青春っぽいイベント
僕の通う高校は、一応進学校ということになっている。だがまぁ田舎の中堅といったところだ。実際は勉強と部活、遊びなんかもバランスよく取れる、ある意味平均値な学校だ。
そのため、倍率は高いくせに、口コミはまあまあな学校なのである。
色褪せた灰色が目立つ無駄にでかい校舎には、酸性雨の汚れで爛れて黒い跡がついていて、汚いと女子は言う。制服に関しては、僕は知らないけど、女子からしたら地味な方らしい。
男子諸君からしたら一番重要なのは男女比なわけだが、これはなかなかよろしいみたいだ。もちろん僕には小指の仲の子はいないけどね。そもそも僕が誰かを好きになることはないし、誰かから好かれることも、その資格さえも……
と、やめておこう。こういう話すると、「自分語りはきしょいぞぉ」とか言われる。そんなつもりはないのにな。
まぁ、なんだかんだ青春を楽しんでいるような学校だ。今日も綺麗とは言えない廊下には、生徒達の談笑の声が響いている。
僕はというと、その中を汗まみれで、おぼつかない足取りで早歩きしている。
「おはようございます」
僕が教室に駆け込んだ時、ちょうどチャイムが鳴った。荷物の重さで肩は痛いし、薄い素材の夏用ズボンが肌に引っ付いて嫌な気分だった。
教室のエアコンはついておらず、古ぼけた2台の扇風機が壁から軋む騒音と共に風を教室全体に送っている。だが、そんなもんでこの僕の熱を冷ませるもんなら冷ましてみてくれ。頼むから。
僕の席は真ん中の列だ。そのすぐ横の通路では、いつもの顔ぶれが談笑していた。
「ようレイタ」
セガワ ソウゴことセガソウ。ヒーローオタクなやつ、身体的特徴とかは特にない、しいていうなら背が低い。あと、熱心なオタク感が一目でわかる。
「おう、相変わらずだな」
カツマタ レオ。背が高くて、口が悪い。目は細め、人相は悪い方だと思う。
「レイタ氏、相変わらずですな」
ヒノ キラ。こいつも背が高くて、肩幅が広い。で、レオンよりも目が細い、ほぼ閉じてる。人相は悪いというか、サイコな感じがする。
僕はというと、僕も背は高い。2人よりちょっと劣るが。あと、肩幅は結構広い方だ。2人よりもがっしりしていると思う。顔に関しては、自分でとやかく言うのはかっこ悪い。ただ、僕は眼鏡だ。
さらにいうと優しい顔をしていると言われる。特におじさまおばさまから。
「ああ、はよう。あー暑い」
などと言いながら、僕は3人の横を通り過ぎていく。
「懲りねえなあお前も」
レオが嘲笑う。
「うるさい。うるさい」
僕は椅子に座り、机に置いた鞄に顔から突っ込んだ。今日は朝からうるさいと言ってばかりだ。
「毎朝よー、汗だくでくるこっちの身にもなってくれっての」
「ほんと汗だくだねー大丈夫?」
隣の席のナツハさんが聞いて来る。
「んなわけないしょーがいこーだいしょー」
僕はやる気なく答えた。
「おいおい、レイタ。そんなんじゃサプライズを楽しめないぜ」
「サプライズって?」
キラは相変わらずの細い目で笑うだけだった。
「くっそ、うざったらしーな。さっさと座れよ」
僕は半ば切れ気味で言ってやった。
「つれないな」
「よしな。レイタ疲れてるんだ」
「あー、その通りですなぁ」
皆、好き勝手言って自分の席に戻って行った。
「はぁ、なんだよもー」
「すぐわかると思うよ」
「えっ?」
ナツハさんに聞き返そうとしたが、カガ先生が教室に入ってきて、聞きそびれてしまった。見ると皆も、落ち着きがなく、何か期待しているみたいだ。なんなんだいったい。
だが、すぐ理由はわかった。
「おはよう。早速だけど、、でも、まあ、なんか皆んな知ってるみたいだな」
皆の顔をよく見るとにやけていた。
「じゃあ、いちおう言うけど、今日、転校生が来ます。このクラスに」
「えーっ?」
僕は、半分本当に驚いて、驚嘆の感情を素直に出した。
「おっ、レイタいい反応だな」
カガ先生が、浅黒いほとんど皮だけみたいな口角を上げて笑った。皆もつられるように軽く笑った。なかなかいい反応だったらしい。
しかし、転校生とは驚きだ。そんないかにも青春っぽいイベントが、こんな中途半端な田舎の学校で起きるとは。
「さて、男の子か女の子、どっちか知ってるか?」
「「男!」」
「「女!」」
クラスメイト達が一斉に口々に発言した。僕は「男」に一票入れた。
「ほぉー、そうかぁ。えー、じゃあ紹介しようと思ったけど、あの言った方じゃなくてもブーイングとかするなよ。てか、こんなこと聞くんじゃなかったな。ごめんごめん」
とか言って、カガ先生が腑抜けた笑いをみせた。こういう、ちょっとしたなよなよしさがあるのが、この先生の人気の秘訣なんだろう。
「じゃあ、入ってきて」
教室が面白いくらい静かになった。皆が、同じ方向、黒板横のドアを見つめていた。
前のドアが開く。
転校生といえば、大抵の人は何かを期待する。でも、考えてみれば、転校生も普通の人間だ。始めこそ興味を示して、皆むらがるけど、本当によっぽどのことがない限り、普通の人間だろうし、普通の人間でなくたって、いずれは興味も薄れ、日常の一部になる。
僕だって、そういうことをわかってるけど、最初はやっぱり目で追ってしまうだろう。それも数日だろうけど。
だけど、今回に至ってはちょっとそうはいかないのかもしれない。
その日はまさにクラス全員の、とりわけ男子の目が一点に集中する日になった。何人かの男子は卑猥な目で。何人かの女子は羨望……まぁあるいはやっぱり卑猥で。で、まあ僕も認めたくないが若干卑猥の目で。だが、それ以上に疑いの目で見つめる日になった。




