第33話
宇宙空間を漂うEVCの残骸が前方から流れてくるのをモニター越しに見つめながら、イーリアの心は不思議と落ち着いていた。
コスモポリタンの中継するUAVの一体から送られてきた映像が、モニターの隅にインポーズされる。
恐らくモーメンタルランチャーの直撃に耐え切れなかったのだろう。
内圧によって半分が弾け飛んだメレフの姿は、ブリーフィングで見た時とは随分と頼りなさげに見える。
「呆気ない物ね」
小惑星のほとんどは100㎞以下の物であり、メレフは中身を空洞に加工した小惑星である為に耐久性はない。
ミンネザングのモーメンタルランチャーに発電所を打ち抜かれ、メレフの高出力FELも披露する前に無力化された。
艦船は既にメレフ内から出航しており、小惑星の陰に隠れ防御に転用する考えのようだ。
イーリアは前方から欠員の出たデルタと合流すると、進路に残っていたミンストレルに対応する。
『アルファ1よりコスモポリタンへ。
ルーキーの容態はどうだ?』
『多少水漏れが発生したが、大事はないようだ。
各機、メレフ背後に潜伏する艦隊の動きに注意せよ』
「はぁ、デリカシーのない」
『こちらアルファ3、アットホームで良い職場だね』
タケルの面子が若干潰れ、イーリアは緩んだ気を引き締める為に積極的に攻勢に出た。
アンドロイドの単調な攻撃は、AIが敵機の攻撃発射以前から敵の動きを予測している為に何もしなくても外れている。
ロマンスのインパクトアサルトを構えトリガーを引くと次々とコクピットブロックに着弾、ミンストレルは沈黙した。
「歯応えがないわね、先行したブラボーから何かあった?」
『アルファ2へ、火星軍の主力は別方面へと向かった。
艦艇からの攻撃に注意せよ』
『デルタ2より各機へ……ここは私に先行させてくれないか?』
「それは構わないけれど?」
サリンジャーはUAVから届けられる中継映像に移り込んでいた見覚えのあるEVCを発見した。
宇宙空間には似つかわしくない古典的な銃火器で武装されたそれは、防衛戦で出会った少年の物に違いなかった。
サリンジャーは緊急用の推進機を迷わず使用すると、敢えて気付かれるように姿を晒す。
サリンジャー二等兵は軍部の末端にありながらも、母国の正義を信じて殉じる気概を持っている。
開戦時の緒戦で華々しい戦果を上げ受勲を受けた時は、母国に多少なりとも恩返しをする事が出来たのだと実感した。
彼には地球圏の重鎮達が叛乱軍の手を引いてる事も知らず、阻止された人類削減計画など知る由もないのだ。
「私の名前はサリンジャー。
少年よ、私の話を聞いてくれ」
『お前はあの時の……』
「これ以上の抵抗は無意味だ。
悪いようにはしない、何かしら問題を抱えているのなら私が助力しよう」
ウブンタはムバカンガの状態を確認すると、内心肩の荷が下りたような気がした。
先行したコスモポリタン機との戦闘では殆どの攻撃を当てる事は出来ず、残弾よりも先に機体内酸素が尽きかけている。
金銭的な理由で相談できる大人も居らず。EVCパイロットに志願した少年にとって、それは天から降りる蜘蛛の糸に見えた。
『俺……本当に助けてくれるんですか?』
「大人の前でそんな事を心配する子供は居ないさ。
私の方から連絡を……」
ウブンタに接近するサリンジャーの動きに合わせる様にムバカンガの背後から叛乱軍の艦艇インプレスが姿を見せる。
サリンジャーが艦艇に目を向けた時、艦載FELのシャッターが開くとムバカンガの機体が赤熱した。
背部に搭載していたロケット弾の推進剤に火が着くと機体が小規模な爆発を起こす。
EVUを改造した機体にレーザー対策などされていよう筈もない、コクピットブロックは内側から膨らむように破裂。
サリンジャーはコクピット内から少年の体の一部が宇宙へと投げ出される姿を確かに捉え。
飛来してきた破砕片が彼のマーチング目掛けて降り注いだ。
『サリンジャーッ!』
メリンダは狂乱状態に陥りながら推進機を稼動させ、破砕片により弾き飛ばされたサリンジャーの元へ救出へと奔る。
突出したマーチングの機体がFELの照射を受け、機体の表面温度が増加すると警告音が鳴り響いた。
咄嗟に放ったニコのFELがFEL照射口に命中弾を浴びせると、応射する敵艦から弾体の雨が降り注ぐ。
イーリアのロマンスが戦列から飛び出すように宇宙を駆けると、回避に専念しながら徐々に攻撃を引きつける。
「アルファ1・3! どちらでもいいわ!
