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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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047 新生活スタート

「当面は私とブルーツが協力して日銭を稼ぎます。勿論、互いに別の仕事を担う身です。出来る事に限りがあるでしょう」

「こりゃブレイザーはともかくベティーに怒られるな……」

「無理だな、どう考えても維持は不可能だ。教育させるための教材、教える者の人件費、その膨大な期間。筋の良い者でも三年、いや五年は必要だろう。そもそも小僧に何の見返りがある?」

「見返りは斡旋が成った時、支給される給金から毎月数パーセントを頂きます」

「おいおいそりゃきついだろ?」


 ブルーツが割って聞いてくるが、当然の疑問だろう。


「頂くのはこちらで掛かった費用と少しの手数料のみです。おそらく数年で返済出来る額でしょう」

「いやいや、俺が言ってるのはそれまでの期間の事だよ。援助のないまま五年、いや、まともに収支の見込みがつくのはもっと先だ。それまで討伐だけで生計たてるってのはいくらなんでも無茶だ」

「ブルーツの言う通りだな」

「なので、ガストンさん(、、)にお金を貰ってしまおうと考えました」


 俺はぽんと手を叩き場を支配する。これはある意味先程のブルーツが俺の尻を叩いた効果に似ている。

 俺のテンションの切り替えに、ガストンとブルーツの目が丸くなる。


「……儂から金をとる? 儂はそこまで慈愛に満ちた人間ではないぞ、小僧?」


 重く鋭い視線……薄い壁など突き抜けてしまいそうだよ、ポチ君。


「ここからは個人的なお願いです。後ほどアイリーンさんとビリーさんにもお願いする予定です」

「……読めぬな?」

「あぁ、サッパリだ」

「ガストンさん、俺の魔術、買いませんか?」

「…………魔術を……売るだと?」

「五千年前はありふれてた魔術です。俺にとっては痛くも痒くもないんですよ。けれど売れるのは信用出来る方のみ。これは三人にしかお願い出来ない事なんです。それに……魅力的だと思うんですよね? 魔法士にとって、俺が五千年の間に習得、開発した魔術。どうでしょう、価格などのリストをこの度作成しましたので…………これだけでも見て頂けないですかね?」


 俺は懐から羊皮紙を取り出してガストンに手渡した。

 その間ガストンは俺から目を切らなくて怖かったが、魔術のリストに目をずらすと、その威圧は一気に霧散して見せた。


「……ふふふふふ、これだけの額を儂にビリーに婆からふんだくるというのか……まったく、とんでもないな」

「適正価格だと思います」

「確かに相応の価格だろう。いや、安いとさえも感じるのは小僧の狙い通りなのだろうな」

「残りの二人は乗ってくれるでしょうか?」

「間違いなく乗るな。しかし小僧?」

「なんでしょう?」

「儂はまだ乗るとは言ってないぞ?」

「それは失礼しました。顔に答えが書いてあったもので先走りました」

「ふん、言いおるな。が、しかし面白い話だ。乗った!」

「…………さ、お話は終わりですよ! 私デザートが食べたいです!」


 空気を読むのか読まないのか……どうしてポチはこうなんだ。


「ふははははは! そうだな、小娘の言う通りデザートがまだだったな」

「ですですー!」

「……俺ぁ、全然付いていけなかったぜ」

「ブルーツさんにやってもらう事は沢山ありますよ。出来れば早いとこランクSになってもらいたいとこですね」

「ったく……無茶ばっか言いやがる……」


 こうして最初の難関を乗り越えた俺たちは、これから待つであろう更なる困難の為、料亭を出て早々に寮へ戻った。

 そして明くる日、アイリーンとビリーに同様な話を出した時、ガストンの言う通り俺の話に乗ってきた。

 アイリーンは国からの恩賞で、ビリーは久しぶりに討伐の仕事をやると言い始め、俺たちの計画は前進を始めた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― 十二月二十日 午前十時 ――


 親善試合から二ヶ月半後、冬休みを機に俺とポチの寮生活が終わる。

 予めリナには話しておいたが、寂しそうな顔をしながらも、今後も学校では変わりなく会えるという話でなんとか持ちこたえていたみたいだ。

 もし落ち着いたら、リナも誘ってみようか? そして誘ったら応じてくれるのだろうか?

 そう思いながら俺はポチと一緒に部屋の荷物をまとめていた。


「マスター、いざ見回してみると……何にもありませんねこの部屋!」

「おう、基本はストアルームにぶっこんでたからな。がしかし片手の荷物だけで収まるとはびっくりだな」

人買い(、、、)に転身とは、よくも危ない橋を渡りますね……」

「便宜上仕方ないだろう? 売られた人間をより多くの金銭で買って保護する。どう言葉を繕っても、誰が見ても人買いだよ」

「ですねぇ……。それじゃ、行きますか」

「おう」


 俺は校門で待つブルーツとともに、ベイラネーア北にある、《ポチズリー商店》へと向かった。

 どう考えてもポチが命名したこの店の名前だ。この店は、アイリーンから貰った頭金や先行投資という形でガストンから貰った多少のお金を使って、ベイラネーア北区、大市場の外れにある大きな空き家を購入する事が出来た。これから受け入れる娘たち、もしくは違ったルートで入って来る男の子を含め、多少大きい家が必要という事で、かなりの出費となってしまった。しかし、ビリーの伝手で出来るだけ安く購入する事が出来た。この家は、子供ならば二十程の部屋を使って百二十人は住めるだろう。まだまだ少ないが、徐々に増えていって…………埋まっちゃったらどうしよう? まぁそれはその時に考えるべきだろう。

