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女神の土下座

「大変申し訳ありませんでしたっっ! 」


 次に意識が浮上した時に、真っ先に聞こえた声はどこか焦りを帯びていた。


 真っ白な靄だけが漂う視界には、眼前に手を揃え額を地に着けた金髪の女性がどうにか見える。つまり土下座だ。もう一度言おう。見事な土下座。


「あ、あのっ! その、顔を上げて下さい! というか、ここ、どこ? 私、死んだ筈じゃ……。」


 記憶が間違いではないのなら、私は死んだ筈だ。行き付けの中華屋さんで。迫る業火に身を焼かれる前に充満した煙で意識は失ってしまったが、あの真っ赤な炎は絶対に現実だった。間違いない。


 未だに恐怖からか、手足は震えるがどうにか立っている。硬い地面ではなく、白い床に。白い床……? あの店は確か赤茶色のパネルを足元に張っていた、ならばここはどこだ。


 死んだ後の世界というわりには、私の焼かれたパーカーもロングスカートも元通り。高くはないけど気に入ってたから嬉しい。

 て、違う。本当にどこなのだ。ここ。


 質問に、彼女の床に着いた長い髪がびくりと揺れた。顔を恐る恐る上げたその瞳は青く海のように美しい。ハリウッ◯女優なんて目じゃないばりの美人さん。涙目なのが残念だ。


「ここはですね、狭間の世界です。」


「狭間……?」


「普通、死後の魂は通常業務として各地の見習い天使と見習い死神に天国か地獄か選別されます。選別後は各ゲートにて選別が間違いないか確認後、それぞれの世界貢献度によって、処置が決まるのです。ですが……。」


 何かいろいろ聞きたい業務内容だが、最後の彼女のいい淀みが気になる。ですがって、何。私は見習いさんにも案内されてもないし選別もされないで彼女に会っている。じゃあ、この人は誰だ。


「私は地球担当のレティという女神です。」


「は、初めまして。レティさん。私、疑問を口に出してました? 」


「いえ、神特権で人等の思考は常に頭に聞こえます。その方がその方の人となりを把握しやすく便利ですから。」


 便利って。プライバシーないな、私。でも神にそんなの関係ないのかな。


「……続きをお話してもよろしいでしょうか?」


 下がり眉の困り顔もお綺麗なレティさんに、どうぞどうぞと頷きながら、神様に何時までも下手に出られたらなんだか申し訳ないので立ってもらう。


 立ち話もなんですしと、どこからか2つの椅子とティーテーブルをぽんぽんと出して。湯気の立ったティーポットから、香しいダージリンティーを手ずからカップに入れてくれた女神はお茶請けに高級そうなクッキーを勧める。


 そこから始まったのは何とも阿保な神様達のお話だった。







 本来、私は地球ではないマーデプロテという世界に生まれたらしい。

 だが、そこの主神マーデは神様として大変波がある方らしく。たまたま、その日はうたた寝しながら神様業務をしていた。そうしたら手元が狂ったらしい。レティさん管轄の地球に私を送ってしまったと。


 ここまでなら、まぁ、神様も失敗あるよねと笑って済ませたかもしれない。


 だが、マーデの腐り神度はここから更に酷くなる。こいつはそのミスを報告しなかった、レティさんに。異世界迷子の私はそのまま地球で孤児として施設で過ごし育ち大人となり。職を得てこれからと言うときに死んだと。

 かくして、異世界迷子は異世界迷子死亡者になってしまったというわけだ。


「死後選別の際、エラーが起こる方がおられるということで、私は紅月様のことをお調べしました。そこで、今回のことを初めて知ったのです。」


 本当に申し訳ありませんと再び頭を垂れるレティさんに、私はマーデという神に怒りを覚えた。

 社会人として報連相は絶対だ。しかも、人の一生を軽く見すぎな見てみぬふりな態度。他の世界の神に謝罪させ、当事者は謝りに来ない無能ぶり。


 糞神様なんて軽いわ。糞駄目神だわ。


「レティさんは悪くはありまりせんよ。気付かなかったのは確かにミスです。でも、大元は糞駄目神の報告がなかったからです。報告がなかったら、発覚が遅いのは当たり前です。」


 うん、これが会社なら糞駄目神はクビ決定だろう。レティさんは減給かな。私としては、減給もなしにしてほしいけど。謝ってくれたしな。


「いえ、謝罪だけでは足りません。紅月様はもう亡くなっていらっしゃいます。取り返しがつかないのです。神として本当に……私は……。」


 ほろほろと涙を流す女神様。悲壮な様子にこちらの胸が痛い。いや、被害者だけどね。私は。


「レティさん、終わったことは仕方ありませんよ。それより、これからできることを考えましょう。私はどうなりますか?このまま消えるのでしょうか?」


 お世話になった孤児院の院長はよく言っていた。生きてるなら取り敢えず前を向けと。肉体は死んだかもしれないが、私の意識はまだ生きている。私は私足り得るもの、気持ちはここに在るのだ。なら、前に進まなくちゃ。


 猫舌な自分にはちょうどいい温かさになったであろう紅茶を口に運ぶ。鼻に抜ける茶葉の香り、下に残る微かな甘味。紅茶は砂糖なし派の私にぴったりの美味なお味だ。


「……いえ! いいえ! 紅月様を私はこのまま消させたりしません! 」


 拳で涙をぐりぐり拭った彼女はさっきまでのか弱い雰囲気はどこへやら。何か決意に溢れた顔をしている。


「女神レティの名において、貴方を貴方のまま再び世界に送り出します! 」





「……へ? 」


 予想もつかない言葉に私はクッキーに伸ばしかけた手を止めた。


「できうる限りの特典をつけて貴方を他の世界に再び生かします。ですので、紅月様! 」


「は、はいっ!? 」


「貴方が貴方らしく生きれるよう、ご希望を。私に、何でもおっしゃってくださいまし! 」






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