078 賢者の石?
やはりそうだ。完全にこれは設置型の空間転移魔法陣。
一体何故こんなところに? 祠の綻び具合から数千年の時は経ている事がわかる。
俺が生まれる前、もしくはその頃に描かれた魔法陣だろう。
そんな昔に既に空間転移魔法が? 馬鹿な、あり得ない!
トゥースでさえ認知していなかった空間転移魔法がそんな昔に?
いや、しかし聖戦士が作ったとすればそれはあり得るのか?
そんな事を考えていると、空間転移魔法陣が発光して起動を知らせた。
「……なるほど、解錠に成功した時魔力を吸って、その魔力をもって起動する公式が埋め込んであるのか」
俺はしゃがみ込んで周囲の魔法式を読んでいると、どこか変な感じ……何か頭に引っかかるような意識にとらわれた。
何が? いや、今そんな事を考えていても始まらないだろう。
ならばこそ……、
「行くしかないか……」
俺は立ち上がり、空間転移魔法陣の上に乗った。
この先に何があるのか。この先に何が待ち受けているのか。俺は少し震えながら自分の消えていく手を見つめていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
転移し、辿り着いたのは異様な空間だった。
まるで迷宮の一室。
足下の空間転移魔法陣以外、正面に光り輝く氷柱しか存在していなかった。
どうやってこんな部屋を? 出入り口がない場所で魔法陣を描いた? いや、埋めたのか?
周りを見回しても長方形の細長い一室。
「うーん、黙って見ていても仕方ないか……」
罠などに注意しながら俺はゆっくりと足を進めた。
不思議な事にそういった類のものはなく、肩透かしをくらったような顔で、俺は発光する氷柱の前に立った。
「これは……人間か。ん? この耳は……エルフっ?」
氷柱の中に入っていたのは若いエルフの女だった。
軽装ながら強力な防具を纏っている。この独特の色合い……まだら模様の赤み……。
「ドリニウム鋼か。という事はこの氷柱の中にいるエルフは……聖戦士!? くっ、ストアルーム!」
俺は過去読んだおとぎ話のような伝説が綴られた文献を取り出した。
確か三千年程前に研究をしたはずだ! それはつまり、聖戦士の特徴をまとめた文献。
「あった! 《聖戦士に関するまとめ》。《勇者ジョルノ》、人間の男。正義感溢れる勇士。魔王に止めを刺した男として知られ、聖戦士のリーダー。優男な好青年。地方に伝わる民話によれば、かなりモテモテだったらしい。弾けてしまえばいい。くそ、こんないらない事書いてたのか俺は! 続きだ続き! えっと、《魔法士ポーア》、人間の男。無数の魔法や魔術を使いこなす。『千の魔を知る者』と恐れられ、体術にも明るかったという。最後、《戦士リーリア》、女エルフ。線は細いがその身体に宿る力は、大地を割り空を裂いたと言われている。民謡から抜粋したが『風に靡く白緑の髪』という歌詞から薄い緑髪だったと推察出来る……これだ」
確かに氷柱の中にいる女のエルフは薄い緑髪だ。
つまりこのエルフが……、
「戦士リーリア……」
俺は、全身に渡る得も知れぬ寒気に身震いをした。
しかし、聖戦士の遺体が何故こんなところに?
その後の文献を追ってみたが、ポチの足跡が多くて何が書いてあるのかわからなかった。
あいつめ、勝手に資料を踏み荒らしやがって……!
いや、考えてもそんなすぐにわかるはずもないか。
とりあえず封印を解錠してしまっては、ここにこれを置いておくのは危険だ。
そう思って俺は氷柱を担ごうと表面にを触れた。……あれ、冷たくない?
この材質は確かに氷なんだが、温度を感じないとはどういう事だ?
