075 本当に……
あのライアンの宣言の後、俺たちはその場を離れる事にした。
具体的には、全ての町民をベイラネーアに移住。
本当に生きるのが困難な者に関しては、最低限の援助をし、それ以外の者たちは俺に頭を下げてベイラネーアの街に消えて行った。
ライアンを含めたフォール勇士団の面々は冒険者ギルドに登録に行き、他のフォールタウンの人間たちを助けるのだと言っていた。
ここの場所は皆に伝えているし、いざとなれば助けられると伝えているからおそらく大丈夫だろう。
相手は子供ではなく大人が多い。勿論中にはまだ幼い子もいるが、そういった子は預かるようにしている。
親がその間に職を探し、安定して生活をする地盤が固まり次第、街に溶け込んでいく。
本当に人間というのは面白く強い生き物だと思う……――
「――――っと」
「まーたそんな事書いちゃってー! マスター? そろそろ斜め上から人間を見るのはやめた方がいいですよ!」
「おま、何覗いてくれちゃってんだよ!」
「その賢者のすゝめ、ちょっと私に読ませてください!」
「駄目だよ! これはポチのお墓に供えるって決めてるんだから!」
「バ、バズダァ……そ、そんなにも私の事ぼぉ……!」
「あぁ、だから安心して逝ってくれ!」
「……ハッ! 大変です! 私寿命で死ねないんでした!」
「奇遇だな! 俺もだよ!」
「一緒ですね!」
「一緒だな!」
しゃがんだ俺とポチは、二人で笑いながら肩を抱き合っていた。
すると遠目で苦笑するリナの姿を捉え、その視線を追ったポチがリナの下へ走って行く。
尻尾を振るポチの後ろで、その光景を見守っていると、意を決した様子でリナが俺の部屋へと入って来た。
俺は首を傾げて様子を見ていると、リナは立ち止まって俺を見上げた。
ぬぅ、やはりこの上目遣いは卑怯だと思う。
「ど、どうしたんだリナ?」
平静だ、平静を保つんだ、賢者アズリー……!
「アズリーさん。その……」
もじもじと口ごもるリナに、俺は動揺しながらも「何だい?」と返した。
「その、もしお時間が空いてるなら私と一度……いえ、私ともう一度勝負をしてもらえませんか?」
それは、唐突な一言だった。
リナの口から発せられたのは二年越しのリベンジマッチ。
リナが何故このような事を言ったのか? 理由を考えてみても、俺には答えを出す事は出来なかった。
しかし、俺はリナの願いだけは出来るだけ叶えてやりたい。
そう思って、俺は未だフォールタウンにいるララとツァルに念話連絡を発動させた。
『もしもし? ララ、ツァルさん? 聞こえるかい?』
『問題ないぞ、アズリー殿』
『ばか驚いたぞアズリー! これはとんでもない魔法だなー!』
『ありがとうララ。ちょっとそちらに行くのが遅れてしまいそうなので、場所の候補だけ探しておいてもらって宜しいですか?』
『うむ、分かった。この土地、土の恵みが中々に豊富だ。本当に貰ってもよろしいのか?』
『街の皆が許しているので問題ないかと。……では、後程』
ララとツァルにはフォールタウンの整地をお願いすると共に、周辺の捜索をお願いした。
魔術が使えるツァルならば、俺との連絡も取りやすいし、いざとなれば逃げた先で空間転移魔法を発動すればいい。
魔法式の中に本人認識の変換コードを記していれば、ララとツァル以外は通って来れない仕様になるから問題ないだろう。
俺が念話連絡をしていると理解していたリナは、ほっと一息吐いた俺を見て、話の続きを促した。
「よし、場所はどうする?」
ぱぁっと明るい笑みを浮かべたリナは。了承を超えた俺の決断を喜んでくれた。
この二年、本当に綺麗になった。
いつか本で読んだ天使のような美しさだ。このリナがこれから先、どんな人間になるのか。こればかりは本当に楽しみでならない。
だからこそ、リナの未来は守ってやりたいと思うんだ。
「ありがとうございます! 最近よく野試合が行われる広場が、ベイラネーアの西にあります。そこで是非っ」
豊かになった胸を前に力強く拳を握るリナ。
この二年、本当に豊かになっ――――
「どこ見てるんです、かっ!」
「いっつっ!? ポチ、てめー何しやがるっ!!」
「噛みました!」
「知ってるよ! くそ、ご忠告ありがとうございました!」
「どういたしまして!」
この状況で流石に怒れはしない。
くそ、相変わらずしっかりとしたワン公だぜ……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ベイラネーア西にある丘陵地帯。
あそこはかつてオーガキングと戦った土地。
そこまでは行かない草原地帯に、確かにリナが言っていた大きな広場と言える場所が存在した。
ここは見晴らしが良いため、強いモンスターは現れないだろうし、遠目でベイラネーアも見えるから大して不安要素はない。
俺とポチとリナが三人その広場まで着くと、そこには先客がいた。
戦っているのは人間同士。とても、とても見慣れた面々だった。
剣を握るのはライアン。そしてその正面に立っているのはリード、マナ、アドルフだった。
「お、お兄ちゃん、お姉ちゃんっ!?」
リナの驚いた声に反応して、リードが手を挙げて挨拶する。
ライアンも一瞬ちらりと目をリナに移すが、視線をすぐに戻した。
流石歴戦の勇士という感じだな。野に出て更に光り始めているのかもしれない。
そういった意味ではアドルフも凄い。ライアンが目を切った事に反応して、すぐに動いた。
マナはどちらのタイプでもないが、アドルフが動いて出来た死角を利用して回りこんでいる。
勿論、その二人の動きを簡単にいなしてしまうのがライアンという男だ。
リードが後ろに続き、跳び上がって上段からライアンを狙うが、やはりというか何というか。ライアンは素手で剣を弾いた。
ありゃ下手するとブルーツに近い実力を持っているんじゃないか?
