◆059 ……アレ……
―― ベイラネーア北西 ――
王都へ向かう街道から少し西に外れ、均されていない荒れた道に十数体の白骨死体が落ちている。中には獣やモンスターに食い散らかされた真新しい物も見受けられ、リナたちはこの凄惨な現場を目の当たりにしていた。
真新しい死体からは腐臭がする。光源魔法で照らされる先から獣の唸り声が聞こえると、ブレイザーが一歩前へ出た。
気迫を帯びた表情で鞘から剣を一気に引き抜くと、まるで小枝を振るかのように前方へ一払いした。
瞬間、大きな風塵が起き、唸り声を上げていた獣たちが悲鳴を上げて逃げて行った。
「さっすがブレイザーさん! 伊達に六勇士の勧誘はきてないっすねー!」
「煽てなくてもいい、今は警戒を怠るなエッグ」
「へーい」
腰元の鞘を掴んで臨戦態勢になったエッグは、リナの正面に背中を置いた。
凛々しい顔つき、そしてより屈強な身体になった赤髪の男エッグは、背中で近くにいるリナの熱を感じとっているのか、臨戦態勢になりながらも鼻の下だけは伸ばしている。
「リナさん、あなたは俺がしっかりとお守りしますよ!」
「あ、ありがとうございます。ははは……」
「ったく、ドラガンっていう後ろ盾がなかったら絶対に連れて来ねーのによ」
「し、兄貴っ、聞こえるわよっ」
愚痴を零したブルーツにベティーが小声で注意すると、ブルーツは「へいへい」と気の抜けた返事をした。
しかし意識だけは周囲に気を張っており、左右に動く瞳と落とす腰がその警戒度を物語る。
「ブレイザー、どうだ?」
「ブルーツが気付けないなら私にも判別出来んな。エレメンタルリーパーが夜行性じゃなければもっと視界を拡げられたんだが……」
リナを中央とし、その前にエッグ、後ろにベティーが立つ。
一番前にブレイザーが立ち、反対側である一番後ろにはブルーツが立っている。ひとつの線で結ばれた簡単な陣形だが、側面からの攻撃にはベティーが対応出来るという二人の信頼があるからこそ出来る陣形なのかもしれない。
「エッグ、暴走するなよっ」
「はーい、わっかりましたー!」
呑気な返事にブルーツは顔をしかめるが、すぐに表情には先程以上の警戒が走った。
「ブレイザー」
「あぁ、前方五十……四十……多いな、情報と違うぞ」
「あぁ、十五匹はいやがる」
「前方三十と四センチ七ミリ……進行が減速。あちらさんも警戒し始めましたー」
「まったく、師匠に似て細かいわねっ」
「ほいのほい、マジックバリア!」
リナの発動した対魔障壁がブレイザーの正面に青い光を放って現れて、そして消えていった。
ブレイザーの前方には、ガス状の球体が淡い光を赤、黄緑、橙と周囲に照らしながら、ゆらゆら横に並んでいく。球体の中央には深紅の目玉が一つ、ギョロリと動いている。
「綺麗に整列しやがって……八、十、十二、合計十六匹か」
「まずいな……」
「こりゃまずい……」
ブレイザーとブルーツがそう呟くと、横一線に並んだエレメンタルリーパーが突如一斉に前進を始めた。
「俺の知る限りの最高速度! ブレイザーさんとの衝突まで四秒!」
横一線のモンスターが縦一線のリナたちに襲いかかる。
こうなってはブレイザーが相手出来る数は少ない。その分ベティーやエッグの負担が増えてしまう。
そう判断したブルーツは、一足飛びにリナたちを飛び越えブレイザーの横に着地した。
「右は任せろ!」
「あぁ、私は中央だ! ベティー、エッグ!」
左は任せるという指示を名前に込めたブレイザーは、言いながら既に剣を振り下ろしていた。
正面の黄緑色のエレメンタルリーパーは真っ二つに切断される。しかしすぐにくっ付いて再びブレイザーに襲いかかったのだ。
ブルーツの前でも同じ現象が起き、二人が数回同じエレメンタルリーパーを斬ると、ようやく再生行動を止めたのだった。
