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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
燃え盛る地球
54/65

第54話

 次々と地球へと落下していくノイズは度重なる乱戦によって装甲が損傷、熱の遮断が出来ない機体が散見される。

 質量が軽いのが幸いしてか損傷した場合は大気圏で完全に燃え尽き地表へ届く事はない。

 しかし地表から見上げる空に突如現れた幾千物光を放つ火球をみた地球人は完全に混乱をきたして、錯乱した民衆が逃げ場のない地上を逃げ惑った。


 遥か高空で戦域に到達したキュニコス号はEVCを展開、ヴェーダのTAUを利用した情報集積に奔走していた。

 キュニコス号にはデブリを除去するFEL程度しか搭載されていない為に打撃力が不足していたのだ。

 前面に大きく前に出たイーリアのロマンスがチャンドニーのサポートを受けながら接近するノイズを効果的に排除する。


「おかしいわね。敵勢力の分布図に偏りがある」


『こちらキュニコス。

 おそらくは星間物質を回避する為でしょう』


 宇宙空間に存在する星間物質は密度が低いが30000㎞/sで進行するEVCにとっては危険な物となる。

 ノイズは加速後にある程度まとまった数珠繋ぎの編隊を組む際に少ない推進剤を使用していた。

 その結果、地球圏に到達した現時点においてはほとんど平進移動が不可能となっているのだ。


『地球より電信。地上での迎撃準備が完了』


『チャーリー3より、キュニコスへ。

 敵EVC第13波感知しました』


 ヴェーダのTAUから送信される偵察情報が表示されるとイーリアはその表情に違和感を見せた。

 敵EVCの侵攻が散発的な波状攻撃となっていた為である、戦力の逐次投入は下策である事から疑問が生じたのだ。


 最もその原因は木星にあるパルスレーザー発信設備の限界値であった為である。

 レーザーユニットその物は短い時間で数万単位の目標に照射可能だが、充分な加速を行なうには時間を要した。

 その上でハルの指摘した欠点と重なって散発的な襲撃に留まっているのだ。


『こちら火星軍巡視船ノクティス。

 そちらの船、電波は通るか?』


「この声……ブラボー?

 最近の刑務所は随分と過激な奉仕活動をするのね」


『その声はチャーリー?

 気をつけろ、宙域内に警戒機が接近中』


 イーリアは3次元モニターに目を移すと側面から高速で接近するEVCを赤外線で捉えた。

 そして直ぐに自らの目を疑う事になる、そこに表示されていた光点はかつての友軍であったからだ。

 徐々に消えていく光点を目にしてイーリアは咄嗟に声を張り上げた。


「チャーリー1より、キュニコス!

