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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
プロローグ ~出立編~

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007 魔法大学へ

 東門に着くと、そこは巨大な塀と頑強そうな大扉があった。問題なく門として動作しているようで、門の開閉された跡がない。

 一体どういう事だ?


「アズリーさん、こっちに来てください!」

「ほいほーい」


 これは酷い。家屋の倒壊と外壁の崩落で主となる通りの通行が出来なくなっている。


「リナちゃん、この先には何があるかわかる?」

「この先には……確か北門に通じる道があったはずですね」

「って事は、東区も地下以外隔離されてしまった。不運にもここが塞がってその間にこの区画にいた魔物は閉じ込められ、共食いを始めてしまった……こういう事だろうな」

「でもマスター、アルファキマイラはともかく、ゴブリン等の賢い魔物であれば東門を開ける事が出来たんじゃないですか?」

「大きな通りにはアルファキマイラがいた。つまり、東門の前を奴が陣取ってたんだろう」


 推測の範疇を出ないが、間違ってないだろう。

 そして、追い詰められつつも偶然見つけた地下道を通ってゴブリン達は南区へ現れた訳だ。


「なるほど、それであれば筋が通りますね」

「流石ですアズリーさんっ!」

「褒めるな褒めるな、調子に乗っちゃうよ?」

「では褒めません」

「いや、そこ何でポチが言うんだよ!」

「さあ、戻りましょうか」


 にゃろう。

 しかし、流石に俺の扱いをわかってるな。調子に乗ると稀に暴走するからな俺は。


 俺達はモンスターのいない東区を後にし、地下道を通り南区まで戻った。

 教会跡地の出入り口ではライアンにリード、そしてマナが待っていた。俺が放ったダイナマイトが原因で集まったそうだ。

 事の経緯と、東区であれば町として使えると進言すると、ライアンはすぐに行動に移した。

 働ける女子供、勿論俺達も手伝い、念願だった東区への通り道を完成させた。早い段階から町の統治権を戻したいというライアンの狙いなのだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― それから、二年の月日が流れた ――


 何かと問題の多かったモンスター関係の事はかなり落ち着き、子供達も徐々に強くなって門番の編成なども出来るようになった。

 リードは町の兄貴分という感じで周りに慕われ、マナも先生として板につき、レイナもライアンをしっかり支えている。

 リナとティファはやはり優秀で、リナは回復魔法士、ティファは補助魔法士として急成長している。教える側の俺も多少成長した気がするが、やはりその速度は亀並だろう。

 そして今日俺は、大事な話があるというライアンの家まで来ていた。


「魔法学校へ入学ー? リナをですか?」

「ええ、魔法の稽古であればアズリー殿でも十分なのですが、あの子にはそれ以外の知識を吸収して欲しいのです。既にリードやマナの了解もとっており、リナも乗り気なようです」

「確かに広い世界を見させてあげたい気持ちはありますね。若い頃……いや、子供の頃からずっと戦ってきた訳ですから。でもどうして今になって?」


 ライアンが羊皮紙を巻いたものを二つ机の引き出しから出し、俺に手渡した。


「魔法大学への推薦状です。あの子が十五歳になり、ようやく大学の入学資格をクリアしました。それともう一つはアズリー殿の分です。使うか使わないかはお任せします」

「俺の分って……」

「今の魔法大学、戦士大学は町の長の推薦状がないと入学する事が出来ないのです」

「いやそれ答えになってないですよ」

「……申し訳ありません。その紙はただの口実なのです」


 口実ってどういう事だ?

 それに俺が魔法大学に行ったって……周りとの才能の違いに凹んで出てった俺だぞ?


「あなたを追い出す口実です」

「追い出す……あ、あの何か迷惑を――」


 ライアンが手を出し俺の言葉を遮る。


「勘違いしないで頂きたい。言葉が悪かったですな。私はあなたを送り出したいのです」

「それは一体……?」

「未だ南区と東区のみとはいえ、ようやく町としての機能が最低限ですが回復しました。東区には井戸もあり、間も無く用水路も完成します。もう我々は大丈夫なのです。なので、アズリー殿はここを離れても大丈夫なのです」

「しかし!」

「我々を甘く見ないで頂きたい」


 それはあの温厚なライアンから出る、力強く芯のある声だった。


「あなたには目的があるはずです。その目的と、その知識を世界に知らしめる義務があると思います。魔法大学と戦士大学のある《ベイラネーア》は、全ての物資と情報が集まる地でございます。なので、リナをそこへ連れて行ってもらえませんか? そして、そこで情報を集め、魔王の懐へ向かえばよろしいでしょう。都合が良いと言われるかもしれませんが、我々にリナをベイラネーアに送り届けられる戦力はありません。リナの願い、私達の願いを叶えてやってはくれませんか?」

「…………」

「正直に言いますと、私個人としてはあなたに残って頂きたい気持ちでいっぱいです。……しかし、それではいけないのです。人間とは大きな柱に寄り添うものです。ですが、それだけでは広い世界を生きてはいけないのです。私は、この町の人間にはそうあって欲しいのです。力強く、それでいて人間性に富んだ、そんな人間になって欲しいのです。勿論、アズリー殿にも……」