サリンジャーのスフィアブロックを回収して!」
『アルファ3、了解』
『アルファ2……5秒だ!』
ニコのツィガーヌが無数の弾体が降り注ぐ中で冷静にモーメンタルランチャーを装填すると、正確な動きで構える。
きっかり5秒後に装填を済ませたニコのモーメンタルランチャーから、弾芯が射出されるとフリーダムに命中。
艦の上部装甲を狙って放たれた攻撃によりフリーダムはその場で横転しつつ艦底を向ける。
『Shoot down!』
同時にインプレス目掛けて、体勢を立て直したメリンダのマーチングが反撃を開始していた。
DCアークジェットの放つ閃光が宇宙を照らすと振り被るようにシールドを前方へと投射。
艦底から入射されたシールドは貯水ブロックに命中した部位から水蒸気爆発を起こし、なおも回転を続けながら飛来する。
カーバインと劣化ウランを組み合わせたシールドは摩擦熱で燃焼、劣化ウラン特有の焼夷効果によって船室に火を放つ。
熱によって脆くなった船体はやがてシールドの慣性によって折れ始めると、真っ二つに割れた。
『コスモポリタンより各機へ。
デルタ2のライフサインを確認した』
「少なくとも生きてるって事?」
『こちらアルファ3、スフィアの回収に成功』
デンドロンの搭乗するツィガーヌがアンカーワイヤーを使用して、サリンジャーのスフィアブロックを回収した。
敵艦との交差が完了するとコスモポリタン全機は、進路から外れるように進行方向を調整する。
敵機の大部分を殲滅したのを確認すると減速体勢に入った。
やがて後方から追い上げるようにコスモポリタンが姿を見せ、相対速度を合わせたEVCが格納庫に収容されていく。
格納庫内では既に医療班がスタンバイ、緊急用の隔離ブロックへスフィアが格納されると気圧の調整が行われる。
整備員達がマーチングの外部装甲をパージさせると球体のコクピットであるスフィアブロックを曝け出す。
「開閉装置が作動しない! 外部操作!」
「衝撃を与えないように注意しろ!」
スフィアブロックはパイロットの生存性を高める為に一際強固に作られていた。
装甲は3層構造となっており1層目にコクピット、2層目との間にゲルが注入され、3層目は固定しない状態になる。
質量の小さい弾体であればコクピットを水平に保ちながら外周だけが回転する事で慣性を逃がす事が出来るのだ。
「……緊急手術急げ!」
とは言え、何事にも限界は存在する。
コクピット内のサリンジャーは破裂した肺の気泡から血の泡を吹きながら力なく横たわっていた。
ムバカンガ
船外作業用EVUを改造する事で製作された実験機、旧世代火器を複数積み込んでいるが燃焼に多量の酸素を必要とする欠陥がある。
結果として瞬発的な火力は高いのだが、すぐに酸素切れを起こしてしまうという弱点を露呈している。
主な武装はガトリングガン・ロケット・グレネードランチャーなどで熱量兵装は存在しない。




