表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
猿は木から何処へ落ちる
61/65

第61話

 各方面へと散開しつつ小惑星帯を侵攻するコスモポリタンに対してヤミン帝国の反応は機敏であった。

 ノイズの群体が前方から集中して接近するのを捉え、後方からもジャゴの残存兵力が追走する。

 艦の後方から追走する形で敵を追う事は艦隊戦の常識としては下策であるが挟撃の形になるのは避けたい。


 コウキはミンネザングに搭乗すると複座席にハルを乗せ機器の最終チェックを行なう。


「通電状況良し、電波状況良し、推進剤充填良し、以上各部問題なし」


『了解、直ちに後方から追走する海賊艦の撃退へ向かえ』


「コール:ブラボー1、今回はケチられずに済んだ」


『聞こえてるぞ、ブラボー1――祝你走运』


 コスモポリタンの進行方向の逆方向へと伸びる船尾のガイドレールにホイールを挟み回転を開始する。

 疾駆するミンネザングが宙域に躍り出ると背部に備え付けられたアスカロンの光芒が瞬いた。

 火星での戦闘時に脱落した為に残存したアスカロンの1本を出力強化の改修を加えたものである。

 前科持ちであるコウキはレクイエムの搭乗資格を失効している為にミンネザングでの参戦となったのだ。


「TAUのDT-LINKより映像入ります」


「幽霊船? いや、これは――」


 不思議な事に後方から追走するジャゴの海賊船団は既に壊滅状態にあった。

 TAUから後方へと送信されてきた映像に青白く揺らめく幽鬼のようなEVCの姿を確認するとEVCの頭部がこちらを向く。

 ジャゴが搭乗していたと思われるシルヴェンテスカスタムのコクピットスフィアを貫いた手刀が閃光を放った。

 MPDアークジェットの輝く噴流が全てを焼き尽くして宇宙へと投棄される。


「ファルーク、次はないと忠告した筈だぜ」


『フッリーヤの名を騙る賊は討った。

 コウキ――次は貴様だ』


 双方の相対速度は追走状態にある為にRS・7㎞/s程度に留まっている。

 ラーイーには近接戦闘しか行なう事は出来ず、尚且つFCSの解除信号には既に対策を施していた。

 状況の有利を察知したコウキはミンネザングのインパクトアサルトに加え、胸部インパクトマシンガンを乱射する。

 降り注ぐ弾幕に躊躇する事無くラーイーは甲板から跳躍すると、その機体を異様な方角へと折り曲げながら回避を行なった。


「What the hell? ハル、並進回避!」


「014・147――TG・1・TG・2・TPM」


 このまま直進させれば旗艦であるコスモポリタンが危ういと感じたコウキは並進移動によって進行方向から外れる。

 ラーイーは自らの腕部を掴み、大きく振り被るとそのままミンネザングに向かって投射、軌道を画いてミンネザングヘと迫った。

 コウキは機体を横転させながら背部に備え付けたアスカロンを腕部に持ち替え、投射された腕部を薙ぎ払う。

 ラーイーの投射した腕部に備えられたアークジェットにより軌道が曲がり、ミンネザングに更に肉薄する。


「ファルーク、ヤミンの走狗になってまで、

 この俺に復讐したいのか!?」


『コウキ、貴様のその態度がこの俺を苛立たせる!