「くそ、だからガス系は嫌いなんだ!」
「随時複数のエレメンタルリーパーを斬るんだ! 再生行動中は動きが止まるぞ!」
「りょーかいしやしたー! だぁっ!」
「与えるダメージは一定だから攻撃回数の目処が立つのはありがたいけど、数が多いわよ!」
「ほいのほい、クロスウィンド! 左、障壁を攻撃している個体がいます! み、右にも!」
辛うじて対魔障壁で抑えていたエレメンタルリーパーは、見えない壁に体当たりし、そこに脆さを感じとったのか左右の数匹が体当たりを始めた。その大きな瞳にリナを捉えながら。
ブルーツ、ブレイザーが二匹、ベティーが一匹、エッグが一匹を倒した頃、対魔障壁にヒビが入る。まるで笑っているかのような目で最後の一突きをエレメンタルリーパーが放つ。瞬間、甲高い音を発して障壁が崩れると、ここぞとばかりにエレメンタルリーパーが四人の間を抜こうとする。
「だっ! くっ! とととと、うぁっ!?」
声を発したのはエッグ。エレメンタルリーパーに剣の面を押し切られて後方に倒れてしまったのだ。
誰もがリナを案じたが、目の前の敵に対応する事しか出来なかった。
「――のほい、四角結界!」
リナが放った魔術陣から光の杭が発生し、エッグの上を通り過ぎたエレメンタルリーパーを杭で結ばれる正方形の中央に包んだ。
青白い光がバチバチと音を放ちエレメンタルリーパーを固定すると、リナは再び対魔障壁の魔法陣を宙図しようとした。
瞬間、
「マジックバリア!」
「「なっ!?」」
正面に再度現れた障壁に三人が驚く。その原因にいち早く気付いたのは倒れていたエッグだった。起き上りながらリナの後方に現れたオルネルを視界の端に捉えたのだ。
「オルネルッ!」
エッグがそう叫ぶと、前方で戦う三人は振り向く事なく、口の端を上げて正面のエレメンタルリーパーに専念した。エッグが戦線に復帰する頃には、イデア、ミドルスの援護弾が届き始めた。
交互に対魔障壁の魔法を放つリナとオルネルにより、戦闘が安定し、一匹、また一匹と倒されるエレメンタルリーパーは徐々に数を減らしていった。
「次、大魔法いきますっ!」
「「応っ!」」
リナの合図に前線の四人が息を揃え返事をすると、頃合いを判断をしたブレイザーが大きく号令を掛ける。
「今、密集隊形!」
リナの正面まで四人が一気に後退し、しゃがみ込んでリナの視界を開けた。
目を見開いたリナが魔法陣から魔法を放つ。
「シャープウィンド・アスタリスク&リモートコントロール!」
幾重にも重なる風の刃が四人を追っていたエレメンタルリーパーたちを一掃する。
最後に残った四角結界内で悶えるエレメンタルリーパーも、ミドルスとイデアの魔法によって葬られた。
緊張がどっと解放されたのか、エッグが尻餅を突いて大きく息を漏らす。
「だぁ~、こらきつい……オルネルたちがいなかったら危なかったぜ~」
「仕方ねぇ、ギルドの情報の二倍以上の数だ。助かったぜオルネル」
ブルーツが振り向いて言った。それに続いてリナとベティー、ブレイザーが礼を言うと、エッグが軽い口調で礼を言った。
「ったく、相変わらず生意気な野郎だ」
「それはアタシたちも一緒だろう? いや、一緒だった、かね?」
「違ぇねぇな。はははははっ」
ミドルスとイデアが自分の過去を振り返りながら言った。それが癪に障ったのかエッグが小さく舌打ちすると、ブレイザーがごつんとエッグの頭を殴った。
「いってぇっ!? 何するんですかブレイザーさん!」
「言葉の重み、命の重みを感じとれエッグ。……それが出来なくばお前の先に未来はない!」
「い、いいんですかっ!? こんな事して師匠が黙ってないですよ!」
「面白い。繊細な虎殿がこんな小さき事で表に出てくるのであれば、是非ともお話しさせて頂こう」
静かにブレイザーがそう言うと、エッグが押し黙って俯いた。
