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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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087 王都レガリア

 ―― 戦魔暦九十四年 三月二十二日 二十時 ――


 俺たち一行は、ベイラネーアと王都レガリアの中間地点、レジアータへと到着していた。

 建物は古く歴史を感じるものが多い街だ。そう言えば、ツァルはララをこの辺で拾ったと言っていたな。

 宿を確保し、ポチがぐっすりと寝始めポチ枕へと変わった時、ベッドとベッドの間の仕切りを外したベティーが顔を覗かせた。

 そう、運が悪く、一部屋しか空いていなかったのだ。

 ベティーとは何度か野宿した事はあるが、こう二人きりの部屋となると話は別だ。

 ポチに魔法公式を教えてストアルームの中で眠ろうかと思ったくらいだ。


「なぁにアズリィ? お姉さんと一緒で興奮して眠れないの~?」

「んな訳あるか! 明日も早いんだからすぐに寝とけよ。っと、そう言いたいのは山々なんだが、一つだけ聞きたい事があったんだ」

「ふふふ、私も話があるから覗いたのよ。で、アズリーの方は何の話?」


 俺は横になろうとしていた身体を起こし、ベッドの上で胡坐をかいた。

 ベティーも蛇腹折りの仕切りを畳み、ベッドに腰掛ける。


「ブルーツとブレイザーから聞いてないか? ランクSの昇格審査で何をやるかって」

「あぁ、その事。聞いてるわよ。それも話そうと思ってたからちょうどいいわね」

「って事はベティーの話は別の事か」


 ベティーが頷き話を続ける。


「ランクSの昇格審査は一人一人に担当の人間が付くそうよ。審査方法は担当官がその場で決めるって言ってたから正確にはわからないんだけど、私たちの実力を見るというより、実力の最低値を見るみたいね。その数値が基準を上回っていれば合格、下回っていれば不合格って事らしいわ」

「実力の最低値…………そうか、だからこの早急な移動って事か」

「そ、おそらく体力を削ぐつもりでしょうね。勿論、これだけじゃ私たちの体力は削られないでしょうし、王都レガリアへ行った後でも何かしらそういった試練があるかもしれないわね」

「なるほどな……それなら実力不足で選定されるという可能性は低くなるか。ありがとう、助かったよ」

「アズリーの魔法があるからこそ、私はこんなに楽に来れたのよ。こっちも助かってるわ」


 いや、まだまだ長年経験しているベティーには敵わない。

 道中様々な事で助けられた。隠形方法一つとったってそうだ。モンスターをいかにやりすごすのかも経験一つで変わってくる。本来であればもっと遅くにレジアータに到着していたはずだが、ベティーのおかげで早くここまで来れたと言ってもいい。

 勿論、オールアップの魔法あってこそというのもあるが、それ込みでもベティーの凄さは変わらない。

 俺は腕を組んで改めてベティーを見ると、少し照れ臭そう顔を背けた。

 これはまずい。そう思って俺は、(かぶり)を振って話を戻そうとした。


「あっと、それで、ベティーの話ってのはなんだよ?」

「あぁそうね……アズリーさ、レジアータ着いた時、『白銀の連中に会った』って言ってたでしょ?」


 あぁ、確かにそんな事を言った気がする。

 銀の皆に話す時間が無かったってのもあるが、俺はこの街に着いてからようやくそれを思い出したんだ。


「確かに言ったけど、すぐに別の方に行っちまったから……通りすがったってのが正しいかもしれないな」

「その中に……赤髪の女戦士は……いた?」


 赤髪……いたかそんな人間。

 確かに先頭に女戦士はいたが、赤髪だったかどうかと言われても答えは出せないな。


「いましたよ、赤髪の女戦士」


 俺の思考はよそに、後ろからベティーの質問に肯定する返事が聞こえた。


「本当、ポチ?」

「なんだ、起きたのか。てっきり寝ちまったものだと思ってたよ」

「ええ。マスターが乗らなかったおかげで私も楽出来ましたからね。そこまで疲れなかったんですよ」


 ポチのちょっとした皮肉に俺の顔が少し歪む。

 にゃろめ、いつもは「軽いもんです!」とか言うくせに!

 そんな事を考えながらポチの頬をつねって伸ばしていると、ベティーはより神妙な面持ちになり何かを考えている様子だった。

 白銀の赤髪女戦士…………ベティーも何かしら抱えているという事か。

 女同士だからライバルだったとか、そんなとこか? いや、この顔はそんな簡単じゃなさそうだな。

 これはベティーの問題か。そう思い俺たちは話を切り上げる事にした。ベティーは終始真剣な顔だった……昇格審査に影響が出ないといいんだが……。


 翌朝、俺のそんな心配は杞憂だった事を知る。


「さぁ、明日二十四日中には王都レガリアに着くわよ! 二人とも、気合い入れなさい!」


 いつも以上に元気に見えるぞ?

