第一話 私、創造神なのにストレスマッハ。おかしくない?
「はぁ…」
創造神アルブス――もとい、私は目の前の駄目天使…『イネプツ(無能)』を睨んでいた。
私の視線の先で、イネプツは無駄にキラキラした羽をパタつかせながら、満面の笑みで報告を続けている。
「というわけで、下界の人間たちが『もっと刺激が欲しい』と喚くので、魔獣の平均ランクを2個分上げておきました!」
イネプツはウィンクをする。うざい。消し飛ばしたい。
「これで昇進できますか!?」
食い気味で、ましてやキラキラした目で詰め寄ってくる。頭の中お花畑か?こいつ。
私の額に血管が浮き出る。
「…昇進させるわけないでしょうが!!平均ランクを2個分上げた?ランク1の村人がランク3の魔獣と出会うんだよ!!大体ランク1が安定してランク3を倒せるようになるのは16人分くらい必要なの!!分かる!?」
…反応がない。ちらりとイネプツの居た方向を見ると、私のそんな怒りを気にも止めず「いえーい!昇進、昇進!」とはしゃいでいる。
ため息を付く。
「(こいつ…!!)」
でも、あくまで冷静を装って言う。額に浮き出た血管は隠せないけど。
「昇進?ええ、させてあげるわ。」
「わーい!」と更にテンションを上げるイネプツ。うざすぎる。だが、もうすぐで隔離できる。我慢だ、我慢。
「良いわよ…ええ、それこそ『ゴミ箱』に送りつけてやるわ!!デリートよ、デリート!!あんたみたいなバグは即刻修正よ!!」
「あ、あれ? 神様、足元が黒い穴に……わー! 昇進先って異次元なんですかー!?」
「そうよ! 二度と戻ってこなくていい永久欠番よ!!」
指先一つでイネプツを『ゴミ箱(一時隔離フォルダ)』に放り込み、私は乱れた銀髪を乱暴にかき上げた。
静寂。あー、素晴らしい。数万年ぶりの静寂。
……だったはずなのに。
ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!
「……何よ、今度は。通知オフにしたでしょ」
虚空に浮かぶUIを見ると、そこには真っ赤な警告が狂ったように点滅していた。
[ 警告:生態系バランスが崩壊しました ]
[ ランク3の魔獣『爆裂猪』が200万体を超越。大陸の小麦が全滅しました ]
[ 人類滅亡まで:残り48時間 ]
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
イネプツが勝手に弄ったせいで、下界は「刺激」どころか「絶滅」のカウントダウンが始まっていた。
しかも、犯人のイネプツは今さっき私がゴミ箱にブチ込んだばかり。
「……やりやがったわね、あの無能……!! 結局私が後片付け(ロールバック)しなきゃいけないわけ!? おかしいでしょ創造神! もっと敬われなさいよ私!!」
そんな事を言ったら、今度は脳内に直接祈りが届いてきた。
『おお、創造神様…どうか我らをお助けください』
『お願いします…!』
『宝くじあててください…!』
『勇者の剣を渡してください!』
「一部私利私欲まみれの輩居なかった!?…って、そうじゃなくて!うるさい!あああうるさい!!」
さんざんブチギレた後、急に疲れがどっと押し寄せてきた。
「はぁ…どいっつもこいっつも、人(神だけど)が寝不足なのに仕事を大量に送りつけてきやがって…!!もー許さん!!人類ごと石化時代からやり直し(ロールバック)!!」
私は虚空を殴りつけ、管理パネルの『一括初期化』コマンドに指をかけた。
美しい銀髪がストレスの余波で逆立ち、碧眼には完全に「ヤバい奴」の光が宿る。
「ちょっと神様!? 待って待って、落ち着いてくださぁい!」
『ゴミ箱』に放り込んだはずのイネプツが、隙間から顔を出して必死に叫ぶ。
「人類を石化時代に戻したら、神様が大好きな『期間限定・苺パフェ』も、この世から消滅しちゃうんですよ!? パフェのレシピ、旧石器時代にはありませぇぇん!」
ピタッ。
私の指が、確定ボタンの数ミリ前で止まった。
「……あ。……そういえば。」
そうだ。文明を消すと、私の唯一の楽しみである「下界のスイーツ」も消える。
石を積み上げてマンモスを追っかけるだけの時代に、生クリームなど存在しない。
「……チッ。命拾いしたわね、人類。」
私は舌打ちをしながら、渋々指を戻した。
だが、この煮えくり返るようなストレスをどこかにぶつけないと、私の存在がパンクする。
「よし決めた。ロールバックはやめてあげる。その代わり、この状況を作った元凶――爆裂猪200万体は、一匹残らず『高級ハム』に変えてやるわ!!」
私は全力でスナップを利かせ、指を鳴らした。
「一括変換――対象:爆裂猪。変換先:燻製骨付きハム!!」
次の瞬間。
大陸を埋め尽くしていた200万体の唸り声が消え、辺り一面に香ばしい「良い匂い」が立ち込めた。
地面には、山のようなハム、ハム、ハム。
「……ふん。これで食糧難も解決でしょ。人類、せいぜい塩分過多で悩みなさいよ。私は寝る!!」
「わぁ〜! さすが神様! 解決策が美味しいですぅ!」
「うるさいイネプツ! あんたはあと100年ゴミ箱の中でマヨネーズでも数えてなさい!!」
私は泣きじゃくるイネプツを再びゴミ箱に蹴り込み、今度こそ神殿のベッドにダイブした。
…これが、のちに歴史書で『肉の雨の奇跡』と呼ばれる事件の真相であることを、知る者は誰もいない。




