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カガリノサイレント  作者: 若井 響虫
3/4

青春っぽいイベント

 僕の通う高校は、一応進学校ということになっている。だがまぁ田舎の中堅といったところだ。実際は勉強と部活、遊びなんかもバランスよく取れる、ある意味平均値な学校だ。


 そのため、倍率は高いくせに、口コミはまあまあな学校なのである。


 色褪せた灰色が目立つ無駄にでかい校舎には、酸性雨の汚れで爛れて黒い跡がついていて、汚いと女子は言う。制服に関しては、僕は知らないけど、女子からしたら地味な方らしい。


 男子諸君からしたら一番重要なのは男女比なわけだが、これはなかなかよろしいみたいだ。もちろん僕には小指の仲の子はいないけどね。そもそも僕が誰かを好きになることはないし、誰かから好かれることも、その資格さえも……


 と、やめておこう。こういう話すると、「自分語りはきしょいぞぉ」とか言われる。そんなつもりはないのにな。


 まぁ、なんだかんだ青春を楽しんでいるような学校だ。今日も綺麗とは言えない廊下には、生徒達の談笑の声が響いている。

 

 僕はというと、その中を汗まみれで、おぼつかない足取りで早歩きしている。


 「おはようございます」


 僕が教室に駆け込んだ時、ちょうどチャイムが鳴った。荷物の重さで肩は痛いし、薄い素材の夏用ズボンが肌に引っ付いて嫌な気分だった。


 教室のエアコンはついておらず、古ぼけた2台の扇風機が壁から軋む騒音と共に風を教室全体に送っている。だが、そんなもんでこの僕の熱を冷ませるもんなら冷ましてみてくれ。頼むから。


 僕の席は真ん中の列だ。そのすぐ横の通路では、いつもの顔ぶれが談笑していた。


「ようレイタ」


 セガワ ソウゴことセガソウ。ヒーローオタクなやつ、身体的特徴とかは特にない、しいていうなら背が低い。あと、熱心なオタク感が一目でわかる。


「おう、相変わらずだな」


 カツマタ レオ。背が高くて、口が悪い。目は細め、人相は悪い方だと思う。


「レイタ氏、相変わらずですな」


 ヒノ キラ。こいつも背が高くて、肩幅が広い。で、レオンよりも目が細い、ほぼ閉じてる。人相は悪いというか、サイコな感じがする。


 僕はというと、僕も背は高い。2人よりちょっと劣るが。あと、肩幅は結構広い方だ。2人よりもがっしりしていると思う。顔に関しては、自分でとやかく言うのはかっこ悪い。ただ、僕は眼鏡だ。


 さらにいうと優しい顔をしていると言われる。特におじさまおばさまから。


「ああ、はよう。あー暑い」


 などと言いながら、僕は3人の横を通り過ぎていく。


「懲りねえなあお前も」


 レオが嘲笑う。


「うるさい。うるさい」


 僕は椅子に座り、机に置いた鞄に顔から突っ込んだ。今日は朝からうるさいと言ってばかりだ。


「毎朝よー、汗だくでくるこっちの身にもなってくれっての」


「ほんと汗だくだねー大丈夫?」


 隣の席のナツハさんが聞いて来る。


「んなわけないしょーがいこーだいしょー」


 僕はやる気なく答えた。


「おいおい、レイタ。そんなんじゃサプライズを楽しめないぜ」


「サプライズって?」


 キラは相変わらずの細い目で笑うだけだった。


「くっそ、うざったらしーな。さっさと座れよ」

 

 僕は半ば切れ気味で言ってやった。


「つれないな」


「よしな。レイタ疲れてるんだ」


「あー、その通りですなぁ」


 皆、好き勝手言って自分の席に戻って行った。


「はぁ、なんだよもー」


「すぐわかると思うよ」


「えっ?」


 ナツハさんに聞き返そうとしたが、カガ先生が教室に入ってきて、聞きそびれてしまった。見ると皆も、落ち着きがなく、何か期待しているみたいだ。なんなんだいったい。


 だが、すぐ理由はわかった。


「おはよう。早速だけど、、でも、まあ、なんか皆んな知ってるみたいだな」


 皆の顔をよく見るとにやけていた。


「じゃあ、いちおう言うけど、今日、転校生が来ます。このクラスに」


「えーっ?」


 僕は、半分本当に驚いて、驚嘆の感情を素直に出した。


「おっ、レイタいい反応だな」


 カガ先生が、浅黒いほとんど皮だけみたいな口角を上げて笑った。皆もつられるように軽く笑った。なかなかいい反応だったらしい。


 しかし、転校生とは驚きだ。そんないかにも青春っぽいイベントが、こんな中途半端な田舎の学校で起きるとは。


「さて、男の子か女の子、どっちか知ってるか?」 


「「男!」」


「「女!」」


 クラスメイト達が一斉に口々に発言した。僕は「男」に一票入れた。


「ほぉー、そうかぁ。えー、じゃあ紹介しようと思ったけど、あの言った方じゃなくてもブーイングとかするなよ。てか、こんなこと聞くんじゃなかったな。ごめんごめん」


 とか言って、カガ先生が腑抜けた笑いをみせた。こういう、ちょっとしたなよなよしさがあるのが、この先生の人気の秘訣なんだろう。


「じゃあ、入ってきて」


 教室が面白いくらい静かになった。皆が、同じ方向、黒板横のドアを見つめていた。


 前のドアが開く。


 転校生といえば、大抵の人は何かを期待する。でも、考えてみれば、転校生も普通の人間だ。始めこそ興味を示して、皆むらがるけど、本当によっぽどのことがない限り、普通の人間だろうし、普通の人間でなくたって、いずれは興味も薄れ、日常の一部になる。


 僕だって、そういうことをわかってるけど、最初はやっぱり目で追ってしまうだろう。それも数日だろうけど。


 だけど、今回に至ってはちょっとそうはいかないのかもしれない。


 その日はまさにクラス全員の、とりわけ男子の目が一点に集中する日になった。何人かの男子は卑猥な目で。何人かの女子は羨望……まぁあるいはやっぱり卑猥で。で、まあ僕も認めたくないが若干卑猥の目で。だが、それ以上に疑いの目で見つめる日になった。

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