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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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083 白銀の《アージェント》

 俺とポチが警戒する中、東から現れたのは白銀の鎧に包まれた一団。

 一糸乱れず行進する姿はまるで軍隊のようだ。いや、王都レガリア軍の錬度は知らないが、もしかしたらこれはそれ以上の集団かもしれない。

 見たところ弱くてランクBの冒険者レベルというところで、どの人間もランクAかそれ以上の実力を持っている。

 中でも中央後方にいる白馬に跨った老人は、どう見ても十二士かそれ以上の実力を備えている。

 数は……五十人というところか。彼らは俺たちの姿を捉えると、示し合わせたかのように行進を止めた。


「何者だっ!」


 先頭にいた女の戦士が問い掛けてきた。

 俺はポチと顔を見合わせ、この問い掛けから相手に敵意がない事を理解した。


「私はベイラネーアの冒険者です。この付近にいるケルベロスワームの討伐に参りました!」


 女の戦士は俺の返答を聞き、くるりと後ろを振り返った。どうやら騎乗している老人に対応を伺っているようだ。

 騎乗こそしているものの、片足は(あぶみ)を外していつでも跳べる状態にしている。鋭い眼光に白銀の髪。老齢を感じさせない鍛えこまれた肉体…………どこかあいつに……似ている?


「マスターマスター、あの人ブレイザーさんに似ていませんか?」

「あぁ、もしかしてこの連中が…………《白銀》?」

「いかにも」


 俺の言葉に反応した老人は、老人とは思えない若々しい声で言った。十メートルは離れているのによく通る声だな。

 という事はこの老人がアージェント。ブレイザーの祖父にして六勇士に並ぶ一団《白銀》を率いる強者。

 見れば、アージェントの周囲を警護する主要の人間たちは皆ランクS相当の強さを持っている。

 相当な速さだとブレイザーが言っていたが、どの程度なんだろう?


「な                             るほど」

「うおっ!? っと!」


 何て速度だ。瞬時に正面まで移動してきやがった。身体強化していなかったら反応出来ないところだったぞ。

 後方まで跳び退いた俺は杖を正面に出して構えをとった。

 どうやらポチも目で追えていたみたいだな。流石メルキィ仕込みなだけはある。

 前方の白銀の集団から感嘆の声があがる。ちょっとしたテストだったのだろうか? 冒険者間ではたまにこういったやり取りがあると聞いたりした事はあったが、まさか相手があのアージェントだとは思わなかった。


「ほぉ、この速度に反応出来る者か。ベイラネーアの若者も育っているという事だな。いや失礼した。私はアージェントという。どうやらブレイザーを知っているみたいだが、あいつは今ベイラネーアにいるのかね?」

「え、えぇ……まぁ」

「そうか」


 少し顔を綻ばせたアージェントはまたも俊敏に動き、いつの間にか騎乗していた。


「若者よ、名は?」

「ポチです!」


 確かにお前の方が若いけど、今のは違うだろ?


「アズリーと申します」

「アズリー君、ポチ君、またどこかで会うだろう。ではな!」


 そう叫ぶと、女の戦士が歩を進め始め、後ろの連中がその後に続き、俺たちの前を横切って行った。

 嵐のように去って行ったが、彼らは一体?

 東から来たという事は、トウエッドの方か? もしくは南東にそれて《渇きの砂漠》の方から? あっちからイベリアルタウンまで行く事は可能だが、かなり回り道になるしトウエッドの方からのが濃厚か。そして向かった方角はベイラネーアがある北ではなく西。あっちには丘陵地帯と《深罪の森》がある。その奥には確か《ビアンキの街》があると言うが、あそこもレガリア方面から迂回するのが普通だ。いや、まぁあの集団なら危険地帯もなんの事はないか。

 そう考えると集団行動の理はあるか。

 白銀……国からの直接依頼も多いという最大級のチーム。何より自由思想な活動からチーム入りを憧れる冒険者も数多いと聞く。

 初めて目にしたが、あのチームは魔王討伐の際、相当な戦力になるかもしれないな。

 俺たちは白銀の連中が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送った。


「強烈な方でしたねー」

「あぁ、本気で来られてたら危なったな」

「やっぱり、上には上がいるもんですよねー……」

「神が決めた壁を越えなくちゃ、魔王には届かない……か」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 白銀のアージェントのせいでケルベロスワームが霞み、難なく討伐を終えた俺たちは、空間転移魔法を使って自室へと戻った。

