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ゾンビって何

『10月11日 06:42 (日本時間) 豊下市、スノウ(川澄)の家地下室』




「なんてことを…」


「やット目覚まシまシタか」


気絶からようやく目を覚まし、起き上がった由葵は。

幼馴染を殺して埋めようとする、そんな夢を見てしまったため自己嫌悪に陥り頭を抱えていた。


心が痛い、お腹の底がジワジワと痛む。

クラスメートの人殺しの瞬間を見てしまったから、それが印象に残り、夢にまで出てきたのだろうか。

だとしても幼馴染のスノウの首を道端で千切り殺すなんて、猟奇的すぎる。



「何であんな場所で…」


「一大事何デスから、サッサト準備を…ッテ」



あんな場所で人を殺し、首を持って走るなんて、すぐにばれて捕まってしまう。

馬鹿、夢の中の私の馬鹿。もっと考えてよ。

あんな不注意な行動を起こしてしまった私に夢の中ながら、自己嫌悪になる。


夢だと言うのに、現実のような感覚だったのが怖かった。

死んだ人の頭の重みも、森の中に佇むゴスロリ服も、思い出すだけで身体が震える。



「何で殺して…」



しまったのか。



「サッサト人の話を聞くのデスよ」



由葵が言葉を言い終える前に、聞き覚えのある片言言葉が耳に入ると共に頭を何かで叩かれる。

なんで私の家にスノウちゃんがいるのだろうか、頭を押えながら声の方向を見るとティッシュの箱を持つスノウの姿と見知らぬ部


屋の光景が目に入る。

ここはどこだろう、自分の家で無い事は確かだが。



「ここは?」


「由葵の家が廃墟になッタのデ、我が家に連れテ来まシタ」



ティッシュの箱を壁に投げ捨てるスノウ。

相変わらず雑だ。



「廃墟?」


「魔法直撃シテ吹き飛んデまシタ」




夢の中で殺してしまった幼馴染の家で、私の家は吹き飛び廃墟となっているらしい。

スノウはいつものようにゴスロリ服と黒タイツと手袋でこちらを見て、いつものように暗そうに笑う。

一体どういうことなのだろうか、まだ夢を見ているのだろうか。

私はベットの上で転がっていたはずなのに、どうしてこんなところにいるのだろうか。



「まあ見ればわかりまス、外は地獄絵図デスシ、サッサト脱出の準備シまスよ」


「うん…」



私が寝ている間に何があったのだろうか。

寝かされていたベットから降り、階段を登り始めたスノウの後ろに付いて行く。

スノウは無言であった。

そんなスノウに声をかけれず由葵も無言のまま辺りをキョロキョロと見渡し、玄関に視線をやるとタンスや椅子、パソコン、大量の消火器といった重そうな物がたくさん置かれドアが封鎖されている。


何で何十本も消火器があるのだろうか。

押し売りにでも交わされたのか、消火器の販売でもしてるのだろうか。



「これは…?」


「突破防止の時間稼ぎデスかね、無いよりマシ程度の」




ドアを封鎖しなければならないような、時間稼ぎ。

何かとんでもない事が起きているのではと、不安になり呼吸が落ち着かなくなってきた。

頭も回らなくなってきた、何が起きてるかわからず、怖い。



「落チ着いテまスね、やッぱり一線越えテるト気構えが変わるんデシょうね」



全然落ち着いてなんていない。

どんな目で私を見ているんだ。

スノウに向かって声を荒たげそうになるが、突然のサイレンの音で口が閉じる。

街中に声が響き渡るが割れていて、聞き取れない。

何の音か、何が起きたのか。

窓から外を見ようとするが、ガムテープとダンボールで封鎖されている。



「今更警報出シタ所デ手遅れダトいうのに…」



二階に登るスノウに付いて行く途中、居間にスノウの家族らしき少年がいたので挨拶をする。

顔は幼いが身体はがっちりしている。

あちらも軽く挨拶を返し、すぐに視線を手に持つバットやゴルフクラブに戻す。

辺りには工具やガムテープなどといった物が転がっている。



「包丁は間合いが短いデスからね、準備シテ貰ッテまス」



準備とは何なのだろうか。そんな言葉を独り言のように呟くスノウに付いて行き。

二階から見る、外の景色は。


地獄であり、その光景を見入り、自身の顔が引き摺るのがわかる。

引き摺る顔に手をやると、口元が吊り上がっているのがわかる。


その由葵の表情をスノウは無言で見つめ、頷く。



「大量の死者がデタら、まあこうなりまスよね」



由葵の視線の先は地獄だった。

至る所で火の手と黒煙が上がり、家々が崩壊し廃墟と化しており二階だというのに見通しがよくなっている。

サイレンの音の影に悲鳴と絶叫が聞こえる。



「……」


「辺り近辺は全部こんな感じみたいデスね、まあ当然デス」



呆然と外を見る由葵をスノウは無言で見つめる。

常に人の話なんて知らないといった姿勢で話すスノウが待っているなんてとても珍しいことだ。



「何が起きてるの…?」


「魔法デ大量に人が死んデ、死人がゾンビになり、街の人間を襲ッテる、単純なことデス」


「ゾンビ…?」


「ソう、ゾンビデス、この街も終わりデスね、徐々に壊れテ行きまスよ」



ゾンビ?

