089 ポチの実力
と同時に、バルンが駆け、ポチは待ちの姿勢に入りながら意識の半分は何かに向いているようだ?
なんだ、何をしている? ポチのヤツ、目が……寄ってるぞ?
「テンションアップ、タイトルアップ」
駆けるバルンが呟く。
もしかしてスウィフトマジックかっ? だが、やつが持っているのは小型のダガー。
完全に金属だし、あれが杖って事はないだろう。いや、出来なくはないが……。
ん? もしかして、あの腰に付けてる鞘のようなものが杖か。
……どうやらそうみたいだな。鞘の先端にエンブレムが付いている。
まったく、リナもそうだが、若い人間の考えってのは斬新だねぇ。
だが、あのサイズまで削っても杖として、いや、スウィフトマジックの効果が得られるのか。
これは少し勉強になるな。今度安い杖を買って実験してみよう。
「ひょいのひょい! テンションアップ!」
「うぉ、ポチが魔法をっ!?」
どっから出した、あいつ!?
口から零れたぷるぷるし、そして疲弊している舌……って事は……。
「はははは! 口の中で、舌で宙図したのか! 凄い使い魔だ!」
「お褒め頂き光栄ですー!」
これと同時にポチが後方に跳び、バルンと距離をとる。しかしそれを追う形でバルンは再度地を蹴った。
その一足跳びでバルンは距離を詰めれると思ったんだろうが、どうやらポチを甘く見過ぎのようだな。
「くっ!」
速度はポチのが上だ。テンションアップの補助魔法だけだが、二つの補助魔法を掛けたバルンより速い。
ポチの速度は俺以上だ。捉えるのは至難の業だぞ。
壊れかけた柱を使って柱から柱へ跳ぶポチをバルンが追う。だが距離は徐々に開いていく。
こうなれば、バルンは戦士としての本領を出すしかなくなるな。
「はっ!」
剛力を発動し、身体強化。剛体を発動し、身体への負荷を軽減。そして疾風。これで身体の周りの空気抵抗を軽減する。さぁ…………どうなる?
「ひょいのひょい! タイトルアップ!」
へぇ、ポチのやつ、舌での宙図速度、かなりのもんじゃないか。寄り目はどうにもなりそうにないな。
宙を跳びかう二人の距離は……縮まりもせず、開きもしなかった。
どうやらこれで、速度は五分と五分って事だな。
「ちっ! だっ、だっ!」
「なんの! ほい! ほい!」
バルンは太ももにあった小さな匕首を飛ばす。
ポチは尻尾を地に向けて振り、咄嗟に宙で進行方向の軌道を変えた。
うん、難なくかわしたな。しかし凄いな、流石野生。
どうやらバルンはベティータイプの戦士のようだな。今度ベティーに魔法でも教えてみようかな?
女性ってのは魔法の相性が合うもんだし、あいつなら頭の回転も早いし簡単なものなら覚えられるかもしれないしな。
「そこだ!」
「なっ、これを狙っていましたかっ!?」
ポチが変えた軌道を更に読み、バルンがその先に匕首を飛ばす。これは間に合わないな。
どうするポチ?
「ガァアアアアアアアアアッ!」
「なっ!?」
なるほどね。圧縮したブレスを吐き、匕首を弾く。
一点集中型のブレスにすれば反動は少なく、そこから移動する事もない。
まともに発動すれば、ブレスの反動でポチが反対側へ押し出されるのは……まぁいいだろうが、建物や街に被害を与えてしまうからな。
うん、俺の躾が良いって事だろうな。
「ふふん、メルキィさんに教わった技です!」
……メルキィの躾らしいな。
おのれ、面白くない!
にしても、ポチがかわしまくってるせいでバルンの顔に焦りというか、苛立ちを感じる。
性格はベティーというより、少し前のオルネルのような感じか。
落ち着いてそうに見えて、ここまで感情の起伏を感じさせるって……いいのかこいつが六勇士で?
まぁ、それ込みの成長を期待しているってとこか。
様々な攻撃の変化を繰り出すバルンに、ポチはその都度対応し、全ていなしかわす。
痺れを切らしたバルンが手の甲で口の汗を拭った時、戦いに変化が起きた。
「アイタッ!?」
間抜けなポチの声。
腰元に何か当たった? あれは……小石か? 一体何をした?