そして自分が言った言葉の意味をようやく理解したのだ。軽率な一言で六勇士である師匠を、公の場に出してしまうところだったという事に。
その動向を見守っていたリナがぽんとエッグの肩を叩く。エッグが目の端でそれを見ると、リナは優しく、そして力強く微笑みながら言った。
「人間日々成長、毎日勉強ですよ、エッグさん。何がきっかけで成長出来るかわからないですからねっ」
「リ、リナさん……リナさーん! ――ぐぇっ!」
その優しさにリナの胸に飛び込もうとするエッグの首根っこを掴んだのは、オルネルとミドルスだった。
そしてイデアが正面に立ってリナを守った。
この一連の流れに苦笑するリナ。
この時、ベティーの顔に緊張の走った。その異変にリナは小首を傾げた。
「……妙に静かだな」
しんと張り詰める無音の時間。
いつの間にか辺りを覆うナニカに、ブルーツとブレイザーは再び腰の剣に手を添えていた。
ベティーがこの不気味な程の包囲網にいち早く気づいたのには理由があった。
知っていたのだ。この殺気を。
「兄貴……これはどこかで感じた事のある殺気ね?」
「あぁ、二年前……《帰らずの迷宮》で嫌って程感じた殺気だな」
「……笑う狐の……マウス……」
ブレイザーの一言で、リナが、オルネルが強張り、全員に補助魔法を掛け始めた。
リナはアズリーから、オルネルはリナから聞いていたのだ。
笑う狐のリーダーが生きている事を。そしてその戦力を。
「気付かれてる、使うぞ! ライト!」
「トーチ!」
ミドルス、イデアがそれぞれ別の光源魔法を放つと、辺りは強い光で包まれた。
ぼんやりと光が照らされた時、既に周囲は上半身半裸の男共に囲まれていた。その数二十六人。
最も奥にいる腕を組みながら立つ男は、以前銀の三人とアズリー、ポチが追い詰めた男、笑う狐のリーダー《マウス》だった。
「月夜に珍しい出会いだな銀獅子のブレイザー、そして銀狼のブルーツ。それに……おやおや、静かなる魔法士こと魔法大学の学生自治会長様までいるじゃないか?」
「自己紹介をした覚えはねーぞ、マウス!」
「ふん、ちょっとした有名税だとでも思ってくれ、ブルーツ。……そして、その徴収もさせてもらうぞ」
「へん、そりゃ重い税だわな」
「ハハハハ、貴様の軽口には敵わないな」
この時、ブレイザーとベティーは既に仲間の魔法士を囲うように動いていた。魔法士の時間稼ぎは戦士の仕事。これは古来からの決まりであり近代戦闘法の基本だった。だからこそエッグは三人に遅れながらも、中央から這い出るように外側へ出たのだ。
そこでブレイザーがぼそりと呟くようにエッグに声を掛ける。
「エッグ、後方の敵……何秒あれば突破出来る?」
ブレイザーは瞬時に敵の弱点となるべき戦力箇所を見極めてエッグに聞いた。
「……十二.五八秒あればなんとか」
「十秒だ」
「……りょーかい」
「俺たちで十秒稼ぐ、その間にリナたちを連れて逃げろ」
全滅必至の中、ブレイザーが叩き出した作戦は銀メンバーによる囮だった。一瞬でリナの顔が歪むが、そんな事を気にする余裕は、誰にもなかった。
そしてそれに気付かないリナでもなかった。状況は緊迫していてオルネルですら正面の敵から目を逸らさない事で精一杯だった。
ベティーの頬を伝う汗と、マウスと話すブルーツの声にいつもの余裕がない事は誰もが気付き、相手の戦力が自分たちを凌駕する事も理解出来た。
「作戦会議は終わったか、ブレイザー? 安心しろ、女は大事に可愛がってやるよ。新しい部下たちもそう望んでる」
いやらしい笑い声が周りから聞こえてくる。
中には舌舐めずりする音も聞こえ、ベティーは身震いする。
「はははは、やったなベティー。ようやく貰い手が出来たじゃねーかっ」
「クソ兄貴、この状況でそう言う? デリカシーもクソもないわね!」
「ふん、確かに貰い手はいなさそうだな」
