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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
プロローグ ~出立編~
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006 討伐作戦

 ―――― 戦魔歴八十九年 一月十八日 午前十時 ――――


 フォールタウンに来てから三ヶ月半が経った。

 運が良い事に、俺がこの町に来てから病死以外の死人は出ていない。いくら魔法でも病人は治せない。頭にある知識から簡単な薬は調合出来るが、病状が悪化している人間の治療が出来る程、俺は万能でもない。

 自分の無力を感じる時もあるが、風化しているかのような俺の感情は、他人の死に対して揺れ動く事はなかった。そう、対するのはいつも自分だった。自分の中にある後悔こそが残されている感情の中の一つと言えるのではないだろうか。

 この三ヶ月、主だった変化は特にないが、補修も進み、作物も採れ始めた事もあり、徐々に改善に向かっていると言えるだろう。


 そして先日、覚えの早いリナとティファに、四大元素を利用した初級魔法を全て教え終わった頃、事件は起きた。

 死者こそ出なかったものの、突如広場にゴブリンの群れが現れたのだ。

 群れと言っても十体に満たない数だ。丁度その頃、マナの戦士教室が広場で開かれていたのが幸いした。

 聞いた話によると、マナが冷静に対処して、子供達を落ち着かせ、実力のある子供を率いてゴブリンを討伐したのだ。しかし、このゴブリン達は一体どこから来たのか?


 ライアンの依頼を受けて調査をする事になった俺は、目撃情報から北東にある教会跡地にある地下室を発見した。そこには、俺が来る前は確認出来なかった、地下への穴が存在していた。

 穴の形状を確認すると、やはり東区へと通じているようだった。

 ライアンに報告し、穴を塞ぐ、という案も出たが、東区の現状を調べたい気持ちもあったので、俺とポチ、そしてリナが調査隊のメンバーとなり、教会跡地の地下へ潜る事になった。


「マスター、大丈夫ですよ」


 夜目の利くポチが先行して潜り、出入り口の安全を確認する。


「それじゃあリナ、ゆっくりと降りるんだよ」

「はい!」


 普段は教師と生徒、という立場だが、今回はパーティの仲間だ。壁を作らず接したいところだが、リナの緊張は何か別のもののように感じてしまう。


「ほいのほいのほい……トーチ!」

「あのー……リナ? その掛け声は真似しなくて良いんだよ?」

「そうです、そんな不細工な掛け声はマスター一人で十分です!」

「おま、不細工とはなんだ不細工とは!」

「言葉が過ぎました、そんな締まりのない掛け声はマスター一人で十分です! どうです!?」


 どうですじゃねーよ。

 言い直せばいいってもんじゃないのに……ぬぅ、こいつはいつか説教しなくちゃいかんな。


「ポチさん、私はこの掛け声が気に入ってます。なので、その……あまりアズリーさんを悪く言わないで?」


 なんて素晴らしい生徒だ。今度のテストでは花丸をあげよう。確定事項だ。

 ポチはあんぐりと口を開け、(かぶり)を振った後、リナの言葉を飲み込む為に必死に頑張っていた。これでリナの花丸にデコレーションが加わる事が決まった。


 俺達は、未だ納得のいかない表情のポチを先頭に、光源魔法(トーチ)で、辺りを照らしながら調査を開始した。

 この通り道には異臭やモンスターの臭いもしないとポチが言ったので、やや足早に進み出口を探した。

 やがて前方上に薄い光が差し込む、人一人が通れる程の穴を発見した。


「んー、リードさんだったら通れなかったな」

「あはは、お兄ちゃん体大きいですからね」

「ポチ、頼むわー」

「かしこまりました」


 道はここで終わり。モンスターが来たとするならばここからだろう。

 ポチが穴をよじ登り始め、一分もしないうちに戻って来た。


「早いな、どうだった?」

「おそらく民家跡と思われる場所に出ました。見たところ近くにモンスターの気配はありませんが、東区である事に間違いはありません。この先に行くのであれば多少の覚悟は必要でしょう」