 まだ時刻も昼過ぎ、もう一仕事と考えていた俺は、再び冒険者ギルドへ向かった。

 ダンカンからランクBの仕事を三つ受諾し、再び自室へと戻る。トゥースの下で鍛えた俺たちにとってはランクBの依頼は最早高難度ではなく、簡単な仕事だ。早々に片付ける事が出来るため、俺たちは毎日三回の依頼受諾、つまり計九つのモンスター討伐をこなしていた。

 中には稀に届くランクAの仕事もあったが、回数に左右される事もなく、九つの依頼をこなし続けた。


 ―― 戦魔暦九十四年 三月二十一日 冒険者ギルド ―― 


「タフな男って素敵~。プレゼントよ、アズリーちゃん♪」


 俺は一枚の紙をダンカンから手渡された。

 俺とポチは見合ってその中身に何が書かれているのかを察し、顔を緩めた。


「ようやくですね! マスター!」

「あぁ!」


 周りの冒険者たちも察したようで、俺の後ろには、開く紙の中を見ようとわらわらと野次馬が集まって来ていた。

 多少背中や肩が重かったが、俺はそれを開き、確かに書いてあった「ランクS昇格審査」の文字に「よしっ」と呟いた。

 日時は今月の二十五日、王都レガリアで行うそうだ。ん? ……って事は――


「四日でレガリアに行けって事かっ?」

「そういう事っ♪ 既に審査は始まってるって事よ~。外にいる人と一緒に向かって頂戴っ♪」


 バチコンとウインクしたダンカンが外を指さす。

 俺とポチは顔を見合って、背中を押してくれた冒険者たちにしばしの別れを済ませ、外へ出た。

 冒険者ギルドの前に立っていたのは…………なんとベティー。


「ベティー!? まさかベティーもっ?」

「そういう事っ」

「マスター! これは心強い味方ですねっ!」

「あぁ、そうだな!」

「さ、時間もない事だし、さっさとレガリアへ向かうわよ。熟練の冒険者でさえ、本来なら一週間は掛ける道なんだからね」


 本当に驚いた。まさかベティーと一緒にレガリアへ向かう事になるとはな。

 王都レガリアへは、限られた人間であれば空間転移魔法陣が使えるそうだが、俺はネームバリューのある魔法大学を退学になった身だし、これを使う事は出来ない。

 だから俺たちは早々に支度を済ませ、ベイラネーアの北門へと集合した。

 足を中心に身体をほぐすベティー。走る準備は万端ってところか。


「ほいのほい! オールアップ・カウント3&リモートコントロール!」

「やっぱりこれいいわねぇ」

「ベティー、なんだったらポチに乗るか?」

「何言ってるのよ。主人であるアズリーが乗るのはわかるけど、私が乗るのはお門違いよ。それに、この身体強化魔法? これがあればポチの速度にだって負けないわよっ」


 ダンカンとは違い、パチンとウインクを送ってきたベティーは、最後に伸び(、、)をすると、向かう先、北を見据えた。

 俺も巨大化したポチに乗り、土を掘って足場を作るポチと共に北を見据えた。


「行くよ!」

「おう!」

「アウッ!」


 駆け始めると同時に、ポチとベティーの強烈な踏み込みは、一瞬にして風を切った。

 ポチの初速に平然と付いて来たベティー。凄いな、銀で一番身が軽いのは知っていたが、ここまでとは。

 俺は感嘆の息を漏らし、ポチはその息を耳で拾って少し笑った。

「少しは見直した?」、そんなベティーの言葉に、俺は苦笑する事しか出来なかった。

 皆…………皆成長している。俺も負けてられない。

 そう思った時、俺はポチの背中で立ち上がり、その背を蹴った。

 騎乗する事をやめた俺は、着地と同時にそのまま走り始め、今度は俺の速度に驚いたベティーが息を漏らした。


「マスター疲れるでしょう!? 乗ってもいいんですよ!?」

「そうよ。無駄に張り切っちゃってー♪」

「気持ち悪い声出すなベティー! なんだったらポチ、背負ってやろうかっ?」

「ふふふふ、男の子ね」


 三人で並走し、俺たちは風を置き去った。

 目指す王都レガリアまでの道は長い。ランクSの昇格審査とは一体どんな事をするのか?

 時間もそこまでないだろうから情報の収集は難しそうだし、メルキィにも会えるかわからない。

 だが、どんな事が待っているにしても、俺が今以上に強くなるためにはランクSの称号は絶対に欲しい。

 待ってやがれ、王都レガリア!

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