094 めでたく
ポチに跨って走る事十数分。
王都レガリアに着いた俺たちはすぐに冒険者ギルドで依頼の完了を報告した。
てっきり疑われてまた捕まるのかと思ったが、ウォレンの言った通り、簡単に受理された。
更に二万ゴルドもの大金を頂き、受付のお姉さんからは感嘆の息とともに、称賛の言葉をもらった。
話がうまく進み過ぎていると考えたが、ウォレンのやる事は大体が上手くいく。それは魔法大学時代に知った経験である。
その後、再びあの大聖堂まで走り、待っていた六勇士の一人、ジェイコブが不服そうな顔で迎えてくれた。
俺の右手にある。依頼完了証を目にしたからだ。本来、この依頼完了証を貰う冒険者は少ないが、外部からの委託という事でギルドが俺に渡してくれたんだ。
「まさか……こんなに早く戻って来るとは思わなかったよ……っ」
「あ、この二万ゴルドどうしま――――」
「あげるよっ。仕事をしたのは君だからね」
嫌悪感を魔力に変換したらこうなるんじゃないかって程ジェイコブは圧力を掛けてきた。語気の強い事強い事。
何だ、こうして見ると六勇士も大した事ないのかもしれないな。
今の俺なら万全の準備をされても勝てる可能性が高いと思うし。…………って、あれ?
「キャサリンさんとバルンさんは?」
「……帰ったよ」
流石は大人……なのかな? 不満は自分の中で解消出来たみたいだ。
さて、ランクSの昇格審査。後どれくらいあるのかね? 今日は終わりってところかな?
「さぁ、お次の審査をお願いしますよ! 私お腹空いちゃいましたから!」
お前さっき…………いや、いつもの事か。
だが、ジェイコブはあの討伐に関して何の質問もないのか? いいのか? それでいいのか六勇士っ!
「奴ら……」
「え?」
「どんな顔して死にましたか?」
さらっととんでもない事を言うなこいつ。
しかし、これも審査なのかもしれないし……どうしたらいいだろう?
「あの時マスターは森をも吹き飛ばす程の大魔法で敵を仕留めようとしました! しかしその時私が――」
なんか始まったぞ。
「私は敵を千切っては投げ千切っては投げ!」
その後、ポチの超絶嘘吐き大会が始まり、ジェイコブは思いの外真面目にそれを聞いていた。
ポチの話ではどうやら俺は最高に下劣な人になっており、灰も残らない程解放軍を血祭りにあげたそうだ。
凄いな俺。
次第にジェイコブの顔は嬉々としていき、ポチの話に相槌までするようになった。
大丈夫か六勇士?
「――――そして! マスターは驚異のオリジナル魔法で敵を地獄の底に叩き落としたのです!」
「へぇ……」
ホント感心する程嘘が出てくるな? 予め台本でもあったんじゃないか?
ポチがフフンと満足した様子で語り終えると、ジェイコブはその細目で俺を見た。
心なしかジェイコブも少し満足そうな雰囲気だが、どうやら何かを言いたげな様子だ。
「じゃあ昇格審査の最後なんだけど――」
「え、もう最後なんですか?」
「君ねぇ? 六勇士はこう見えても多忙なんだよ? 何日も審査日を設けられる訳じゃないんだよ」
「あ、はい」
ま、まぁ三つの審査って事なら多くも少なくもないか。
こんなもんなのかもしれないな。
「それで、最後の審査というのは……?」
「その驚異のオリジナル魔法。見せてもらおうか?」
「え?」
「ん? 解放軍を地獄の底に叩き落とした魔法だよ? 使ったんでしょう?」
「えぇ、勿論!」
…………おのれ、馬鹿犬めっ!
そんなお前、「大丈夫でしょ、マスター☆」って顔やめろ。きっと俺の沸点を超えてしまうっ!
ジェイコブのやつ、嘘に気付いたのか盛った事に気付いたのか知らんが、笑顔で出す審査内容じゃねぇだろ。
くそ、オリジナル魔法だ? そりゃ少しはあるが、地獄の底に叩き落とすような魔法は俺は知らないぞ!
ポチめ、帰ったらお仕置きだ。そうだ、三日間くらい野菜漬けの食事にしてやろう。きっと泣いて喜ぶに違いない。
「じゃ、じゃあここでは危ないので王都の外で見せましょう」
「へぇ、それは楽しみだね?」
か、考えろ! オリジナル魔法をこの数分で作りあげるんだ。
驚異で脅威の魔法を! がしかし、森は吹き飛ばしてないし、地形が変わるようなそんな魔法は使えない。
地獄に叩き落とせる魔法……そうだ、グラビティスタンプはどうだ?