もしかしてこの氷柱自体も特別なアーティファクトなのかもしれないな。
似たようなのだと「溶けない氷」という物があるが、それは特殊モンスターの胃の中から採取される物だし、これはそういった物ではないようだ。
と考えながらも氷柱を担ぎ、ストアルームの中に入れた。
外に出て再びツァルと合流した。
俺の顔を見て、ツァルは何かを得心した様子で隣を歩き始めた。
「「目的の物は手に入れたようだな」」
「目的の物かどうかはわかりませんが、得るものは得たというところでしょうか」
俺はポチやリナ、そしてララの待つ中央区に向かって歩いていたが、あえてその速度を緩めた。
ツァルも俺の意図を察したようで、俺の速度に合わせて身体を地に這わせた。
「どうして、あそこまで魔術や黒魔術に関して詳しいのですか?」
当然の疑問。ツァルが「その話は後だ」と言っていた話。
ツァルは答えを用意していたかのようにゆっくりと話し始めた。
「「……何、過去知りえたものだ。隠すことでもない。そう、簡単な話だ。私もポチ殿のように、アズリー殿みたいな魔法士と長い間道を歩んできた、それだけさ」」
「俺みたいな?」
俺の問いにツァルは黙った。もしかして俺の秘密を知っているのか?
いや、どうやら過去を振り返っているようだ。ツァルの遠い目に確かにそういった光が見える。
「「……アズリー殿のように優秀な魔法士の事さ。彼は巧みに魔法を操り、魔術を会得した。私も少なからずそういったものを学び、そして互いに高めていった」」
「そういった過去が…………」
「「だからこそアズリー殿がガストンと知り合いだと知った時は驚いたものだ」」
ん? どういう事だ? もしかしてガストンの事を知っているのか?
確かに国の中で、公な情報として魔術を使えるのはガストンと戦魔帝ヴァースのみだが、もしかして――
「「私の元主、前戦魔帝サガンは、ガストンだけに魔術を教えていたからな。ん、どうしたのだねアズリー殿? 転んだりして?」」
平坦な道でも転ぶ事があるのだと、賢者のすゝめに記載しておこうと思う。
「あ、えっと失礼しました。てか。前戦魔帝の使い魔だったんですかっ!?」
「「そう言ったつもりだがね?」」
「そ、それが何で農耕で生計を立ててたんですかっ!」
「「死期を悟ったサガンが私を契約解除したのだ。使い魔と主は一蓮托生。主の死と同時に使い魔は死んでしまうからな。私を死なせたくなかったサガンがその行動に出たのだ」」
「……ララとは一体どこで?」
「「拾った。ベイラネーアとレガリアの間にレジアータという地があるのを知っているかね?」」
俺は黙って頷いた。先日、そこで一泊してからベイラネーアに来たからだ。
「「その南部で捨てられていたのがララだ」」
「そう、でしたか……」
様々な事が起き、頭がこんがらがりそうな状態で俺は中央区に着いた。
そこに戻った頃にはリナは既に顔が明るくなっていた。
ポチのヤツ、あんな励まし方で一体どうやってリナを回復させたんだ?
どう考えても…………って、そうか、ポチが歩み寄る事をしたからリナから動いたのかもしれないな。
いや、絶対そうだ。そうとしか考えられない。
「待ってましたよマスター! さ、ワンランク上の食事とやらに行きましょうよ!」
「おぉ、そうだった! ララ、美味い飯でも食いに行こうぜ! 何が食べたい?」
「きぃいいっ! マスター! それは私に掛ける言葉のはずですよ!」
「アズリーアズリー! 私は新鮮な野菜が食べたいぞ!」
「よし、野菜だな! リナも一緒に行くだろ? ツァルさんも行きましょう!」
「マスターの馬鹿ぁあああああああああっ! もう知らないですーっ!」
「ポチ、さっさと来ないと置いていくぞ!」
「……むぅうううっ! 野菜より肉ですよ! サイドメニューが豊富なお店にしてくださいねっ! あ、言っておきますけど私、マスターの事許した訳じゃありませんからね! でもでも、今晩のデザートに別のお店に連れてってくれるというのであれば許してあげる確率があがりますよ! どうですマスター!? あ、何笑ってるんですか! そのだらしないニヤケ顔、最悪ですよ! ねぇマスター! デザートはどうするんですか! ちょっとマスター! 聞いてるんですかっ!?」
…………さて、デザートは何にしようかな。
発売初週なので、しばらくCM載せさせてくださいm(__)m
「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第二巻。
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是非宜しくお願い致します!




