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Turn03 アトマ/14

【三千年前に廃棄された外宇宙船スターシップ……船名はサンバルシオン】


「どうしてこんなデカいモノが宇宙に三千年も放置されてるのさ……時間とか大きさの単位が、いちいちおかしいでしょこの世界……」


 ほったらかされ具合で言えば、カノエの方が軽く三千年ほど先輩である。


【船体はそっくり綺麗なまま残ってるから、リアクター艦を分離して惑星に降ろしたんじゃないかな】


「それにしたって、この大きさのものをそのまま捨てる? 普通」


 外宇宙船スターシップの全長は、転移航路ヴォイドレーンの安定航行の為に、概ね三十km超。

 廃棄船サルバルシオンの船体も、リアクターブロック分縮んでいるとは言え、その三十kmに及ぶ元外宇宙船(スターシップ)の巨大な構造体が宇宙を漂っていた。


外宇宙船スターシップの宇宙コロニーとしての機能はストラリアクターあってのものだし、リアクターから供給が絶たれたら、外宇宙船スターシップの船体なんてタダの大きな箱。解体するにも費用が掛かるし。それに、宇宙だと下手に解体しない方がデブリを増やさなくて済むし?】


「そんなこんなで、三千年もずっとここにあるのか……さっきから時間の感覚が変になりそうだ」


【君は六千年眠ってたしね】


「もうなんなんだか、ほんと」


【感傷に浸ってるとこ悪いけど、さっきのクロムナインが接近中だよ】


「あー……とりあえず見晴らしの良いとこで接地して。地面が無いことには、まともに反撃もできないし」


 ジルヴァラが偏向重力推進ベクタードスラストの推力を調整し、ゆったりとしたカーブを描いて、廃棄船の表層外壁へと着地する。


「“索敵”」


 ゲーム時代の癖で、アトマに言うというよりも、コマンドを音声入力する感覚でカノエは指示を出した。


 光学観測探信儀オプティカルサイトの長距離解析は、ストラコアの機能を其方に大きく取られる関係上、常時飛ばすわけにはいかず、索敵はマニュアル操作で行われる。


【十一時方向、五十四度。距離五十宙海里。まもなく剣戟戦けんげきせん距離。その後ろにクロムナインがもう一隻追ってきてる】


「ん? 二隻じゃなくて?」


【一隻減ってるね】


「回り込んで挟み撃ちにするつもりとか、そんな感じかな……なんにしても厄介だね。急いでアーチボルトとかって人、倒さないと――」


 見ると、操縦桿を握る手が震えていた。


――ゴン――とコンソールに手をぶつける音が響く。


【なにやってんの?】


「ごめん」


 武者震い、とでもいうのだろうか。以前にも、集中していればいるほど、ここぞという時に手が震えることはあったから、今度もそれだと思った。

 距離を確認し、ジルヴァラの姿勢を中腰にし、半刃半柄鉈槍フィフティグレイヴを正眼に構えさせる。


「あれには……人が乗っているんだよね」


【今更怖気づいたとか?】


「いや……どうだろう。ゲームで対戦するのと、現実に人と戦うのはやっぱり違うんだなって思ってさ」


 違うのは当たり前なのだ。

 カノエにたまたま骨格艦フラガラッハを操縦できる経験があり、ジルヴァラという戦う力があって相手と拮抗することが出来ているだけで、抗う術がなければ、あのアーチボルトという男に命を奪われていたかも知れない。

 ゲームの対戦は競技だが、現実に起こる戦闘の本質は略奪だと知ったことで、カノエは根源的な死の恐怖も同時に悟ったのだった。


「さっきから攻撃するのが怖いんだ。たぶん、相手の命を奪ってしまうことが怖いんじゃなくて……もし失敗して、自分が死ぬかも知れないことが心底怖い」


【死を畏れる――それは“あたしたち”が未だ辿り着けない、人類だけが成しえた自我の発露だよ】


「そんないいもの? ただビビりまくってるだけだよ?」


【少なくとも、何千年も掛かってヒューレイになった、あたしからすれば、うらやましい限りかな】


 だとしても、それに囚われて何もしなければ、このまま命を奪われるかも知れない。その瞬間まで、震えて待っているわけにはいかないのだ。

 クラウンシェルの筐体に乗っている限りは、無様な姿は見せられない。

 そう自分を鼓舞すると、やがて震えは止まった。


「一体、誰に無様な姿を見せれないんだろうな……」


 遠野ミストでヘヴンズハースの戦い方も面白さも教えてくれた“佐原世良サハラ セラ”はもう居ない――居ないのだ。


「だからって、だからってねぇ」


 しっかりと、操縦桿を握りなおす。

 この手に馴染む感触が、この世界に居場所のないカノエの唯一の拠り所だった。


「見つけたぞジルヴァラァッ!」


 等方性通信波とうほうせいつうしんはに寄る元気な怒声。クヴァルのナインハーケンズ、クロムナインのアーチボルトだ。


「……ほんと、初めての相手がこの人でよかった気がするよ」


【結構天然だよね、このおにーさん】


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