 重い、そして鋭い言葉が俺の心に突き刺さる。

 確かにライアンの言う通りだ。当初の目的は成った。しかし俺はここから離れなかった。

 居心地が良かった……勿論それもある。しかし、一番はまた同じ事を繰り返しそうだった、という事だろう。

 ライアンがそれに気付かせてくれた。気付かなければ、俺はまたポチに言われるまで同じ事を繰り返していただろう。


 ――つくづく愚か。


「……出発の予定は?」

「入学の時期が迫っております。早くて今夜、遅くとも明日に発つのが宜しいでしょう」

「随分急ですね」

「急なのはアズリー殿だけですよ、リナもポチ殿も既に準備が完了しております」


 ポチ(あんにゃろ)め、使い魔としての自覚はあるのか?


「ハハハハ、ポチ殿から教えられましてな?」

「へ、何をです?」

「『マスターには土壇場で言った方が効果的ですよ!』と、伺いました。どうやら成功したようですな」

「…………驚きましたね」

「ええ、私も驚きました」

「いえ、ライアンさん…………ポチの物真似うますぎ……」

「ハッハッハッハ、三十分程練習をしましたからな!」


 これがフォールタウンのカリスマか……二年も付き合いがあるのにまだわからないな。


 その夜、俺はポチと一緒に身の回りの整理をして、東門へ向かった。

 東門にはリードとマナ、そしてリナとティファがいた。


「おう、戦士……いや、魔法士の出立だな」

「あれリード? 大好きなリナがいなくなっちゃうのに泣いたりしないのか?」

「あー、それはもうやったのよ。ほら、ここに涙の痕があるでしょ?」

「あ、てめマナ! 言わないって約束だったじゃねぇか!」


 確かに涙の痕が見える。なんだかんだで妹を大事にしてるんだよな。


「先生ぇ、本当に行っちゃうの?」


 俺の裾を掴みながらティファがねだるように言ってくる。

 もうこの子も十二歳。リナと同じで優秀な生徒だ。


「ティファ、先生が住んでた家に宿題を置いてあります。後でよく見ておいてください。もし宿題が出来たなら、そこからは自分で研鑽して、自分で学びなさい。……いいですね?」

「うん……私、頑張るよ! リナお姉ちゃんに負けないくらい頑張る! それで十五歳になったら……魔法大学に行くの!」

「リナ、強力な妹弟子じゃねぇか?」


 腕を組みながらリードがリナをからかう。

 泣きそうなティファだったが、頑張って堪えているようだ。


「何言ってるの、ティファは私なんかより凄い魔法士になるわよ。ティファ、少しだけ先に行ってるからね?」

「すぐ追いつくからっ」

「にしてもリナ、立派なローブだな? そんなのあったのか?」

「これはライアンさんが持っていた上等な布から、レイナさんが作ってくれたんです」


 リナは漆黒のローブを纏っていた。その内側には退魔用に銀色の刺繍が施されている。

 身体のラインがよくわかるローブで、首元には白と銀が混ざった色のファーが付いており、それが背中のフードと繋がっている。

 一見派手だが、リナが着ると妙にしっくりと見えた。リナの容姿が最近どんどん大人びてきてるのが原因だろう。


「これを機にマスターも着替えれば良かったのにー」

「パンツは穿き替えたぞ?」

「見えない場所の身嗜みは確かに大切です。しかし、自分の悪い称号はそういう事だから無くならないといい加減気付くべきかと思いますよ」

「まったく、一々うるさいやつだ。ほれ、これで多少はマシに見えるだろ?」


 俺は眼鏡を掛け、真面目な表情をポチにアピールした。


「マスターに眼鏡が似合うのはわかってますが、それって……アレ(、、)じゃないんです?」


 ポチが小声で俺の耳に届ける。


「昨日完成してな。改良の成功から常時装着してても使えるようになった」

「……それ、私に言って怒られると思わなかったんです?」

「自動切り替え可能だぞ!」

「……つくづく愚か」


 あれ、急に言葉が安っぽくなったぞ?


「何こそこそ話してんだよ? そろそろ時間だ、しんみりした時間は嫌いなんだ。さっさと行きやがれ」

「たまには帰って来なさいよ」

「先生、リナ姉、頑張ってね!」


「「はい!」」


 俺、ポチ、リナはリード達に見送られて魔法大学を目指し始めた。

 俺達は、遠目になっても手を振り続けるティファに元気をもらいながら、東門が鈍い音を立てて閉じて行くのを背中で感じていた。

 あれだけ長く住んだダンジョンを去る時よりも、心に空いた穴は大きかった。何とも言いようのない不思議な感覚。

 これから沢山の事があるだろう。その中での俺の出発点はこのフォールタウンだと言えるのかもしれない。

これにて物語のプロローグ部分は終了です。

更新頑張りますので、応援の程、宜しくお願い致します。


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[一言] フォールタウンの面々死にそうだなあ...
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