Turn03 アトマ/12
迫る艦上曲刀を、再び危ういところで半刃半柄鉈槍が受け止めた。
「あっ、ぶね……!」
「しぶてぇな、オラオラァッ!」
絶え間ない連環斬撃。
踏ん張りの利かない宇宙空間では、軸足の溜めを乗せた最大斬撃よりも、推力や慣性を利用した連環斬撃の方が理に適っている。
二度、三度と激しく艦上曲刀が打ち込まれる。しかし――
「なんだ? 勢いだけだぞ……?」
カノエは困惑していた。激しく切り込まれてはいるが、セラとの対戦に比べれば、悠々と受けきれる攻撃だった。
「――いや違う。こっちの反応がおかしなぐらい早いのか……なんだ、この反応速度」
冷静に考えれば、初撃は機関砲の射撃の隙を狙われ、今また、完全にミス操作で姿勢を崩したところへ連環斬撃を浴びたのに、この骨格艦ジルヴァラは、通常の防御入力だけで全て受け流してしまった。
「アトマ?」
【あたしは制御してるだけ。ジルヴァラに戦う意志を与えているのは、君だよ】
機械音声のような音に、確かに感情が乗った声でアトマは言った。
「って……ことは、このジルヴァラ、反応速度が尋常じゃなく速いのか。いや、それなら、このクロムナインのヘルムヘッダーも当然素人じゃなくて……」
考えている間にも、絶え間ない艦上曲刀の連環斬撃が襲い掛かる。
ただの“猪”や“AI”ならカノエでも簡単にあしらってしまえるのだが、このクロムナインは攻撃に絶妙な緩急を付けて、ジルヴァラの自動防御やカノエの防御入力を潜り抜けようとしてくる。危うい斬撃も増えてきている。
しかし、ヘヴンズハースでカノエが使っていた骨格艦では、確実に被弾するタイミングの攻撃も、ジルヴァラはまだ悠々と受け流していた。
「モーションの重い半刃半柄鉈槍なのに」
「おい、アーチボルト! 深追いしすぎだ、誘い込まれてるぞ!」
後続の敵艦から等方性通信波が飛ばされ、それはカノエのジルヴァラにも届いた。
「ふざけろ、なんだコイツはッ! 俺の攻撃が通じねェ! カスリもしねェ!」
「だから一旦引けって! 三隻で囲め! 相手は六千年級だぞ!」
「引けだと? 誰に命令してるッ! オレ様はナインハーケンズの一番槍、アーチボルト=グリスだッ! 一太刀も入れずに引き下がれるかヨッ!」
激しい通信の応酬が、カノエにも洩れ聞こえてくる。
「やっぱり、素人のレバガチャじゃない。けっこう腕の立つやつ。たぶん、攻撃を押し付けて何もさせずに倒すのが好きなタイプ」
【タイプっていうか、随分具体的ね、それ】
「アトマ、足場に使える障害物ない?」
【衛星ファーンに降りて重力に捕まるのはマズイよね……四時方向、マイナス三○度。距離約一五○宙海里。三千年ほど前に廃棄された外宇宙船の表層外壁とコンテナ艦。でも、何する気?】
「あわよくば倒して逃げようかな、と。背中を向けたらここぞと畳み掛けてくるタイプだから、この人だけは倒すなり引き離すなりしないと……ゲームでも大概、狂犬で面倒くさいイメージなんだけど、現実に戦ってもホント、シャレになんないな」
喋っている間にも、艦上曲刀の重力刃が消耗するのもお構いなしに、絶え間なく打ちつけてくる。
ペースに乗せるとそのままズルズルと削られる。出会い頭で会うと、一番嫌なタイプの相手だった。一番槍と言う肩書きも納得だ。
【逃げるってどこへ】
「惑星レンドラまで逃げればなんとかなるって、言ってなかった? とにかく三体一はマズいし、それに僕、宇宙空間じゃまともに戦えないし。ヘヴンズハースの宙空戦は人気無かったんだよ」
コンバットタイプのゲームが対戦環境を変化させて、ゲームのバリューを増やすのは良くある手だ。
ヘヴンズハースも元々は惑星戦しかなかったが、何度目かのバージョンアップで宙空戦が追加された。
しかしその頃にはセオリーとなる戦術が確立されていて、高威力の跳躍突撃や最大斬撃がその花形であった為、それらを使う足場に乏しい宙空戦はいまいち人気がなく、カノエも数えるほどしか遊んだことがなかった。