「うるさいわ、よっ!」
ベティーがマウスの皮肉ぶりに反論するが、その瞬間に彼女は、マウスの横にいる三人に向かって三本の匕首を放った。
「くっ!」
「ガッ!」
「グハッ!?」
一人は攻撃を弾いたものの、二人を仕留めたベティーは、既にその身のこなしを利用して最も近い男に向かって斬り掛かっていた。
ベティーの合図を確かに受け取ったエッグは走りだし、オルネル、イデア、ミドルスがその後ろを追い、駆け出した。
が、
「――のほい、アースコントロール&リモートコントロール!」
リナだけは違った。オルネルたちと銀を含む自分のパーティを分ける巨大な土の壁を隆起させたのだ。
自らを殿としたこの動きにオルネルがブレーキを掛け振り返ろうとした。しかし、その後ろから走って来たミドルス、イデアに両の腕を持たれ、撤退を余儀なくされてしまった。
エッグは正面の敵の殺気を受け、その事態に気付いていなかった。もし気付いていたなら、彼もまたオルネル同様に足を止めていたのかもしれない。
リナはその事を頭に入れた絶妙なタイミングで、オルネルたちと自分たちを分けたのだ。
エッグが敵に斬り掛かると、既にそこには正面の敵とその両側から一人ずつ、計三人の敵が揃いつつあった。
エッグは自分の剣を受け切った相手の腹部に蹴りを放って距離をとり、二人の横に更に両側から集まりつつある二人を待つかのように腰を落とした。
「空圧衝……しゃっ!」
瞬間、横一線に凪いだ剣から一閃の光が見えた。
横に揃った四人の身体が見えない壁に押されるように倒れていった。
蹴り倒された男の後を追うように四人が倒れ、一列となった瞬間を見計らってエッグがその側面へと跳んだ。
そして横一列を真っ直ぐに駆けるように跳んだのだ。
「だっ、エアリアルダンサー!」
地面に放ったそれは、五人の男たちを絶命させるだけの力を有していた。横に跳んでいったエッグの後ろを横切るようにオルネルを抱えたミドルスとイデアが走り抜けると、着地したエッグがその後ろをを守るように最後尾へ付いた。
まずは囲いを脱出。そして各個撃破して機を見てブレイザーたちを救出。そんなプランが四人の頭にはあった。
しかし――、
「ガッ!?」
エッグの足に激痛が走り、そして正面に倒れるように転んだ。
不恰好ながらにすぐに体勢を整えると、すぐに自分の痛みの正体に気付いたのだ。右太腿を貫く矢に。
そしてそれは一本の矢だけではなかった。
「痛ぅっ!」
「ぬぁ!」
鋭い矢がミドルスの腕、イデアの足首を捉え、オルネルの頬を掠めたのだ。
そして初めにイデアが地に顔を付けた。額から滲み出る脂汗が、ダメージが足首からだけでない事を知らせる。
「くそ、毒か……よ! オルネル、リカバーをっ!」
「……リ、リカ……」
しかし、オルネルがスウィフトマジックを発動する事が出来なかった。
「にゃろ……神経……毒……か……」
体力のあるエッグが最後にその場に倒れると、四人の笑う狐のメンバーが集まって来た。
弓を背に剣を腰や背中から引き抜きながら、彼らは先程同様下衆びた笑いを見せていた。
イデアを蹴って仰向けにさせると、四人の笑いは高調し、隣に横たわるミドルスやオルネルの首に剣を当てた。
その時――……。
その少し前、リナがオルネルたちを逃がした後すぐに、ベティーは残る十四人(マウスを除く)の内の一人の喉を突き刺していた。数だけは減らそうと、ベティーは瞬時に最弱の人間を見極めていたのだ。
それと同時に、散開していたブレイザーとブルーツも、複数の敵を相手にし、オルネルたちが逃げるために奮闘する。
リナは後方を気に掛けながらもスウィフトマジックを使って、そして自らの足を使って三人の援護をしていた。
「くっ、こいつら強ぇぞ!」
「ばらつきはあるがベティーの匕首を弾く程の奴が混ざってる! しかし私たちをも抑えるとは……くっ!」
