされてるな王子様は、プククッ。
◆
◇
◆
「と、言うわけで、屋敷に届くはずの招待状が2枚ある」
サンジェルマン王子は、僕とアルテリオンを連れて、王子の所有する一室で、豪華な封書を2枚出した。
「王子は悪趣味ですね」
うん? 意味が解らないのだが。
「サンジェルマン王子、何故招待状が2つなの? アルテリオンって、たしか伯爵だよね? ずっと前に招待状が届いていたんじゃ」
「ランディ君、実は『侯爵家』『長官職』『伯爵家』の招待状は仮でね。正式な物は先日配られ始めました。地方の貴族は王都の正門で、真の招待状と交換するんだよ」
へえ、面白い事するなぁ。
「だから、王子が持って来たのは、私とランディ君の招待状で、ここで開封すれば、何区画まで入れるか判ると同時に、推薦者を見れるからですね。王子様」
おお、アルテリオンが嫌みで『様』を付けている。
「そう言うな、アルテリオン。招待状の選別が公正過ぎて、知りたくても分からなかったんだからよぉ」
「まぁ、いいですけどね。最初は私のにしましょうか」
「ああ、そうだな。開けてくれアルテリオン」
アルテリオンは、スッと刃渡り五センチ程の暗器を取りだして、手首の返しだけで、綺麗に封を解いた。
あら、格好いい。
なんて様になるんだ。
「あっ」
アルテリオンが驚いたかのように、銀のカードを取り出す。
「純銀製のプレート、私は第二区画に入れるようですね。ふむ、上位の貴族に心当たりは2つくらいしかないのですが……」
封書の中にはもう一枚、上質の紙が入っていて、そこにはこう記してあった。
サンパウロ第一王子、☆☆☆☆
サンジェルマン第二王子、☆☆☆☆
マキシマム侯爵、☆☆
マドカラス侯爵、☆☆
アルテリオンの右に僕、左にサンジェルマン王子が顔を並べて覗き込んでいた。
「ああ、なるほどサンパウロ王子様は、護衛を兼任させたくて票をいれたのですか。そして王子は、楽しそうだから……ですね?」
「いや、俺って仲の良い貴族ってあんまり居ないんだわ。しかし兄貴のお陰で面白い事になったな。次はランディだ」
「ええ。早くも1人だけは、誰の名前があるか、分かってしまったけどね」
そうだね、この流れなら、王子の名前はあるだろう。
後は、マクドバーダさんと数人いるかもって話だから、もう少し☆が集まれば、中庭に入れそうだな。
「ランディ君、☆1つ以上で青銅プレートで第四区画。☆6つ以上で純銅プレートの第三区画まで。念のために言っておくけど、私と同じ純銀製のプレートを手にするには。☆が16個必要だからね」
16個か、それは厳しいかな。
伯爵家にそんな知り合いなんか、たくさん居るわけがない。
まあ、外でパーティを楽しむとするか。
特務隊の仕事で城に入ったら、自由に食事出来ないしね。
僕は封書にすら刃物が使えないから、封書の筋にそって一気に引き裂いた。
「乱暴だな……おおっ!?」
王子と一緒に、カードを取り出して驚いた。