レベルは…………っと、
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ライアン
LV:78
HP:2097
MP:148
EXP:1234900
特殊:エアリアルダンサー・剛力・剛体・疾風・雷刃
称号:剛の者・長・剣豪・フォール勇士団・団長・ランクD
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やはり、あれからかなり肉体の錬度を上げているな。
冒険者としては浅いが銀の面子と左程変わりない経験をしているだろう。
レベルより経験だという冒険者の格言もある程だ。
言ってしまえば、経験さえあれば効率的なレベル上げなど造作もなかったりする。
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リード
LV:59
HP:1129
MP:88
EXP:320847
特殊:スマッシュスラッシュ・剛力・剛体
称号:剛の者・兄貴・剣豪・フォール勇士団・副団長・ランクD
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リードもフォールタウンの周辺でここまで上げたか。
これからベイラネーアで経験を積めば、それこそ冒険者の一翼を担う人間になるだろう。
出会った頃のベティーとほぼ変わらないレベルだしな。
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マナ
LV:50
HP:982
MP:124
EXP:219402
特殊:剛力・疾風・剛体・軽身
称号:姉貴・剣士・フォール勇士団・ランクD
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マナもかなり育っているな。
いや、俺が育ってると言うのもおかしな話だが、やはりそう見てしまっているんだろう。俺の悪い癖だな。
妹のリナと再会した時に一番ショックを受けていたのは、何を隠そうマナだろう。
戦士故、自分と相手の実力の比較が出来てしまう。まして相手が妹となるとダメージは大きい。
勿論、落ち込む性格ではなく、発奮の方向に意識をシフト出来たのはいい事だ。
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アドルフ
LV:36
HP:620
MP:78
EXP:88210
特殊:剛力・剛体・軽身
称号:剣士・フォール勇士団・ランクD
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成長過程とは言え、この数年でよくぞここまで仕上げたものだ。
それもこれも、おそらく街の再興に意識を向けられたライアンの指導によるものだろう。
俺が鑑定眼鏡の発動を終えた頃、複数手の攻防の後、ライアンが地面に剣を突き立てた。
「雷刃!」
「「ぐぁっ!」」
「きゃっ!」
へぇ、地中からの徹しか。
地中を走らせて足下にダメージを与えるのはよく聞くが、ここまで空間的ダメージを与える剣技は珍しいな。
名前から察するに、地磁気と魔力を利用した荒技ってところだな。
俺がそんな考察をしていると、戦闘を終えたライアンがようやく俺たちの方向へ向き直った。
そして、すぐに気付いたみたいだ。俺とリナが何をしようとしているのかを。
「これは楽しみですな」
「……それは何が楽しみなんでしょうね?」
苦笑を込めた俺の言葉にライアンはくすりと笑った。
「勿論、どちらもです」
「…………」
「マスター、マスター!」
こういう時ポチはろくな事を言わない。
俺は勉強する男、賢者となる男アズリーだ。今回はそんなヘマはしない。
華麗にスルーしてみせる……――と思ったが、ポチは予想外の行動に出た。
何と俺に耳打ちを求めたのだ。
「フー……」
くそ……くすぐったいっ!
本日、2016/1/15 【悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 2】の発売日となります。
是非、応援の程宜しくお願い致します。