 ブルーツの手引きで、春華、お夏、お冬を買って残金は70万ゴルド程。

 基本的には色食街(しきしょくがい)の店との交渉で女や娘を買う事が出来る。顔立ちの良い娘、健康な娘程、値段が高くなってしまう。

 しかし値段などは関係ない。どんな娘だろうが、救いの手を振り払う事なんぞ、俺には出来ないからだ。


 ポチズリー商店の前では、ブレイザーが店の脇に縦文字で書かれた木製の看板を取り付けていた。

 急ピッチで魔法や魔術を使って、空き家内の清掃を行い、必要最低限の家具も用意した。

 煉瓦造りのこの家屋は、今後俺たちの拠点となるとともに、生活の糧ともなるべき存在だ。そして、これに協力してくれるのが、《銀》のメンバーだった。


「おう、ブレイザー! 悪いな」

「戻ったか。どうだ? 中々いいだろう?」

「えぇ、とてもいい感じになりましたね」

「もう少しで終わる。中でベティーと春華が食事の準備をしているから、食事でもしてくるといい」

「わかりました」


 入口には対面式の細いテーブルがあり、客側には一席、事務側には二席の椅子を用意した。

 聞けば色食街(しきしょくがい)の娘たちは色食街(しきしょくがい)から出ることが出来ない。脱走でもされたら食い扶持が無くなってしまう。これを防ぐ為だろう。

 そこで悩んだ俺とポチとブルーツは、春華が働いていた花鳥風月の店の主を仲介役として雇ったのだ。色食街(しきしょくがい)で困っている娘が花鳥風月の主に連絡をとる。そして花鳥風月の主がこの店にその情報を届けにくるというシステムだ。店の主はどこに行っても問題ないからな。

 ここの情報は口コミという流布法を使って、人づてで色食街(しきしょくがい)に徐々に浸透させていくつもりだ。

 そんな中、俺とブルーツの行動を訝しんだベティーが、ついにその内容を追及してきたんだ。


「兄貴、そんなとこに立ってられると邪魔だよ!」

「あ、おう……すまねぇ……」


 入口右手奥にある食堂に入った俺たち三人は、食事を運んで来るベティーの声にどかされた。主にブルーツがその恰好の的だが、最近のブルーツはベティーに頭が上がらない状態だ。

 色食街(しきしょくがい)の娘たちの件が、ベティーにバレ、そしてベティーの愚痴を聞いた相手が外で看板を付けているブレイザー。

 この二人に問い詰められたら、俺とブルーツは全てを白状するしかなかった。

 因みにバレた原因は、ブルーツががむしゃらにレベルを上げていた事。その動きの鋭さを久しぶりに組んだベティーの目に触れてしまった為だ。

 ブレイザーとベティーはすぐに協力体制に入ってくれた。勿論、彼らにメリットがあるかと言ったら、そこまでない。

 あるとすれば、いつか戦士志望の子供がポチズリー商店へ来れば、《銀》への加入を勧められる。そして拠点を作れるという事くらいだろう。しかし、見返りなど気にする事もなく、二人は進んで俺たちに協力してくれたのだ。なんともありがたく徳の高い人だと、感心してしまった。


「お食事ですー!」


 そう叫んでパンのカゴを持って走って来たのはお夏。今では皆に《ナツ》と呼ばれている。白い割烹着が似合う第一印象通り、活発な女の子だ。


「通りまーす」


 そしてゆっくりとスープの器を持って歩いて来たのはお冬。皆に《フユ》と呼ばれる子供ながらに顔立ちの整った可愛い女の子。


「通りんす」


 最後にお皿を運んでいたのが、春華だ。白粉がとれると、やはりリナと左程変わらない十六歳の少女だった。キツめの印象は化粧のせいだったみたいで、本来のおっとりとした雰囲気と、所々に染みついた女らしい所作がなかなかに魅力的だ。

 色食街(しきしょくがい)の遊郭の言葉とは残酷なもので、一度徹底的に叩き込まれると、中々元の口調に戻せないんだ。

 これは、脱走した娘を再度捕えやすくし、他では生きられないようにする狙いがある。自由の身となった春華だが、こういった現実からあまり外に出れない実情がある。街の警備にそれがバレれば、捕まらないまでも中々に面倒な手続きが必要になるからだという話だ。

 訓練してしっかりとすれば、今後普通の暮らしや夢や目標が出来る事だろう。

 春華は決まっていないが、ナツは魔法士になりたいそうだ。そしてフユはガストンが今後斡旋する予定の事務方を希望している。

 ナツの魔法士の才は悪くないレベルにあり、そしてフユは物覚えが早く、動きもテキパキとしていてベティーが非常に助かっていると言っていた。

 時間さえあれば、春華のやりたい事も見えてくるだろう。それまでは可能な限りここの手伝いをしたいと言ってくれた事が、俺には凄く嬉しかった。


 俺、ポチ、ブルーツ、ブレイザー、ベティー、春華、ナツ、フユ……これが《ポチズリー商店》最初のメンバーとなった。

 皆で食堂の大テーブルを囲み、神への祈り(、、、、、)のあとに食事を始める。

 これはちょっとした布教活動でもある。魔王の胎動期が始まっていないにしろ、神の力を戻す事に力を入れるのは間違っていないだろう。

 因みに最近の食事前の祈りは戦魔帝ヴァースへ向けてというのが主流だそうだ。

 小さな一歩だが、「こういったところから始めるのもマスターらしい」とポチに言われた時は、流石に苦笑してしまった。

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