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ぼくらのコスモポリタン  作者: 01
宇宙からの叙情詩
26/65

第26話


 パエトーンの船内フロアには銃撃戦の生々しい爪痕と、搭乗員と思われる死体が漂っていた。

 侵入作戦に成功、見事パエトーンの鹵獲に成功したリーガン大佐であったが、思わぬ事態に顔をしかめる。

 中央船室のモニターには破壊されたグロリアスの艦艇が映し出されていたのだ。


「どういう事だ、おい……報告!」


「解析中ですが、今の所事故を起こしたとしか……」


「冗談じゃない、味方が来なければ俺達は袋の鼠だ。

 通信を飛ばせ、フリーダムでもインプレスでも良い!」


 ここでリーガンは痛恨のミスを犯した、グロリアスの異変を敵からの攻撃ではなく単なる事故だと判断したのだ。

 現にパエトーンのレーダーには依然として、それらしい機影は映し出されては居なかったのだから無理もない。


「第1ブロックから第4ブロックまで、通信途絶!」


「次から次へと、艦内映像!」


「破壊されて……」


 観測員の報告を待たずしてパエトーンの艦内は激しい横揺れに見舞われた。

 中央船室に座っていた搭乗員は、慣性によって吹き飛んでくる壁に殴り付けられると全身を強く打ちつける。

 断続的に続く衝撃によって搭乗員達はようやく敵機による攻撃だと気付いた頃には時既に遅し。

 更に艦全体が激しく回転し始め、パエトーンは操舵不能の状況に陥った。


 パエトーンの周囲で直掩に着いていたUNIT-12は突如回転して襲いかかる艦の外壁に弾き飛ばされる。

 RS・121km/sの相対速度域から発射されるミンネザングの弾体は、レーダー波でも捉えられないほど高速になっていた。

 更に追撃される弾体によってパエトーンの船体はまるで駒の玩具のように回転を続ける。


 パエトーンはユートピアの予定進路から弾き出される様に外れると、完全な無力化に成功した。

 コウキはミンネザングの機内からパエトーンを眺めながら、加減を間違えたかもしれないと肝を冷やす。

 やがてコスモポリタンからの中継を受けて、ミンネザングにオーロラからの通信が入る。


『こちらオーロラ、最悪の事態は避けられた。助力に感謝する』


「“緊急避難”は正当防衛の範疇だ。後はそちらで勝手にやってくれ、御嬢さん」


『……』


 ヴィオラはマイケル仕込みのコウキの軽口に片眉を上げて反応すると、中央船室の乗員が堪らず吹き出した。

 睨むように眼を下げる艦長と目が合った乗員は、慌てて目を逸らすと周辺状況の確認を急ぐ。

 地球との距離が近付いている為に公転軌道に乗りつつも進路を変更する必要がある。


 そこでまた不測の事態が発生した。


「コウキ、ユートピアの動力が稼動していないようです」


「はぁ? そういう事は早く言え!」


『どういう事だ!?』


「お宅らの艦の動力がイカレタらしい。

 このままじゃ航路が地球への墜落コースに入っちまう!」


 ミンネザングはユートピアと交差しながら機体を傾ける、慣性は押す事は出来てもベクトルを変えて引く事は出来ない

 ユートピアは旗艦だけあってかなりの質量を持っている、今から反転してもどうも出来ないだろう。

 ハルは観測情報から緊急避難艇がユートピアから射出されるのを確認。


 火星軍の旗艦は地球の重力圏内に入ると太平洋を目掛け自由落下した。




 ユーラシア大陸ロシア東方、21世紀後半から著しい温暖化が進んだ大地は寒冷地であるロシアの大地に恵みを齎した。

 周辺に広がる光景は何処まで続くとも知れない田園地帯。

 ユートピアから脱出した緊急避難艇は公転軌道に乗った後、相対速度を合わせ地球軍の追撃を逃れるように不時着した。


「連絡は取れそうか?」


「はい、地球軍の衛星は排除しております。

 衛星軌道上には既に代替用の中継機が送られていますので問題ありません」


「地球軍から通信が届きました、講和の調印を確約するとの事」


 思わず一同から失笑が漏れた、司令官を乗せた旗艦が一隻沈んだ程度で大勢が覆る訳ではない。

 後任のダンドネルはレベリオが手塩をかけて育て上げた信頼の出来る男であった。

 ともすれば、継戦派の地球軍は講和の条件を有利に持ち運ぶ為にレベリオの身柄の拘束に走るであろう。

 レベリオはそう推測すると現在地からほど近い、ボストチヌイ宇宙基地へと向かう準備を始めた。


「救援を待って一時待機後、アムール州にあるボストチヌイ宇宙基地へと向かう」


「地球軍からの襲撃に備えるのですか?」


「あぁ、そういう意味では落ちたのがロシア領で救われた」


 未だに社会主義国家体制を維持していたロシアと火星との関係は、良くも無ければ悪くもない。

 有限資源を適切に配分して循環するという思考は宇宙空間の生活では必須の概念である。

 実際に火星への入植者の殆どを米国・中国・ロシアの3カ国からの移民が大多数を占めていた。


「レベリオ艦長、ロシア東方面軍の方がお見えです」


「わかった、では早速向かおうか」


 視察に訪れたロシア軍の将校は始め、敵国の総司令官に対して高圧的な態度で臨んだ。

 しかし医療テント内で治療中であったイクスラにロシア語で話しかけられると、険が取れたように数度咳払いして立ち去る。

 事実、火星軍の空爆により多大な被害が出たが、人的被害は然程でもなかった。

 人的被害を最小限に敵国を無力化する手腕は軍略を嗜む者であれば賞賛こそすれ非難に値する物ではない。


 何より宇宙戦争等という馬鹿げた戦争に資源を浪費するほど、地球の台所事情にも余裕はないのだ。


「救援艇が降着するようです」


 群青の空に浮かんでいた小さな点が次第に大きくなると、マスコミが大挙して押し寄せる国道へ着陸した。

 レベリオがあえて人払いを行わなかったのは示威行動である。

 降着した揚陸艇から次々と現れる強化外骨格に身を包んだ強化歩兵達。

 彼等はモスキートミサイル、ワスプミサイルといった誘導弾を背部に搭載しており、衛星を利用して発射する事が出来る。


 火星軍は宇宙空間から宙間爆撃を行い更地にした後に、重火器で武装した重歩兵を地球の何処にでも自由に配備可能なのだ。

 偵察に訪れていたロシア軍の兵士は思わずその光景を幻視して、慌てて諜報部へと逃げ帰った。


 レベリオはその後各国代表者等との会談を行い、講和における条件を地球側に突きつけた。

 それは大筋以下のような物であった。


・宇宙条約に基づく宇宙空間での自衛権に逸脱する規模の戦力配備の制限。

・火星・地球の両軍は、外惑星に対する所有権の一切を放棄する。

・火星近辺で行われた地球船籍による、海賊行為に対しての損害賠償を求める。

・火星に対して使用された第二級秘匿兵器の生産・配備の速やかな停止。

・地球軍に兵器を提供した企業と株主に対する、懲罰的賠償金の支払いを求める。


 この条約に苛烈な反対を示したのは軍需企業であったが、連盟軍はこれを大筋で認め。


 悲惨な結果になると誰もが予測していた人類初の宇宙戦争は、僅か9ヶ月という短い期間の内に終結した。


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