 ミンネザングの識別法は!?」


『EMF電子探査の深度を上げてください』


「――виднеться!」


 イーリアのロマンスに接近する機体の姿が“アスカロン”を振り上げた瞬間に位置情報が露になる。

 ロマンスの電子探査機能を最大限に発揮して機体の挙動を完全に予測するとロマンスを横転させながら回避した。

 そのまま交差したミンネザングはモーメンタルランチャーを構え、弾芯をキュニコスに向けて投射する。


「チャーリー2!」


「Vale!」


 ミンネザングの発射した弾芯をフォルクローネのTAUが展開したシェイブストリングスの網にかける。

 直進する弾芯に向かってミンネザングはFELを照射、変形したモーメンタルランチャーの弾芯が回転すると網から逃れ。

 遂にはキュニコス号の側面に到達すると横転した弾体がキュニコスの船体を完全に破断した。




 弾体に接触したキュニコス号が地球の重力に引かれて落下を始める。

 コウキは船内に居るハルに呼びかけを行なうと即座に応答を見せたが、真空に晒されている為か音声が来ない。

 合成された電子音声に切り替えたハルが被害状況を報告する。


『こちらキュニコス、船体に著しい損傷が発生。

 メインエンジン緊急停止』


「船長は!?」


『パイロットスーツを着用しています。

 ライフサインは良好です』


 キュニコス号を沈めたミンネザングがターゲットを変えて攻撃対象をノクティスに変更するかに見え。

 不意に推進剤を噴射する事でターゲットを変更、オッツォ機の方角へと狙いを変えた。


「チャーリー1、キュニコス、データリンク頼む!」


『venga!』


 データリンクによって微かに把握可能となった機影にハルによるリアルタイム演算が加わる。

 モニター上でも認識可能となったミンネザングに対してオッツォのゴスペルがインパクトアサルトを乱射。

 アスカロンのプラズマによって軌道を逸らされた弾体が大きく外れるとゴスペルは腰部から両断される。


 更にはインパクトマシンガンの掃射を受けスフィアブロックが脱落、オッツォ機は地球への落下を始めた。


「オッツォ!?」


『やらせん!』


 サリンジャーがオッツォのスフィアブロックの回収に走る隙を見逃す筈もなくミンネザングはインパクトアサルトを掃射。

 救出に入ったサリンジャー諸共2機のゴスペルは大気圏へと落下していった。

 デンドロンは目の前に迫る敵機の姿に大して特に驚く様子も見せず、コウキの搭乗するゴスペルの目前に割り込んだ。


「デンドロン!」


『コウキ、ここは私に任せてくれ』


『デンドロン。

 おっと、ファウストの呼び名の方が良かったかな?』


『デクスター』


『まさかお前が裏切るとは思わなかったぞ、デンドロン。

 気の迷いか? 怖気づきでもしたのか?』


『恐れているのは君の方さ。デクスター』


 両者の間で交わされる会話の内容に驚愕するコウキではあったが、事態の把握を努め対処を模索する。

 デンドロンが会話によって時間を稼ぎ、尚且つ挑発に乗ったデクスターのミンネザングが接近戦を仕掛ける。

 コウキはパイロットスーツの状況を再確認すると酸素の供給を開始した。


『仮にそうであれ――今、死の恐怖に怯えるのは貴様の番だ。ファウスト!』


『コウキ、今だ!』


 コウキはゴスペルに装備していた酸素供給タンクに水素を混合させ混合気を生成する。

 それをアスカロンを振り被るミンネザングヘと投擲すると、MPDアークジェットのプラズマと接触後爆発を起こした。

 突如起きた運動エネルギーによる急制動によってデクスターのミンネザングは平衡感覚と攻撃機会を失い。

 そこへデンドロンのゴスペルが放ったインパクトアサルトの弾体が直撃すると、大きく軌道を外れながら機体を交差した。


「beat you up!」


 バランスを崩して交差するミンネザングの後方から出現した、もう一機の機体がコウキの視界に入る。

 その機体も彼にとって見慣れた物であり、その機体には特定の人物でしか乗れない事も熟知していた。

 蝸牛型の核パルス推進機が曳光線をたなびかせながら両者の下へと肉薄する。


『邪魔をしないで――』


『Mach keinen Mist!』


 セクエンツィアの放った剣先がデンドロンの搭乗するコクピットを貫くと炸薬が作動。

 射出された剣先によってコクピットが粉砕されると、宇宙空間へと散っていった。

 拡散する破砕片による運動量を浴びたコウキのゴスペルはコントロールを失い、男は咄嗟に体勢を立て直す。


『これも運命』


「――I got you!」


 両者が互いにコンバットツールを携え機体を交差させる。肩口を貫通したノツァに火が灯るとゴスペルはその場で沈黙した。

P-1B ノイズ


シルヴェンテスをベースに極限まで簡略化が行われている機体、総質量100㎏以下に過ぎず背面にあるソーラーセイルによってパルスレーザー推進を行う。

武装その物は機体内に備え付けられたハイドロゲンブレットのみ攻撃の際には積層化装甲をパージする事で攻撃する。

マニュピレーターすらもオミットされている為に見た目通り特攻しかできない。

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