ゾンビというと、ゲームや映画によくでてくる奴であろうか。

しかし、ゾンビを生み出せるようなネクロマンサーなどは初期に全て処刑されたと学校で習った。

だというのに何でゾンビがいるのだろうか。

先ほど見た光景にゾンビ何ていなかったはずだが。



「ゾンビなんていた?」


「ネクロマンサー…日本の場合は死霊術師デスかね、まあソんな奴等は散々殺サれテ人間恨みまくッテまスから、復讐ジゃ無いデスか、千載一遇のチャンスデスシ、張り切ッテると思いまスよ」



返答になっていないし意味がわからない。

スノウは状況を把握したような態度で、ゾンビはいると当然のように話しているが、私には何が起きてるかさっぱりわからない。

問い詰めよう、そう由葵が考えると同時に踵を返し、階段に向かうスノウ。



「時間が立テば、増えますシ、馬鹿が増える前にサッサト逃げる準備シまスよ」




先ほどの家族であろう少年の元に向かうスノウ。

聞きたい事がありすぎて何から聞けばいいかわからないまま、付いてきてしまった。

この幼馴染はどうにもこうにも、自分本位すぎるところがある。




「おはよう、君塚さん、姉ちゃん説明は終わったか?」


「ええ、完璧デス」



頷き、GJとばかりに手を少年に向けるスノウ。

この少年には話が通じそうなので、説明してもらおう。

そんでもって、さっさと家に帰ろう。

由葵は大きな溜息をつく。



「あの…」


「君塚さん、俺川澄武司って言います、いつも麻衣姉ちゃんがお世話になってます」



言葉を遮られ、挨拶をされたため、由葵も会釈を返す。

麻衣とは誰かと一瞬悩んだがスノウの本名であった。

咄嗟に出てこないぐらい麻衣なんて本名久しぶりに聞いた気がする。

何時の頃だろうか、自分の事をスノウなどと名乗り、片言な喋り方になったのは。

最初の頃は一過性の中二病かと思っていたが、既に四年近く立つが未だに直らず、慣れてしまった。



「君塚さんは包丁が得意らしいですが、すぐ壊れるだろうし、これを使ってください」



そういい、黒く塗られた消火器が渡される。

何で消火器なのか、何で包丁が得意なことになっているのか。重いし使いにくいしこれをどうしろというのか。

こんなのより、そこにあるバットにしてよ。

何も考えずに文句を言おうにも、何年も冷静なお嬢様っぽくあまり話さない演技をしていたためか、考えがまとまらず声が出ない。

いつの間にか考えてから話す癖が付いてしまったようだ。


昔は何も考えずに話していたというのに。

演技が本当の性格になってしまったとでも言うのだろうか。



「武司、冗談は良いデス。由葵用の武器をサッサト渡スデスよ」


「これ以外も持っといたほうが良いと思うんだけど」



武司が指差した物を見ると1mぐらいの物干し竿に包丁が括りつけられていた。

ガムテープでぐるぐる巻きにされてはいるが、すぐ壊れそうである。

こんな物を持たされてもどうすればいいのだろう。



「脱出が目的何デスから、二人は身軽に包丁ダけデ良いデスよ」


「姉ちゃんは今回は強いからそうなんだろうけどなあ…、普段は雑魚の癖に」


「雑魚ジゃねーデスよ!武司もサッサトバット持ッテ行くデスよ」


「バット一本とか不安で仕方が無いし、やっぱり消火器持ってったほうが」


「消火器は私ダけデ充分デスよ」



由葵がどうしていいかわからない中、スノウと武司が武器に付いて論議している。

完全に置いてきぼりである。

結局今現在何が起きているのだろうか。


魔法、廃墟、ゾンビ、戦い。

間違いなくろくでもないことにはなっていることがわかる。

わかるが、自分の考えが追いつかない。

本当にどうしたらいいのだろうか。


二人の論議は怒鳴りあいになってきた。

というよりスノウが一方的に怒鳴って、武司がそれを見て暖かい目で見守っている。


「姉ちゃんそもそも本当にゾンビなんて出るのか?」


「出テくるに決まッテるジゃないデスか!」


「姉ちゃんの言うこと基本的に外れるしなぁ…父ちゃんも母ちゃんも半信半疑だったぜ」


「何デ信用しないんデスか、こんな状況デこんなに死人が出テるト言うのに」


「死人が出るたびに、ゾンビなんて沸いてたら世界なんて終わってそうだし」


「ゾンビを過大評価シスぎデス、ソんな簡単に増えねーデス!」



ゾンビがいるかいないか、強いか強くないかなんて、姉弟の喧嘩なんてこんな時にしないでほしい。

二人の喧嘩を見ていると、急激に頭が覚めてくるのが判る。

ゾンビが本当にいるならこんな悠長に喧嘩なんてしないだろうし、そもそも町が廃墟になっているのも怪しい、本当に私の家は廃墟になったのだろうか。

スノウが適当なこと言ってるだけでは無いだろうか、先ほどの光景は幻術か何かの魔法で、私を騙しているだけではないだろうか、スノウは真顔で嘘を付くから判断がし辛いのだ。

寝起きだから頭が回って無く、思わず信じそうになったが、ゾンビなんて出るはず無いだろうし今回も、嘘な気がする。

そう考え始めると今まで緊張してたのが馬鹿みたいに感じ、気が緩む。


(さっさと帰ってご飯食べよ…、学校は休もう、疲れたよ)


夢見も最悪だったし、さっさと帰って、学校サボって寝たい。

そもそも今のこの状況が全て夢のような気がしてきたから、寝るのでは無く、目を覚ますというべきだろうか。


(そもそも、朝起きたら町が廃墟になってるなんて普通無いよね、にゃ~変な夢…)


自身があまり驚き、混乱もしてないのは夢だからだろう。

現実にこんなことが起きてたらもっと驚き、混乱しているはずだ。


(そもそもあの委員長の殺人してる姿も夢だった気がしてきた…)


全部が夢だとしっくりくる。

こんな人生ハードモードが現実なのはおかしい。

由葵は深く、深く溜息をついた。

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