◆エピローグ02:再会
2019/8/23 本日一話目の投稿です。ご注意下さい。
―― 戦魔暦九十六年 九月二日 早朝 ――
エッド西の森。
アズリーが、レガリア城跡から空間転移魔法陣で戻って来ると、そこでは一人の女がアズリーを待っていた。
「あれ? リーリアっ?」
「ここでアズリーの魔力が消えたからね。待ってたのよ」
「ありゃ、流石鋭いな~」
「そんな事ない。皆気付いてたけど追わなかっただけ。あなたまだその魔力の調整に慣れてないでしょう?」
「た、確かに……」
「それで? どこに行ってたの?」
「まぁ、最初はリーリアだよな。うん」
「え……――っ!」
直後、アズリーの後ろから転移して来たのは、二人の人物。
「は、はははは……お久しぶりです、リーリアさん」
「あらリーリアじゃない? どう!? この身体! いいでしょ!?」
「ブライト!? そ、それに……フェリスなのっ?」
恥ずかしそうなブライト少年と、嬉しそうなフェリス嬢を見たリーリアの困惑は凄まじいものだった。
リーリアは、確かに情報として知っていた。ブライトとフェリスがチャッピーと共に行動していると。しかし、その詳細を知ってはいなかった。
ましてや子供の姿でいるという事態を、想定していなかったのだ。
「じ、実は……――」
ブライトはこれまでの事をリーリアに掻い摘まんで説明した。
リーリアを冷凍結界で封じた後、肉体を捨てた事。
魂だけの状態でチャッピーと五千年を生きた事。
アズリーに協力していた事。
そして、先程アズリーに助けてもらった事を。
「呆れた。まさか肉体を捨てるって方法で時を超えるなんてね」
「それだけはあなたに言われたくないですよ。自分は凍ってたじゃないですか」
「む、確かにそうかもしれないけれど、私はブライトを信用して――」
「――なら僕自身が出した可能性を否定しないで欲しいものです」
「くっ! こ、子供が大人ぶるのはどうかと思うわ」
口で勝てないと悟ったリーリアは、遂にブライトの容姿について触れ始めた。
しかし、これはリーリアの愚策である。
何故ならブライトは、今現在、それを触れられる事だけは嫌だったのだ。
「五十を超えたオバサンがそんな幼稚な事を言いますか?」
「オ、オバ――ッ!? ブ、ブライトだってそうじゃない!」
「僕は論理的解釈で述べたまでですよ。ねぇ師匠?」
ブライトは倒木に座っているアズリーを見て同意を促す。
しかし、アズリーがこれに同意出来る訳がない。
アズリーは、ブライトとリーリアの言い争いには無関心を貫き、フェリスの相手をしていたのだ。
「ほい、ストアルーム。ほれ、手鏡」
「あら、愚者の癖に気が利くじゃない。うんうん、いいじゃないいいじゃない。ちゃーんと若くなってるー!」
「あとで俺が使ってる魔力循環の法を教えてやるよ」
「ホント!? んー、でも使うのはもうちょっとしてからかしら? 十九、二十あたりで止めたいところよね。どう思う、ブライト君?」
「……フェリスさんの好きにすればいいと思いますよ」
「それもそうね~」
アズリーの無反応に少々動じたブライトだったが、すぐに持ち直すのはやはり黒帝と称される所以か、リーリアを見たブライトの目はまだ闘志に燃えているのだった。
「リーリアさんも魔力循環の法……教えてもらったらどうですか? そこが若さの限界では?」
これが、ブライトの愚策。
人にもエルフにも、言っていい事ととんでもなく悪い事があるのだ。
「クッ、クカカカ……カカカッ! 笑ワセテクレルッ!」
「っ!?」
黒帝すら驚く――――大悪魔リーリアの誕生。
「ちょ、そんなに怒る事ですかっ!?」
「避難ひなーん」
アズリーはフェリスを抱えて空へと舞い上がる。
そしてフェリスに言う。
「どっちが勝つと思う?」
「ブライト君が三」
