071 召喚
黒魔術。
魔術の中で禁術とされている文字通り暗黒の魔術だ。
元々、魔法は人間が作り出し、魔術は悪魔が作ったとされている。
詳細は定かではないが、トゥースはその可能性を高く示していた。何故ならそれは、ダークエルフが魔術を扱う人種だからだ。
ダークエルフは元々エルフと呼ばれていた。
俺も知らない事だったが、ダークエルフは褐色肌の人間だけではない。人間のようにそれは多様だ。
では何故、エルフがダークエルフと呼ばれるようになったのか?
エルフの一部、はみ出した者たちが「悪魔召喚の儀」を行った。何を対価としたのかは不明だが、その契約によって、エルフには魔術が与えられた。
これによりエルフは悪魔の知識を得た者たちとされ、以降ダークエルフと呼ばれるようになったんだ。
ダークエルフたちは魔術を得た事により、力を発揮した。
人間へ魔術を提供し、その地位を向上させ、国の一翼を担う存在となった。
勿論、その過程で様々な魔術を作り出した。だが、更なる力を求めた異端の者が、恐ろしい魔術を開発した。
それがツァルの言っていた「悪魔契約」の魔術。
「悪魔召喚の儀」では、何かしらの対価と引き換えに悪魔の知識を得る事が出来る。しかし、「悪魔契約」の魔術はそんな生半可なものではない。
文字通り、契約をした者は悪魔の力、そう、黒魔術を得る。
そして、死後は悪魔に魂を喰われ、天に召される事はないと言われている。
実際死んだらどうなるかわからないが、神がいるんだ。悪魔がいて不思議はない。
黒魔術は主にモンスターを操ると言われている。
モンスターは悪魔のなりそこない。神の地を侵略に来た尖兵と言ってもいい。
なるほど、黒魔術を用いてモンスターを召喚出来る。確かに操るともいうか。
「マスター、あの人、さっきからずっと睨んでますよ」
「途中までは笑ってくれてたんだが、残念だ」
「ぐう、う、う、う、う。そんな悠長な事をしていていいのか? ここへ援軍として向かっている女たちが死んでしまうぞ?」
そう言ったクリートに、俺は首をかしげた。援軍に向かってる女たち?
するとポチが耳をピンと立てて何かに気づいた。
「え、もしかしてレイナさんまだこちらに来てないんですか!?」
「え、だってさっきリードが東門にいるって言ってたぞ!?」
「え、ライアンさんがこちらに向かわせたって!」
「え、来てねーよ!」
「もう、馬鹿マスター!」
叫んだポチは、東門と北門を繋ぐ通路に向かうため、外壁を飛び降りた。
ぬぅ、また馬鹿が蓄積されてしまった。何故俺はこうも馬鹿と言われる機会が多いのだろうか?
「させると思ったか? 影領召喚!」
今度はポチに向かって影が伸びる。
雑魚ばかりとはいえ、無限とも思えるモンスターは流石にきつい!
影を利用しているならば……これだ!
「ほい、ライト!」
「ふん、光に当たらなければどうという事はない!」
「くそ、ほいのほいのほい、ライト・カウント10&リモートコントロール!」
うねうねと光を避けていた影道。
一つの光では防げなかったが、この数の光源魔法なら消滅せざるを得ないだろう!
「ちぃ! ……何だ、その魔法は?」
「教えてやんねーよ!」
「まぁいい、お前から死ね! ヘルスタンプ!」
嘘だろ!?
何で大魔法が宙図なしで発動するんだ!?
……いや、これはスウィフトマジック!?
くそ、やっぱり杖は必要なのか! 帰ったら新調しよう、そうしよう!
「ほほい、八角結界!」
結界が発動し、降ってくる大型の闇の槌を、青雷が迸る光で包み込む。
「ほぉ、大魔法を結界で封じる事が出来ると知っていたか。対魔法士との戦闘は手慣れているようだな」
「あぁ、賢者相手に毎日な! 剣閃集降!」
「盾頑防壁!」
ぬぅ、魔術の対応も流石だ。
聖戦士愛用の高難度魔術、盾頑防壁。
一定方向からの攻撃を無効化する魔術。一定箇所に集中する剣閃集降とは相性が悪すぎる。
……強いな。
「宙図の速度も六法士以上……貴様何者だ?」
「さっき言っただろ、教えないって!」
くそ、あれは未だに時間が掛かるが……出来るか?