「後ろの方は雑魚だが、こっちはそれなりのヤツで固めている。なに、ちょっとしたコネってやつだ」
マウスの言葉が引っ掛かったリナだったが、周りの殺気がそれを遮断し、そして一瞬の油断を誘った。
ブルーツ、ブレイザー、ベティーに各四人の敵が当たっていたが、ベティーの実力を見切った一人が、三人で事足りると判断し、リナへと走ったのだ。
「きゃ!」
辛うじて杖で蹴りを受けたリナだったが、後方へ吹き飛ばされてしまった。
「「リナ!」」
吹き飛ばされた先……リナの視線の先にはマウスのブーツが見える。ニヤリと笑うマウスが、リナの杖を蹴り飛ばしてその胸倉を掴みそして持ち上げた。
「う……うぅ」
「ほぉ、やっぱりイイ女じゃねーか。飽きたら売っちまうか、ハハハハ! おらよっ!」
「ぐぅっ……!」
そう叫ぶと、マウスはリナの太腿に小型のダガーを刺した。一瞬で苦痛に歪むリナの表情に、マウスが大きく笑う。
「てめぇ、ぜってぇぶっ殺してやる!」
「待ちな兄貴、あいつは私がぶっ殺すわ!」
「外道め……!」
「ハハハハハハ! 前にすら出れない貴様らがいくら吠えようともどうという事はない! だがやっぱり少しうるさいな。そうだ、こうすればその口も少しは噤んでくれるかなっ!」
「「……っ!」」
マウスが手に持っていたダガーをリナの首元へと運ぶ。既にリナはダガーに塗られていた神経毒によってその表情は青ざめていた。
マウスの動きに息を呑んだ三人。そして一瞬で出来た隙を突かれ、ベティーがその場に叩き伏せられた。
リナを蹴り飛ばした男がブレイザーの背後に回り込み、不意を突いて背中を斬る。
「ぐっ!」
唯一残ったブルーツも、リナの喉元から流れる血を見て動きが鈍り、そして組み伏せられてしまった。
「ふん、最後は呆気なかったな。いや、こんなものなのかもな」
ベティーも叩き伏せられたと同時に神経毒を食らったのか、顔に脂汗が出始め、遂には取り押さえる人間さえも必要としなくなった。
ブルーツとブレイザーはなんとかこの窮地を脱しようと力んではいるが、やはり数には敵わず自分の鼻血で滲んだ地面を見る事しか出来ていない。
「後々の面倒になる。男は殺せ」
「「へい!」」
「……き…………た……」
「あぁん?」
リナの小さな言葉にマウスが太い首を傾げる。
命令を受けた部下も動きを止めその声に耳を傾けた。
「き、きこ……える……」
「あぁ? そうだな、そろそろあっちも終わってるだろうよ! ハハハハハハッ!」
マウスが笑う狐の勝利に高笑いすると、リナは俯きながらこう言った。
「ちが……う。き……こえる……」
弱々しくも力強い声に、マウスは一瞬怪訝な面持ちになったが、すぐに振り払って再度部下に「殺せ」と命じた。
――その時だった。
マウスの正面にあった土の巨壁が大きな音を立てて崩れ去り、砂のように風に流されていった。
土の壁の崩壊に全ての人間が目を奪われ、その動きを止めた。奥には倒れるオルネルたちと九人の笑う狐のメンバーたち。
この異様な事態に、リナだけ……リナだけが頬を撫でる風を感じる事が出来たのだ。
自分が魔法で作った崩壊した土壁とは反対側。一瞬で通り過ぎた一陣の風に。
「おい、通り過ぎちゃったぞ!」
「仕方ないでしょう! マスターだってカッコつけたかったでしょう!?」
「いや、それは否めないが、皆のピンチなんだからもう少しこう……アレだ!」
「どれですか!?」
マウスが背後から聞こえる声に振り返る。
ベティーが懐かしい声に微笑む。
ブレイザーとブルーツがピンチだというのに現れた二人の掛け合いに噴き出す。
そしてリナの目からは大粒の涙が流れていた。
「お前ら全員……アレだ!」
「そうです、アレですよ!」
更新が遅れて申し訳ございません。
もっともっと頑張ります!




