076 続・バラードの乱
あー、むず痒い!
あいつめ、いじりのレパートリーを増やしているとは思わなかった!
正に緊張! という感じの雰囲気がぶち壊しじゃないか!
おのれ、誰だ? あいつにあんな悪戯心を植え付けたヤツは? あ、俺だ。
「アズリーさん? ……い、いいですか?」
そんな中、リナは顔を覗き込むように聞いてきた。
ポチは既に臨戦態勢を整えているようだ。あんにゃろ、人の気も知らないで……!
「さ、今回は最初からバラードを出しちゃっていいですよ! この成長したポチさんがイイトコを見せるチャンスですからね!」
ふふんと胸を張ったポチだったが、どうやらリナは最初からそのつもりだったようだ。
そういえば二年経ってからバラードは初めて見るな。
さぞや大きく育ったのだろう。
ライアンはともかく……リードやマナやアドルフは、ビックリし過ぎて気絶なんかしないだろうか?
「ほいのほい、ハウス!」
宙図の速度がかなり向上している。
教えた通り、戦闘以外での鍛錬も怠っていないようだな。
魔法陣から出現した光。
その中から現れたのは、二年前、親善試合の予選でオルネルを苦しませた四翼の竜バラッドドラゴン。
……おや? 大きさはそれ程変わっていないように見えるが、これは?
「……ふぅ、やはりあの中はきついでしゅな、リナ」
声は野太くなってらっしゃるが、あの口調は大して直ってないみたいだな。
あの親善試合から成長していても……二割増しというところか? 本来であれば既に成体になっていてもおかしくないはずだ。
「素晴らしい。これは四翼の竜……バラッドドラゴン」
「「バラッド……ドラゴン……」」
ライアンがバラードを見上げ感嘆の息を漏らす。
案の定リードたちはあんぐりと口を開けて驚いている。そりゃそうか。
いや、アドルフに至っては子供のように無邪気な笑顔を見せている。
ドラゴンか……。
確かに子供心をくすぐる神秘的な存在だ。あんな顔になっても不思議じゃないか。
「バラード、こちらは私のお兄ちゃんとお姉ちゃん。それにライアン様にアドルフです」
「ふむ、リナの使い魔のバラードでしゅ。どうぞよろしくお願いしましゅ」
ふむ、どうやらあの口調、語尾だけにはなったみたいだな。
語尾を直さなかったのはリナの趣味か? それとも直せなかったのか? うーん、謎だ。
首を畳んでお辞儀するバラードに、ライアンが礼を返す。流石だな。
続き、リードたちは落ち着かない様子で返礼すると、バラードは残る俺たちに目を向けた。
俺を見て一瞬首を傾げ、ポチの姿を見るや否や、目を丸くさせて驚いた。
「ア、アズリー様、それにポチさん……でしゅか?」
「お久しぶりですね、バラード!」
「おう、久しぶりだな」
俺たちは軽めの挨拶、しかしバラードはそんな様子ではなかったようだ。
目に涙を浮かべ、今にも駆け寄って来そうな雰囲気だ。
いや、駆け寄って……来たっ!? 速い、これは……素のメルキィクラスッ!?
「がっ! ちょ、ちょぉおおおおおおっ! おい、バラード! は、離せってば!」
「ハハハハ、離しましぇんよ! どれだけ会いたかったと思ってるでしゅかっ!」
ぐ…………死、死ぬ……!
「マスタァアアアアアアアアアッ! …………次、代わってくださいね!」
「ちょ、ポチ! 助けろって!」
俺はバラードに抱かれ、賢者のすゝめの結末を綴る文章を考えていた。
人間は死ぬときに走馬燈を見ると聞いた事があるが、俺の目の前は無邪気に笑う死翼の竜しか見えない。
涙で前が見えない。代わってくれと言っていたポチの顔も、既に代わらなくていいという顔に変わっている。
髭剃りが出来そうな程、口から泡が出てきている。いや、これは出来る!
そう思った時、バラードの後方から「や、やめなさいバラード!」という天使の声が聞こえた。
あぁ、迎えが来た…………。
空を仰ぎ、爽やかな風が俺を包む。世界は……とても青い。
バラードアームから解放された俺は地に膝を突き、果てしない大空を見る。
……やっぱり涙で前が見えない。
「――こひゅっ! カッ! ぜはっ! はぁはぁ……はぁはぁはぁはぁっ! あ゛ぁあああ……死ぬかと思った!」
駆け寄るリナの顔は既に蒼白、俺の顔もきっと蒼白。
生きていた事に喜びを感じ過ぎているのか、ポチは瀕死な俺に跳び掛かり止めを刺した。
「た、大変ですっ! マスターがっ……いつも以上に変な顔です!」
起きたら、くすぐりの刑に処そう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めると、空はまだ青かったがやや日が傾きかけていた。
俺の後頭部にあるのはおそらくポチの背中だろう。
相変わらず気持ちのいいポチ枕だ。これだけでもポチの罪は許してやりたい。
「って、んな訳あるかっ! このこのこのこのこのーっ!」
「わひゃ、アハハハ! ちょ、マスター! 何するんですかーっ! アハハハハハッ!」
心配そうに近くで見守っていたであろうリナは、ホッと一息付いている。
隣でバラードが器用に正座しているのは、おそらくリナに怒られたからだろう。
ライアンやリードたちも安堵の息を漏らしている。
くそ、心配させてしまったみたいだな。俺は気を取り直して自分の頬を軽く叩いた。
「おし、リナ悪かったな! それじゃいっちょやるか!」
「はいっ!」
俺たちは立ち上がり、互いに向き合って構えをとった。
リナは相変わらずスターロッドを使っているのか。そういえば俺も杖を新調しなくちゃな。
微かに笑みを浮かべたリナは杖を掲げ、バラードは腰を落とした。
これは……胸を貸すってのは難しそうだな。
「ファイア!」
速い!? これは……俺が前に使ってた特殊式を埋め込んだスウィフトマジックッ!
