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武侠小説:西域恩讐録  作者: ヤマダ


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9/9

エピローグ

 砂漠を抜け、郝彰かくしょうがたどり着いたのは、西域の果てにある小さな村だった。


 節度使せつどし安禄山あんろくざんによる反乱が起こってから、安西都護府あんせいとごふ北庭ほくてい都護府の兵力──すなわち西域を死守すべき軍部は、内戦の火消しのために、ことごとく中原へと転用された。


 守り手を失った西域の支配権は、雪崩を打つようにチベット人国家──吐蕃とばんの手へと落ちていく。陸縉りくしんが、かつて長安で警鐘を鳴らし、命を懸けて防ごうとしていた最悪の事態が、いま郝彰の目の前で現実となっていた。


 この村もまた、すでに吐蕃の支配下に入っていた。


「ここが、陸縉の故郷か……」


 彼はただ、村を我が物で歩くチベット人に一瞥もくれず、村の北側にある、砂に埋もれた小高い丘へと向かった。


 彼は、素手で砂を掘り始めた。


 爪が割れ、血が流れても構わなかった。むしろ、その痛みが、一歩一歩この地に辿り着いた証のように感じられた。


 砂漠を歩く中で、郝彰が見つけた「責任の取り方」、その一つ。それは、陸縉の墓を作ることだった。


 立派な石碑も、故人を讃える碑文もない。ただ、彼が愛した故郷の土を盛り、そこらに転がっている石を積み上げただけの、あまりに無骨な墓。


 郝彰は石を拾い、砂を盛って、名もなき墓標を立てた。


「……未だ、どうすればいいのか分からない。何をすべきで、何をしてはいけないのか」


 墓標を前に、郝彰は独り言のように呟いた。


 万太平まんたいへいを倒せば正義なのか。シリンを救えば罪は消えるのか。


 墓を作ったからといって、陸縉が生き返るわけではない。婉清えんせいの涙が止まるわけでもない。


 自分が積み上げたこの石の山が、死者にとって安らぎなのか、あるいは加害者によるさらなる侮辱なのかさえ、郝彰には分からなかった。


「どうか、俺の行動が間違っていたら、ここから這い出てきて、俺を止めてくれ」


 郝彰の声は、夜の帳が下り始めた西域の荒野に、重く、低く沈み込んでいった。


 もし自分が進む道が、再び誰かを傷つけ、誰かから明日を奪うものであるならば、いっそ今この瞬間に、陸縉の手で地獄へ引きずり込んでほしい。


 だが、墓標は沈黙を守ったままだ。吹き抜ける風が砂を舞い上げ、郝彰の体を襲う。


 死者は語らず、生者は迷い続ける。


 郝彰は、震える膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。


 答えは出ない。


 ただ、郝彰は、分からないという暗闇を抱えたまま、次の一歩を踏み出す。


 それが、郝彰が辿り着いた、答えであった。

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