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プロローグ

 

 熱い。


 立ち込める灰色の煙が周囲を囲み、もう息をするのさえ困難な状況でも私は諦めたくはなかった。


 何か現状を打開するものはないのか。きょろきょろと辺りを見回しても、真っ赤な炎が私を今か今かと飲み込もうとするばかり。



――まだ皆様にお伝えたいことがあったのに。



 せめて記録できる機械がここにあれば、火事に巻き込まれた自分をレポートできる。髪もボサボサで服も熱の変形と火の手から逃れようと動き回ったせいで破れたり焦げたり煤だらけ。こんな自分を写していれば、この火事の悲惨さをより鮮明に映像で残せた。


 被害にあった私が画面越しでレポートすれば、その特異性から視聴者は更に事件を身近で深刻であると感じでくれたであろうに。視聴率も上がり上司の目に止まれば、更に活躍の場を広げられたことだろうに。


 あぁ、近所だとすぐ戻れるからとスマホを自宅のマンションに置きっぱなしにしなければ。普段、仕事だと絶対に忘れたりはしないのに。


「……レポーターの風上にも置けない」


 きっと、明日の朝の情報番組朝ダネ! の特ダネにでもなるだろう。

 私、紅月秋帆(こうづきあきほ)がこの何の変哲もない商店街の中華屋さんで焼死体で発見されたと。


おそらくは、上司の田中アナウンサーが悲壮感溢れるナレーションで私の番組初登場映像と共に語るんだろうなぁ。最近、化粧濃いから落ちないといいな先輩。悲しみのパンダになるとかはやめてほしい。



 店長の李おっちゃんごめんよ、頑張って逃げようとはしたんだ。

 でもさ、おっちゃん。先週配達で足やっちゃって。店主片足不自由な状態で奥さんも大きくなってきたお腹抱えながら、夫婦必死にお店やってた。もうすぐ生まれるからって、お店休めないよ。生まれる子どもの分まで稼がなきゃって。


 そんな二人、先に逃がすのは健康な自分には当たり前で。……無事逃げられたかな。火事の原因は彼等ではないから気にしないでほしいけど、無理だろうなぁ。


 おっちゃん特製極醤油ラーメンと餃子とレバニラ炒め、食べ掛けだったのが悔やまれます。悔しいのと目に入る煙の痛さで出てきた涙を流しながら、私はそこで意識が途切れた。






 ――界渡りの資格取得。特殊職業#@?!発生。ボーナスポイント発生。特殊スキル$¥&=取得。他\(×#@……


無機質な声はただ淡々と記録する。



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