同時にバラードがファイアの後方から駆けて来る。くっ!
ポチの巨大化、そして俺の――!
「ほほい、オールアップ・カウント2&リモートコントロール!」
「アウッ!」
ポチが前方を走るファイアを横から押し込み、俺の前にはバラードのみとなった。
やはり速いが、オールアップで向上した身体ならばどうって事はない!
瞬時に二年前同様にバラードの股下をくぐると、その後方ではリナが次の魔法を放っていた。
「タイトルアップ!」
これはスウィフトマジック?
という事はこのタイトルアップも向上率が上がっているとみて間違いないな。
リナ自身に掛けたこの補助魔法、どれほどの向上率か試してみるか。
俺はリナに跳びかかろうとした……が、後方から「させましぇん!」という声が聞こえた。
ブレスか? いや、俺の前方にはリナがいる。かわされる事を想定するならば違う攻撃だ。
「――なっ! か、身体がっ!?」
動かない!? こ、これはバラードの空間干渉!
こんな短時間で出せるものなのか! くそ、本当に動けないっ!
「な、中々力がありましゅねっ! もう少し強ければ止められませんでしゅた!」
「マスターを、解放しなさいっ! ガァッ!」
ポチがバラードに体当たりを決める。すると俺の身体に自由が戻ってきた。
そうか、ノーモーションで発動出来るだけに、魔法に似て制約が厳しいのか!
しかしリナが既に次のスウィフトマジックでファイアを発動してる。
「くっ! ほほい、ヘビーチェインッ!」
ファイアをかわしながら人体拘束魔法を放つ。
「――のほい! バースト!」
「なっ! 弾いたっ!?」
なるほど、片手での宙図か! 左手でバーストの魔法を宙図し、俺の反撃に備えた。
そして魔力を込めた杖であれば俺のヘビーチェインも弾く事が出来る。
「凄いなリナ、さすが学生自治会長!」
「タイトルアップ!」
にこやかな反応は返してくれたが、抜け目なくバラードへの補助魔法を放っている。
まったく、才能溢れる生徒だこと。
後方ではバラードとポチが対等にやり合っているみたいだな。
動物であるポチが、ランクAモンスターであるバラッドドラゴンとやり合えるのは、レベルの差とオールアップの魔法があってこそだろう。
バラードのレベルが百になった時、ポチとの間に種族の絶対的な壁が現れる。
にしてもリナのヤツ、どうして俺と戦いたいなんて?
「ようやく……アズリーさんの背中が見えた気がします…………」
ボソっと零したリナの声は、おそらく俺に聞こえるように言ったのではないのだろう。
が、聞こえてしまった。
…………そうか、リナもリナで俺を追っていてくれたのか。
だからこそ、この二年の時で得た知恵と経験と力の全てを持って、俺に挑み、そしてその距離を測ろうしたんだ。
だからこそ、俺はリナに背中を見せてはいけないような気がした。
……そうだ、これは胸を貸すのではなく、力を見せつける戦い。
「リナ」
「はい!」
「思い残す事はないな!?」
「ま、まだまだ負けませんっ!」
杖を片手にスウィフトマジックの発動と宙図を始めたリナ。
だが、その時俺は勝負を決するだけの力を発動していた。
「……『十の魔』発動!」
「ファイア! ほほい、スピードアップ!」
加速されたファイアが俺の正面に迫る。
「一つ、ファイアランス!」
迫るファイアを上空から突き刺す炎の槍。
「二つ、エアウォール!」
消しきれぬファイアを防ぐ空気の壁。
「三つ、ハイキュアー!」
後方で消耗するポチの回復。
「四つ、クロスウィンド!」
「あっ!」
リナの杖を弾き飛ばす牽制の風。
「五つ、パラサイトエディット! 六つ、リモートコントロール!」
リナが新たに描いている魔法陣への侵略宙図。
「七つ、ディスペル!」
リナが発動した攻撃魔法が、リナ自身に降りかかるディスペルに変わる。
ステータス向上魔法のキャンセル。これによりリナのタイトルアップの効果が無くなる。
「う、嘘っ!?」
「八つ、エネミートラップ! 九つ、グラビティストップ!」
「きゃっ!」
「ぐっ! な、なんのこれしきでしゅ!」
リナとバラードの上部から強烈な重力エネルギーが発動。
リナは戦闘不能。バラードの速度が激減。
「十、グラビティスタンプ!」
バラードの上部から更に過負荷の重力が襲う。
「ぐぎゅっ!? うご、動けないでしゅ!?」
同時にポチの鋭い爪がバラードの首元に置かれた。
「勝負ありっ!!」
止めたのはライアン。流石、よく見ているな。
途中から何が起こったのかわからない様子のリナだったが、ライアンの声を聞いてハッとしている。
無理もない、十の魔法がほぼ同時に襲ってくるなんて経験した事もないだろうからな。
「十の魔」、数百年前、俺が独自に考案した十の指で全て別の魔法を宙図する荒技。
分裂発動型の魔法を覚え、今ならばと試して出来た俺だけの超特殊魔法だ。
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