 貴様が情けをかけたとて全てを奪った貴様を赦す事はない!』


 ファルークは以前からの動きで明らかにコウキが、自らに対して手加減した動きを見せている事に気付いていた。

 最もそれはコウキにとっても半ば無意識の事でもある、ラーイーの手刀とミンネザングのアスカロンが接触。

 推力に劣るラーイーの機体が弾き出され洗練された動きで素早く体勢を立て直した。


「ファルーク」


 火星で一度ファルークを保護した際、コウキはフッリーヤの実態を仔細に調査していた。

 其処に記されていたのは中東の混乱によって行き場所を失った者達と多様性を忌避した民族融和によって改宗を迫る態度。

 故郷を失いムミートの手でイスラム戦士として育てられたファルークにとって、フッリーヤは家族同然のものであった。

 そしてそれは他方のコスモポリタンを家族としてきたコウキにとっても同様の事であった。


『貴様の嘆き悲しむ姿だけが、我が父の魂の慰めになるのだッ!!』


 同ベクトルを等速で運動する物体はお互いが静止した状態となる。

 宇宙空間を2つの機体が衝突する度にプラズマの閃光が揺らめき、宙域を漂う星間物質を焼き付けた。

 幾度となく死線を乗り越えてきたファルークの操縦技術は既に熟練の域に達している。

 しかしそれにも人間の限界がある、ハルのサポートのあるミンネザングに対してその操縦技術は遠く及ばぬものであった。


「わかったよ、ファルーク。

 お前が教えに従いこの俺に挑むのであれば……俺もその教えに従いお前に応える!」


『تعال!』


 コウキはサポートをカットして相手に合わせる事を良しとしなかった。

 ファルーク対してそのような手加減を行なう事は、彼の覚悟に対する侮辱となるだろう。

 それ故に本気になったミンネザングの攻撃は熾烈を極め、ラーイーは防戦一方となりながら脚部の一つを損傷する。


 明らかに観測不能な死角から四肢を伸ばしても、ミンネザングは素早く体勢を翻す。

 これは当然ながらハルによるサポートの力だけではなかった、全面に観測装置があるとはいえコウキはそれを見ていない。

 空間に存在する三次元の物理運動量を完全に予測する事で視覚に頼らずとも相手の位置を把握できるのだ。


 ミンネザングの繰るアスカロンに意識を翻弄されていたラーイーは不意の一撃に反応する事が出来なかった。


 インパクトアサルトから発射された弾体はスフィアブロックの中心点を完全に捉え、コクピット毎パイロットを貫通した。




 小惑星帯を抜け出したコスモポリタンを出迎えたのは、豪雨と見紛うばかりのEVCノイズによる集中砲火であった。

 迎撃に利用していたFELの熱量が限界点に達すると伝導熱をブロック内に集積を行ない強制排出する。

 更には1万㎞以上離れた遠方からのマリネリスの援護射撃がノイズの隊列を蒸発させた。


 コスモポリタンの側面を突こうと迂回する敵機に対応する為、メナエム・ニコ両機は若干外れた場所で迎撃を行なっている。


『地球にいた頃を思い出すな、メナエム。

 ……ナンダ?』


 ニコの搭乗するゴスペルの三次元レーダーに異様な速度で接近を行なう機体の姿を捉えた。

 レーダードームによる光点が一周する内に異常とも思える速度で距離を詰めた敵機に対してニコは回避運動を取る。

 フレデリックの搭乗するアンセムに改修を加えた“アンセムFB”による一撃離脱攻撃だ。


「ロートルはすっこんでな!」


 ゴスペルの機体がオーブスロアーによる破砕片によって損傷を受けるとツィゴイネルワイゼンのTAUが反応。

 レーザーユニットによるCFEL攻撃を受けながらもアンセムFBはその場で反転後、急激な方向転換を行なう。

 宙域に展開していたツィゴイネルワイゼンのTAUをインパクトマシンガンで排除しながらも反転攻勢をかけるフレデリック機。

 人間の搭乗者であれば加速度による圧力によって毛細血管から出血、臓器へのダメージは深刻なものとなる行動だ。


『人間を辞めてまでゲームの勝利に拘るのかフレデリック』


「Shat up! 裏切り者に説教なんざされたかねぇ!」