「……ほいのほいのほいの――」
「情報量が多い宙図。怖いな。させる訳がないだろう! ヘルスタンプ!」
くそ、やっぱり無理か!
「ぐ、ほほい、八角結界!」
「ぐう、う、う、う、う。いつまで持つかな? ボルテックウィング!」
「ほほい、八角結界!」
「ぐう、う、う、う、う、う! 面白い!」
にゃろ、このスウィフトマジック、リキャストタイムがかなり早い。
あのやり方を知っているって事か。
だが、どうやってこの大魔法の包囲を崩す?
……隙だ、あいつの意表を突けるちょっとした隙があれば!
ツァルもララもまだモンスターの相手をしているし、リードでは無理だ。
ポチはレイナの下へ向かえたみたいだが……くそ!
「ヘルスタンプ&リモートコントロール!」
「っ!? ほほい、八角結界!」
「う、う、う。甘いな! スピードアップ!」
「なっ! うぁああああああっ!!」
巨大な闇の槌が俺の頭上から振り下ろされた。
それが耳を劈く大きな音を発して外壁を崩壊させる。
リモートコントロールを使ったのはこういう事か。結界に包まれる直前に速度を上げて俺の結界を避ける。
なんとも高度な魔法操作だね。
「いちちちち、あぁー、痛い!」
「う、う、う、う、う。生きていると……知っていた。だが、もう殺すぞ」
「やれるもんならやってみろ!」
「降魔ノ時……」
その時、俺の背中でぞくりと冷たい風が走った。
降魔ノ時……? 俺の知らない魔術。これはもしや……っ!?
悪魔降臨の――――っ!?
「「させるわけにはいかぬな!」」
叫ぶように後方からツァルの声が響く。
声は煉獄のブレスとなってクリートを包み込んだ。
そ、そうか。モンスターの掃除が終わったのか!
「くっ、マジックシールド!」
対魔障壁を張り難を逃れたクリートを横目に、俺はヘルスタンプで受けたダメージを回復させていた。
「「アズリー殿、今奴に降魔ノ時を発動されてはならぬ! 生きたければ最大限の力を出しなさい!」」
「はい!」
「「策は?」」
「十秒時間をください!」
「「……任せたまえ」」
よし、これなら!
俺は前方に出たツァルにオールアップの魔法を掛けると、後退して魔方陣の宙図に入った。
前衛がいてくれるのは非常にありがたい!
だが、ツァルの実力は奴に通じるのか? いや、今はツァルを信じるしかない!
「……ほいのほいのほいのほいの――」
「させん!」
「「ふん、私がさせぬよ! カァアアアアアッ!」」
「ちぃっ、スプリングリフレクト!」
ツァルのブレスがクリートの反射魔法で跳ね返されるが、ツァルはそのままブレスを吐き続けた。
うぉ、まじか。跳ね返った分のブレス以上のブレスで全てを包み込んだ! 何て威力だ……。
おっといけない。左手で念話連絡の魔術を――!
「ちっ……! 小癪な奴だ! アイシクルヘルファイア!!」
「「……竜族特化の大魔法か。アズリー殿同様、魔法式の宙図が異常な速度だな。無論、方法は違うようだが」」
ツァルはブレスを吐き続け。ギリギリまでアイシクルヘルファイアの弱体化を図った。
そして、直撃の寸前で、絶対零度の炎を強烈な尾撃で振り払った。
「ふん、少しはやるみたいだが、やはりダメージは免れなかったようだな」
「「ふっ、愚か者め。私は竜族であって竜族ではない。蛇神故大したダメージではない。それに、私の役目はもう終わりみたいだからな」」
「何っ!?」
瞬間、俺の魔法陣が完成し、淡く黄色い光を放って起動した。
「な、何だその魔法は…………いや、この公式はっ!?」
「「そう、空間転移魔法の公式だ」」
「出番だぞ! ブレイザー! ブルーツ! ベティー!」