 さてどうしたものか…………俺は首から下げている鑑定眼鏡を装着し、全員を視た。



 ――――――――――――――――――――

 リナ

 LV:23

 HP:219

 MP:191

 EXP:29711

 特殊:攻撃魔法《下》・補助魔法《下》・回復魔法《下》

 称号:妹・見習い剣士・見習い魔法士・生徒

 ――――――――――――――――――――

 ポチ

 LV:100

 HP:2700

 MP:567

 EXP:9999999

 特殊:ブレス《極》・エアクロウ・巨大化・疾風

 称号:愚者の使い魔・上級使い魔・極めし者・狼豪・番狼

 ――――――――――――――――――――

 アズリー

 LV:29

 HP:267

 MP:10993

 EXP:43579

 特殊:攻撃魔法《特》・補助魔法《中》・回復魔法《中》・精製《上》

 称号:愚者・偏りし者・仙人候補・魔法士・錬金術師・杖士・六法士(仮)・教師

 ――――――――――――――――――――


 ふむ、久しぶりに情報を見たが、色々と変わっている部分があるようだな。

 わかるものはわかるが、俺の『六法士(仮)』ってのは一体何だ? いや、意味はわかるが、これが適用されるとなると、なんらかのステータスアドバンテージがあるという事だろう。


「アズリーさん、いかがします?」

「とりあえず見るだけ見てみよう。最悪、ポチを盾にして逃げる!」

「いいえ、マスターを盾にすべきです!」

「ポチから盾という機能をとったら何が残るんだ!」

「毛皮です!」


 そらごもっともだな。


「そ、それじゃあ行きましょう……か?」

「リナは真面目だね〜、冗談で言ってるだけだから気にしなくても良いんだよ?」

「え、そうだったんですかっ?」

「マスター、これが優しさってやつですよ? いやー、マスターには出来ない事でしょうねー」


 俺は、癪に障る言い方をしてくるポチの頭を小突き、先へ進むように促した。

 先へ進んでいくとポチの言った通り、確かに民家跡と思われる場所へ出た。


「なぁポチ君」

「なんでしょうマスター?」

「あれはなんだね?」

「キマイラですね。色が深く牙も鋭いですから恐らく先日のキマイラの上位種、アルファキマイラでしょう」

「ランクAのモンスターじゃねぇか! ったく、お前の調査はいつもずぼらなんだよ!」

「はっはっは、なんたって愚者の使い魔ですから!」


 にゃろう、開き直ったな。


「ど、どうするん……ですか?」

「リナちゃん、大丈夫だよ。まだ見つかってない――」

「あ、見つかっちゃいました!」


 おい、俺の優しい言葉が台無しだよ!


