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篠崎が、雑な手つきでカバンにスマホや財布を次々に放り込んでいく。
アズは机の上の書類を丁寧にそろえ、クリアファイルにしまった後で引き出しに納めた。
終業のチャイムが鳴る。
「それじゃお先―」
御子柴がコートを手に、カードをレコーダーにかざす。
ピッ、と大きな音が鳴り、退勤時間が記録される。
「えー御子さん待ってくださいよー」
PCの終了画面を前に、美礼が騒いだ。
「また明日ねー」
御子柴は手をひらひらさせながらガラガラと引き戸を開け、廊下へ出ていく。
美礼がわざとらしく泣き声を出しながら、のんびりと帰り支度をしている。
その後ろを、アズは通り過ぎた。
「お先に失礼します」
「アズさんまでー」
美礼が振り向いてわめく。アズは一礼して、廊下へ出ていった。
「カギ閉めるよ」
上着を羽織りながら、垣内がやんわりと言う。
それでも美礼は鼻歌交じりにのんびりと私物をしまい、ロッカーへ。
垣内は苦笑しながらそれを見守っている。
それを横目に、篠崎はくたびれた茶色いコートを羽織る。
「んじゃ、お先」
カードをかざした後、篠崎はスペースから外へ出た。
廊下に出ると、他部署から出てくる職員と行き交う。
ぞろぞろと、五、六人。
篠崎は一緒に、ちょうど扉の開いたエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まり、エレベーターがゆっくりと降りていく。
篠崎はふと、胸のポケットを探った。
タバコは残り少ない。
帰りにコンビニにでも寄るか。ついでに夕飯もそこで調達しよう。
減っていくフロアの表示を見ながら、篠崎は思った。
でも、特区内のコンビニは、この時間はいつも混雑する。
手の大きな、一つ目のサイクロプス族の店員。いつも商品を詰めるのに苦労してんだよな。
やはり特区の外の店舗に行くか。
なんだか薄暗い雰囲気の、いつも疲れた顔のオバサンがいる店。
……ああいう店のほうが、自分には合っている。
そんなことを思いながら、篠崎は自嘲気味に、口をわずかに曲げた。
ポーン、と音がして、一階に到着した。
他の職員と一緒にぞろぞろとエレベーターを降りたところで、横から声をかけられた。
「篠崎さん」
「あ?」
篠崎は目を向ける。
アズが追いついてきて、隣に並んで歩き始める。
エレベーターを降りた職員たちが出口へ向かって歩いていく。
「先に出たんじゃなかったのかよ」
「はい」
アズは手に持っていた缶コーヒーを差し出した。
「なんだよ」
「ブラック、ですよね」
篠崎はアズの顔を見た。
「条例案、お手伝いしていただけるので」
篠崎はアズの顔と缶を交互に見た。
手伝いもなにも、それは仕事だ。コーヒーを差し出されるようなことではない。
そう考えたところで、自分が渡した缶コーヒーのことを思い出した。
「ほんっと、律儀だなお前は」
「その言葉、あなたにお返しします」
アズの言葉に、篠崎は苦笑する。
それから、少し迷って、アズの差し出す缶に手を伸ばした。
アズの尻尾がくるん、と輪を描くように動く。
「では」
ふいに、アズが立ち止まる。
正面には特区の出入り口のゲート。亜人用の居住区はこの道路を右、だ。
「明日も、よろしくお願いします」
アズは丁寧に一礼した。
「おう」
篠崎は立ち止まって、右の道へ向かうアズを見送った。
それから、門へ向かって歩き始めた。