 どうやら大丈夫みたいだな。俺とポチは見合ってくすりと笑う。

 そして、レジアータの街の北門から再び駆け始めた時、俺はリナからの念話連絡の魔術を受信した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『……わかった、俺の方でもちょっと調べてみる。ありがとうな、リナ』

『そんな事ないです。えへへ、でも嬉しいです』


 ところどころ卑怯で甘い声が聞こえる。最近のリナには本当に女である事を意識させられてしまう。

 俺はリナに選んでもらった銀の鍵のネックレスを掴んであの笑顔を思い出す。


『そ、それじゃあな』

『え、あ、はい! 審査、頑張ってくださいね!』

『ありがとう』


 リナの激励が入ったところで俺は速度を元に戻した。

 どうも念話連絡の魔術を使っている最中は身体の動きが鈍ってしまうな。

 神経と神経の平行作業の難しさをよく知っている俺ではあるが、やっぱりこういうのも鍛錬しておくべきだろうな。

 ポチと一緒に今度練習するか。

 念話での会話が終わったと理解したポチとベティーも、再び俺に速度を合わせ、俺の目礼を「気にしないで」と返してくれた。


 リナから聞いた話……アサルトコボルトの変異。

 ランクC相当のモンスターが強化されるという事がありえるのだろうか? だが実際にブルーツやブレイザーはそう判断した。

 確かに魔法で強化すれば多少変わるだろうが、そうなると噴き出ていた黒い蒸気のようなものの説明がつかない。

 黒い蒸気……やはり魔術的要素が強いな。それも恐ろしい魔術。

 やはり黒魔術か? もしくは魔術よりも儀式的なもの。帰ったら詳しく調べてみるか。


 その後俺たちは、速度を緩める事なく、王都レガリアが見える丘まで辿り着いた。

 先日見た時と同じように巨大な王城に生える無数の尖塔。中央塔に戦魔帝ヴァースが住んでいるというが、さて、メルキィはどうしている事やら。

 昇格審査が終わったら少し探りを入れてみるかな?

 そこから三十分程駆け、レガリアの門に着いた時、時刻は十八時を迎えていた。


 流石王都と言われるだけはある。どの地区もベイラネーアの商業地区以上に人が無数に歩いている。

 建物も古いものから装飾が多い新しいものまであり、そのどれもが俺とポチを驚かせた。

 おぉ、ガストンの魔道具専門店もある。流し目で中を見てみたが流石に人の出入りが多いようだ。

 だが…………それ以上に街の格差が凄まじいな。一見煌びやかに見える街の裏路地は、やはり浮浪者や見るからに危ない人間も見受けられる。

 こんな中でもベティーは相変わらずだな。

 昇格審査の現地到達報告でレガリアの冒険者ギルドに向かってる訳だが、真っすぐ向かう中でちゃんと俺に必要な情報を渡してくれる。

 何度も言いたくなる……。流石王都だ、街も広過ぎて一人で来たら迷ってしまうんじゃないか? 迷宮探索より厄介かもしれないな。

 十九時を回る頃、俺たちはレガリアの冒険者ギルドに着いた。

 レガリアの冒険者ギルドと言えば冒険者の中では有名だ。なんと言っても国一番のギルドだ、各地の腕自慢が集まる冒険者の聖地。必然と強いやつらが集まるって訳だ。

 俺たちはギルドの扉を開け、中へと入った。

 ピリピリとする空気の中、ベティーはそれを受け流すかのようにカウンターへ向かった。

 ポチはびびりながら俺のマントを咥えて後ろから付いてくる。

 やはり冒険者の数も質もベイラネーアとは比べものにならないな。確かにここ二年でベイラネーアの冒険者の全体レベルは向上したが、レガリアは簡単にその上をいっている。実力だけで言うならば平均ランクBというところか。

 ん、気のせいか注目を集めて……いる?

 あぁ、注目されているのはベティーか。そういえば、銀は各地を転々と動いていたからレガリアでも顔見知りが多いのだろう。

 カウンターでは眼帯をした金髪の美女が受付をしていた。元冒険者だろうか? 首元に傷もあるし早期引退してギルドで仕事をしているというところか。


「昇格審査に来たわ、ベイラネーアからよ」

「俺もです」


 俺とベティーはダンカンから受け取った通知書を受付の女に渡すと、辺りが一気にざわついた。


「マジかよ、ベティーのやつ数年前来た時既にランクAだったろっ?」

「って事はランクSへの昇格審査かよ!?」

「間違いないな。…………隣の男は何者だ?」

「やつも昇格審査みたいだぞ?」

「おいおい、まだガキじゃねぇか。あいつにゃまだ無理だろ?」


 そんな声が聞こえた。ガキ……か。そうだな、まだまだ経験不足なのは認めるよ。


「マスターマスター!」


 無視だ無視。こんな時のポチはいつもろくな事を言わない。

 前回耳に息を吹きかけられたから、今回は耳をガードしておこう。


「まだまだ若いって言われるんですね! 私も若作り頑張りますー!」


 …………。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドの受付の女から次の指定場所を教えられ、俺たちは宿をとった。

 一日早く着いたからな、向こうも驚いていたようだ。その後ゆっくりと休養をとり、翌日少し早起きをして朝食をとった。

 昇格審査は昼過ぎからだという話だったので、入念に身体を起こしベティーと簡単な試合をしたりして時間を潰した。

 軽めの食事をとり、俺たちは万全の状態で昇格審査に臨む事が出来た。

 そして昇格審査の時刻近くになり、ベティーは別の場所で昇格審査を受けるという事で、俺たちはまた後で合流するという約束をして別れた。


 ―― 戦魔暦九十四年 三月二十五日 十五時 ――


 王都レガリアの北東地区で俺たちは………………、

「待て…………ポチ、ここはどこだ?」

「さぁ、見当もつきませんね!」


 迷った。

これにて第三章が幕となります。

数日お休みを頂いてまた再開する予定です。


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