「グルァアアアアッ!」

「品の無い叫び声ですね」

「あぁ、ポチにそっくりだ」

「まぁっ! マスターは、ハスキーボイスという言葉を知らないんですか!」

「こ、こっちに来ますよぉっ!? どうするんですかぁ!」


 俺は怯えるリナを抱き抱え、民家跡を離脱した。


「あ、地下に戻れば良かったのか!」

「ちょ、良案の後出しは愚者の極みですよ!」

「おいお前、そんな事を言うんじゃない! 俺のステータスが歪曲するじゃないか!」

「相手がそう思ってたら反映されますから関係ないですー!」

「あぁ……出入り口が埋まっちゃいました……」


 俺はリナを下ろし、瓦礫の陰に待機させた。

 しかし、あいつ以外は本当にモンスターの気配がない。


「ア、アズリーさん! こ、これっ!」


 リナの悲鳴に近い声が、その視線の先に俺の目を向けさせた。

 そこには、多様な部位が欠損した、モンスターの白骨と思われる骨が散乱していた。


「って事は……」

「あのキマイラが全部平らげちゃったって事じゃないですかっ?」

「あぁ、おそらくあのゴブリン達は逃げて来たんだ」

「モンスターが……モンスターを食べるなんて……」


 リナが自分を抱きしめるように怯える。確かに、そんな情報は昔確認出来なかった。

 外に逃げれば良かったんじゃないのか? 出来ない訳があった? 町の外周は南側からでは回れない造りになっているから確かめる事は出来なかった。

 考えられるとすれば、何らかの原因でモンスター達も閉じ込められていた……という事か。


「とにかくあいつを何とかしなくちゃどうしようもない。ポチ、食い止めつつ反撃!」

「あんなの、能力の下がった私一人じゃ無理ですよ! 殺す気ですか!」

「えーい、ほいのほいのほい! タイトルアップ!」


 補助魔法を使いポチの良称号の効果を増大させる。


「む、かなり軽くなりましたね。これなら……行きます!」

「行ってらっしゃーい」

「え、援護してくださいよっ? マスター!?」

「ちょっと時間かかる。いつも通り頼むわ!」


 不安そうな表情でポチが巨大化し、アルファキマイラに向かい走って行った。


「リナちゃん、補助魔法を!」

「ほいのほい! テンションアップ!」

「サンキュー!」

「あぁ、ポチさんが押されてます!」


 五芒星の各頂点に中級攻撃魔法の公式を埋め込む。火、水、土、風、雷……四大元素を超越して考案した俺のオリジナル魔法。


「ポチ、後退!」

「ガァアアアアッ!」

「今だ、エレメンタルプリズム!」


 虹色に輝く元素砲がアルファキマイラに向かい飛んでいく。と同時に、後方へ跳んだポチがエアクロウを放つ。

 四層の空気の刃がアルファキマイラに命中し、大きな岩や土煙を巻き上げた。


「グァアアアアッ!?」

「よっしゃああっ! ポチお疲れー」

「アイタタタタ……」


 ポチは首を噛まれたのか、いつも白い胸元が赤黒く染まっていた。


「よし、ポチ、ちんちん!」

「アウッ!」


 流石俺の仕込んだ芸だ。何かの文献で読んだパブロフの犬のような条件反射だ。


「ちょ、何させるんですか! セクハラとパワハラで訴えますよ!」

「いいからそのままで……リナちゃん、ここに回復魔法だ」

「はいっ……ほいのほい! ローキュアー!」


 俺はポチの首の毛を少しかき分け、傷の場所をリナに見せる。

 リナは回復魔法の初級中の初級、《ローキュアー》を発動させ、ポチの首元を回復させていく。

 因みに、リナは半日、俺は一月かけて覚えた魔法だ。リナは本当に優秀な魔法士になりそうだ。


「はい、出来ましたっ」


 満面の笑みで回復の成功を訴えかけてくるリナ。うーん……大人になりきらず、子供ともとれないところがまた可愛いな。


「グァアアアアアッ! グウッ……グルルルッ」

「うお、まだ生きてたのか!?」

「あ、MPないから巨大化出来ない!」


 あぁ、そういえばこいつMP少なかったな。


「ポチ、最新式の作戦だ! 作戦名、《MPが尽きてもこの身体!》だ!」

「マスター、あなた真面目に戦う事出来ないんですか!?」

「え、真面目ですけど?」

「あ、そうでしたか」

「あぅっ、来ちゃいますよぉっ!?」

「しゃあねぇ裏技だ……来たれ、ストアルーム!」


 魔法陣を地中に描き、いつもとは違う真黒な光が魔法陣を覆う。

 俺はその中に手を入れ、ある物を取り出した。


「ポチ、リナちゃんを連れてけ! くらえ、うぉおおおおおおダイナマァーイッ!」


 筒状に導火線が付いた《ダイナマイト》と呼ばれるアーティファクトを放り投げ、アルファキマイラにぶつかった瞬間、導火線に施してある魔法陣が起動される。

 瞬間、耳を(つんざ)くかのような轟音と共に、ダイナマイトが爆発した。

 そして――


 ベチャ、ベチュ、ベチョ!


 アルファキマイラの無残な肉片が俺の足元まで飛び散ってきた。


「ふっ、正義は勝つのだ! あれ、耳が聞こえない? あぁ、鼓膜が破れたのか……ほいのほい! ミドルキュアー!」

「な、なんですか、あのマスターの(いびき)以上に五月蠅い音は!? 私ビックリしすぎて鳥肌立っちゃいましたよ! 見て下さい、ほら!」


 いや、剛毛過ぎて見えねぇよ。


「あれは……一体……?」

「あれはアフロヘアーを研究してた時に出来た副産物だ。いやー、あの時期は俺も若かった!」

「見た事ない髪型の話ですね。私と会う前の情報でしたか」

「それにさっきの黒い魔法陣は……?」


 さすが優秀な生徒だ。しっかりと俺の行動を見ていたか。


「よし、それじゃあアルファキマイラの収集品を集めて、東門の様子を見に行こうか」

「あの、さっきの黒い魔――」

「リナちゃん、東門の様子を見に行こうね?」

「うぅううっ……アズリーさんずるいです」


 リナは小さな頬を膨らませて不満を表すが、俺の押しと自制の相乗効果でそれ以上の質問をしてこなかった。

 さすが優秀な生徒だ。

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