ポチに出来た隙にニヤリと笑ったバルンが一瞬で距離を詰める。
「高周波ブレイドッ!」
「なっ!」
咄嗟に声が出てしまったが、あのバルン試合じゃ出しちゃいけない技をっ!
高周波ブレイド、肩から腕を極限まで震わせながら斬り付ける技で、その威力は絶大。
斬撃系の特殊技ならば最強とも言われる一点集中型の攻撃。
くそ、援護が間に合わないっ! かわすんだポチ!
「ふんぬっ!」
と、気合いを入れたポチがとった行動は、バルンにとって、俺にとっても予想外の事だった。
「っ!? 巨大化かっ! ちっ!」
「くぅう~! い、痛いですー!」
そうかっ! 強力な攻撃でもあくまで一点集中型。攻撃した箇所しか傷つかない。
ならば巨大化してしまえば、急所への攻撃を避けられるし、攻撃を受けてもそこまで深い傷にならない。
浅い傷を負ったポチは、そこで隙を見せる事なく、そのままバルンの上半身を咥え込んだ。それはもうカプッっと。
「ほーはっへは、ははひほはひへふへ!? ほうへふはふはー!? はひはひはほっ!」
いや、何て言ってるかわかんねーよ。
一瞬で殺されそうな状況に、バルンは身動きが取れない。そりゃそうか、肘から下まで咥えられ、攻撃する手段が蹴り位しかない。
だが、そんな事で反撃すれば、ポチの牙はより一層身体の奥まで食い込むだろう。
「勝負ありですね、バルンさん」
「くっ! あぁ、離せっ!」
「だってよ、ポチ」
だがポチはバルンを口から離す事はなかった。
ん? どうしたんだ? ポチの視線の先を追うと、そこにはスパイシーモンキーことリッキーの姿があった。
んー……あぁ、そういう事か。
「リッキーさん、試合終了の言を頂けますか?」
「…………試合終了だ」
不満そうな声だったが、リッキーの言葉をもらうと、ポチは首を振ってバルンを少し離れた場所に放った。
流石用心深いな。俺とは違う。
リッキーがもし試合終了のコールをしていなかったら、バルンがポチの口から離れた瞬間に反撃出来たかもしれないし…………おっと、いかんいかん、ポチの回復が先だな。
この傷なら……、
「ほい、ミドルキュアー」
「ありがとうございますー! ……さて、バルンさん。さっき私に投げられた小石の事、説明してもらいましょうか!」
「……何の事かな?」
自身の回復をしながらバルンが小さく答える。
「マスター! あの人ちょっととぼけちゃってるのでバトンタッチです!」
そういうの苦手だよな、お前。
「バルンさんは口を拭ったふりをしてサインを送った。……おそらく、そこのリッキーさんに。まさか使い魔であるリッキーさんが戦うとは思いませんでしたが、戦わないとは誰も言っていない。ま、これはあくまで保険だったんだろうけど」
「そうでしたか! そう言えばバルンさんは試合が始まる前に、『審査方法は審査員が決めていい』って言ってましたからね」
「…………ふんっ」
なるほどね、なんとも嫌らしい審査だこと。
まぁ、ランクSの昇格審査だし、こんなもん……と言えばこんなもんなのかもしれないな。
「さ、ちゃっちゃと次の審査をしちゃいましょう!」
ポチの言葉が大聖堂に響く。すると一階の方、前方と後方から二つの足音が聞こえてきた。
前方から現れたのは……な、何だあれはっ!?
「あー! マスター見ちゃダメですぅー!!」
咄嗟に二つの肉球で俺の目を塞ぐポチ。
くそ、前がぷにぷにだ!
しかし、俺の前に現れたのは確かにポチがそうするだけの相手だった。
あ、あんなにも凄いセクシーダイナマイトは初めて見たかもしれんな。
「ふふふ、バルンには力不足な審査だったみたいだね」
色のある艶っぽい声、ぷにぷにじゃ塞ぎきれない俺の目の端が捉えたのは、白く美しい肌の女戦士。
胸元はなんかもうギリギリで、下半身に至っても隠す場所しか隠していないような軽装。
「だから見ちゃダメですぅうううっ!!」
大変だ、ポチの前脚の先から爪が出てきた。