いや、あれは敵の原型が残ってしまう魔法だ。た、確か灰も残らない感じの魔法だな。
ならばどうすりゃいい? あ、そうだ。叩き落とすというか吹き飛ばす感じでもいいんじゃないか?
いやいや、フウァールウィンドの強化版の魔法のどこが驚異なんだよ。
敵の原型を残さず、地形が変わらず、ジェイコブが多少なりとも驚いてくれるような魔法…………?
ない!
ないぞ!
「アズリー君。ここからなら北門が近いよ? そっちは南門への道だ」
にやりと笑うジェイコブに、俺は困惑を隠せない笑みで返した。
「ははははっ。すみません。方向音痴なもので」
「アハハハッ! マスターはホントおっちょこちょいですね!」
こいつめ、シチューのレシピに加えて鍋で煮てやろうか?
いや、ダメだ。きっと「いいお湯ですー! シチューがいっぱいですー!」とか言って喜びながら泳ぎ始めるだろう。
「もう、笑わせないでくださいよマスター! もっとお腹が減っちゃいますよ!」
ホント、底無しの胃袋だな。
…………底無し?
あぁ、そういう事ならアレの公式をいじればいけるかもしれないな。
ちょっと公式の暗算をだな…………えーっと、これは別に魔術を込めなくてもいけるし、情報が過多になるという事もないだろう。うん、いけるな。
条件は満たしてそうだけど、問題はジェイコブが驚いてくれるかどうかなんだが……はて、どうだろう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都レガリアの北門。ここからはレガリアの王城の後ろ側がよく見える。と言っても、かなり遠いが、それだけに、北門の作りは南門以上に強固となっている。
その北門から出て数分、ジェイコブが立ち止まり、その横にポチが座った。感情は表に出すが、どうやらポチの嫌いなタイプではないみたいだな。
これがガストンやウォレンだったら少し離れて座っただろう。
あれ、そういえばお前、討伐に出る前にジェイコブの事「生意気なお坊ちゃん」とか言ってなかったか?
「それじゃあアズリー君、どうか僕を驚かせてくれたまえ。くくく。…………ちょうどいい。あそこにいるアルミラージを狙ってくれ」
「マスター! 頑張ってくださいよ!」
まったく、俺の気も知らずに呑気な使い魔だな。
さて、単純な大魔法ではジェイコブが納得するわけもなく、そもそもオリジナル魔法じゃなくてはいけない。既存の魔法でも珍しいものであればいけなくもなさそうだが、ここは一発でかいのを見せておくべきかな。
「ほいのほいのほい!」
普段は家か火急の用事の時にしか使わない魔法。
オーガキングの討伐の時は、この魔法が無ければ敵わなかっただろう。
まぁ、そもそもこの魔法自体に威力はない。そう、必要ないんだ。普段は俺の倉庫代わりに使っている魔法だしな。
それが《ストアルーム》だ。
ポチの胃袋並みに底無しのこの魔法。それを攻撃魔法として使ったならば、それは驚異に値するだろう。
普段開いているストアルームには俺の荷物や研究資料が入っている。
だから今回は違う空間を開き、尚且つその魔法に加速性と指向性の公式を組み込む。
ただ、それだけだと全てを内部に取り込んで動き続けるから、あえて射程距離の公式を組み込む。
……出来た。これなら驚いてくれるだろ? ジェイコブさんよ!
「喰らえ! ゲート・イーター!」
宙図から発動した魔法は、正面に迫ったアルミラージ目がけて発射された。
瞬間、走っていたはずのアルミラージが消えた。
「なっ!?」
「おー、凄いですー!」
あれ? おかしいな?
もう少し黒く歪んだ空間がアルミラージに向かって進んで空間に飲み込んでしまう。そんなカッコいい魔法だと思ったんだが…………あれ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―― 王都レガリア 冒険者ギルド ――
「いやー、意外に簡単な審査でしたねぇ! ジェイコブさんも口を大きく開けて驚いてくれましたし!」
「っかしいなぁ……何であんな魔法になっちまったんだ? やたらMPを持ってかれたし、あれじゃあ危な過ぎて戦闘で使えないぞ?」
「どれほどのMPを?」
「五千ってとこだな」
「んまー! それは燃費の悪い魔法ですこと! ……ともあれ! ランクSの審査に受かったんですから、今夜は豪勢にいきましょうね!」
あ、そうだ。
こいつには野菜たっぷり食わせなくちゃな。