『残念ながら君の仲間になった記憶はない』


「Ha! そう冷たくするなよ。お人形さん同士仲良くしようぜ!」


 コクピット内にいるフレデリックの肉体は衝撃に弱いとされる臓器の多くを機械化していた。

 人間が耐える事の出来る加速度を遥かに超えたアンセムFBの挙動は、人間の反応速度をも優に凌駕している。

 ツィゴイネルワイゼンはTUAを統率する母機としての機能に性能を割いている為に、格闘戦は得意ではない。

 アンセムFBの振るったコンバットツールがツィゴイネルワイゼンの頭部に衝突、そのまま脱落する。


「BINGO!」


『フレデリック、君にもわかっている筈だ。

 私達はもう、時代に必要とされていない』


「メナエム……オレ達は殺人機械だ。

 威勢の良いことほざいて自分の手を汚す度胸もない。

 腰抜け代わりにゲーム盤を動かすトークンなんだよ」


 交差したアンセムFBが更に反転、レールガンを中破したゴスペルに投射する事によってTUAを引きつけた。

 メナエムは意識を深く沈みこませるとニューロアクセラレーターを起動、脳の神経伝達速度を加速して運動予測の演算をおこなう。

 フレデリックの運動する確率線を読み取る事で辛うじて回避に成功するがメナエムの脳の毛細血管が破裂する。


「次はこのオレが時代を動かす。

 プレイヤーになる番なのさ!」


『火星一の頭脳と持て囃されても僕はこの程度……』


「らしくねぇな、メナエム」


『君の力、僕の知恵、所詮はこの程度なんだ。

 “心”の時代を認める“覚悟”を持つべきなんだ。

 フレデリック』


 フレデリックはメナエムのその言葉に唇を噛むと再び反転をかけ、オーブスロアーを投射。

 ツィゴイネルワイゼンのTUA画全ては解された状態となったメナエムはコンバットツールを構えて迎え撃った。

 核パルスエンジンの最大出力によって加速を行なうアンセムFBが、最後の攻勢を仕掛ける。


「“心”だと? 宗教家にでもなったのかメナエム?

 ならば、このオレが“心”で支配してやるよ。

 圧倒的力への恐怖心でな!」


『オレのコトは気にするなメナエム!』


「Bust you up!」 


 アンセムFBが接近する瞬間、コントロールを失った筈のゴスペルからTAUが射出されるとその進路を遮った。

 ツィゴイネルワイゼンの通信によって、ゴスペルのシステムに強制割り込みを行ない操作権限を奪取したのだ。

 ハッキングによって進路に立ち塞がったTAUに完全に不意を突かれたフレデリックはレールガンを応射。


 TAUの破砕片を浴びたアンセムFBが破壊されるとフレデリックがコクピットスフィアから宇宙へと投げ出される。


『ナ!? ヤツはまだ生きて……』


 破壊されたコクピットスフィアから投げ出されたフレデリックは宇宙空間でTAUを蹴り込み進路を変える。

 ツィゴイネルワイゼンのコクピットスフィアに取り付いたフレデリックは拳を打ち込み隔壁を強引に引き剥がした。

 勝利を確信したフレデリックはピストルを抜き、コクピット内に居るメナエムへと銃口を向ける。


「Geme Over! Fuckin'!?」


 フレデリックが銃口を向けた先には誰も居ない、次の瞬間フレデリックは頭部へ受けた衝撃によって宇宙へと投げ出された。


「Go to hell」


 メナエムはニューロアクセラレーターによって敵の行動を既に予測、コクピット内で待ち構えていた。

 ふと気がつくとメナエムは生暖かい何かが顔を伝うのを肌で感じる。


『スマネェ、メナエム。

 傭兵がこんな時に役にたてねぇなんて情けネェゼ』


「助かったよ。今までありがとう――ニコ」


『メナエム?』


 元より自分自身の限界は何時か来るものだとメナエムは察していた、覚悟を決めていたメナエムの心に後悔はなかった。

 男は眼孔から流血しながらもツィゴイネルワイゼンのコクピットに座り、一人海を眺めながら昔を懐かしんだ。


(僕、頑張ったよ――隆一)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