エピローグ
砂漠を抜け、郝彰がたどり着いたのは、西域の果てにある小さな村だった。
節度使・安禄山による反乱が起こってから、安西都護府と北庭都護府の兵力──すなわち西域を死守すべき軍部は、内戦の火消しのために、ことごとく中原へと転用された。
守り手を失った西域の支配権は、雪崩を打つようにチベット人国家──吐蕃の手へと落ちていく。陸縉が、かつて長安で警鐘を鳴らし、命を懸けて防ごうとしていた最悪の事態が、いま郝彰の目の前で現実となっていた。
この村もまた、すでに吐蕃の支配下に入っていた。
「ここが、陸縉の故郷か……」
彼はただ、村を我が物で歩くチベット人に一瞥もくれず、村の北側にある、砂に埋もれた小高い丘へと向かった。
彼は、素手で砂を掘り始めた。
爪が割れ、血が流れても構わなかった。むしろ、その痛みが、一歩一歩この地に辿り着いた証のように感じられた。
砂漠を歩く中で、郝彰が見つけた「責任の取り方」、その一つ。それは、陸縉の墓を作ることだった。
立派な石碑も、故人を讃える碑文もない。ただ、彼が愛した故郷の土を盛り、そこらに転がっている石を積み上げただけの、あまりに無骨な墓。
郝彰は石を拾い、砂を盛って、名もなき墓標を立てた。
「……未だ、どうすればいいのか分からない。何をすべきで、何をしてはいけないのか」
墓標を前に、郝彰は独り言のように呟いた。
万太平を倒せば正義なのか。シリンを救えば罪は消えるのか。
墓を作ったからといって、陸縉が生き返るわけではない。婉清の涙が止まるわけでもない。
自分が積み上げたこの石の山が、死者にとって安らぎなのか、あるいは加害者によるさらなる侮辱なのかさえ、郝彰には分からなかった。
「どうか、俺の行動が間違っていたら、ここから這い出てきて、俺を止めてくれ」
郝彰の声は、夜の帳が下り始めた西域の荒野に、重く、低く沈み込んでいった。
もし自分が進む道が、再び誰かを傷つけ、誰かから明日を奪うものであるならば、いっそ今この瞬間に、陸縉の手で地獄へ引きずり込んでほしい。
だが、墓標は沈黙を守ったままだ。吹き抜ける風が砂を舞い上げ、郝彰の体を襲う。
死者は語らず、生者は迷い続ける。
郝彰は、震える膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
答えは出ない。
ただ、郝彰は、分からないという暗闇を抱えたまま、次の一歩を踏み出す。
それが、郝彰が辿り着いた、答えであった。