「ならリーリアが七か。剣もないし確かにそんなとこか。良い読みじゃないか、フェリス」
「ずっとブライト君を見てたからね~」
直後、リーリアがブライトに跳びかかる。
「ヤッパリオ前……先ニ逝ッテロ……!」
それは、リーリアがブライトに冷凍結界の魔術を掛けてもらう時に言った……別れの言葉。その全否定だった。リーリアはそう言いながら腕を振りかぶる。
「くっ!!」
腕で受けたブライトが吹き飛ばされる。
伝説の時代を生きたとはいえ、ブライトとリーリアでは戦力に差があり過ぎる。
だからブライトはこれまで培った知恵で勝負する事にした。
「ほい! スウィンドルマジック!」
ブライトが選んだのは、強化魔法でもなく、攻撃魔法でもなかった。
それはアズリーが過去開発した幻惑魔法。
「悪くない手だと思うけど、何に化けるんだ?」
「アンタ以外誰がいるのよ?」
「へ?」
アズリーは疑問に思うも、フェリスはすぐに答えを導き出した。
フェリスの言う通り、ブライトは自身に掛けた幻惑魔法により、アズリーの姿となる。
「っ!?」
直後、大悪魔リーリアが悪魔リーリアに変化した。
「リーリア、落ち着いて俺の話を聞いてくれ」
モンスターリーリアに歩み寄るアズリー。
「リーリア、君の拳はこんな事に使ってはいけない」
青筋リーリアの動きがピタリと止まる。
「さぁ、手をとって……」
「あ……」
頬を赤らめたリーリアがアズリーの手を取る。
それを上空から見ていたフェリスが言う。
「ブライト君の作戦勝ちね」
「いや、リーリアの勝ちだよ」
「え?」
フェリスはアズリーの言葉を疑うように二人を見る。
すると、ブライトが今にも結界魔術を発動しようというタイミングだった。
しかし、それは行使されなかった。
ブライトの動かす指がリーリアのもう片方の手によって止められる。
「へ?」
「ふんっ!」
リーリアは一瞬の内にブライトを組み伏せてしまったのだ。
「いた、あいたたたたたたっ! ちょ、痛いですって!」
「オ仕置キダ……!」
「かっ!?」
ブライトの尻から轟音が響く。
元聖戦士、戦士リーリアによるブライトのためのお仕置き。
花火のような破裂音がエッドに拡がる。
「ちょっと! 死んじゃいます! 死んじゃいますって!」
「ピーピーピーピーと……五月蠅い!」
「かっはっ!?」
上空から降りてきたアズリー。
アズリーから下ろされたフェリスが聞く。
「何でブライト君負けちゃったの?」
「それは僕が聞きたいです! 一体何でっ!?」
リーリアの腕の中でジタバタと暴れるブライトの強い疑問。
「リーリアが教えてくれるよ」
アズリーはリーリアを指差して言った。
すると、リーリアが二人の疑問を解くように答えた。ブライトの手を持ちながら。
「アズリーの手は……こんなに小さくない!」
「っ!?」
尻を叩かれながらブライトが気付く。
「あー、そっか。幻惑魔法を騙せるのは視覚だけだもんね。触覚情報を与えちゃったから負けたのか」
「そういう事っ」
アズリーは納得したフェリスにそう言うと、くすりと笑った。
「わかりました! わかりましたから早いとここの人止めてくださいっ!」
「わかったわかった。リーリア、その辺で勘弁してやんなよ」
アズリーがようやくリーリアを止める。
しかし、リーリアは言った。
「後二回だけお願い」
「何で?」
「戦闘中にすら私を馬鹿にしたからよ」
アズリーは、リーリアが何の事を言っているのか理解する事は出来なかった。
しかし――、
「それなら仕方ないな」
リーリアが筋を通す者だと理解しているからこそ、アズリーはそれを許可した。
「ちょっ!? ふぉっ!?」
その朝、ブライトとフェリスは今回の戦争の功労者として、未だ続く宴会に参加し、アズリーによって皆に紹介された。
しかし、ブライトだけは、いつまで経っても椅子に座る事を固く断っていたのだった。
今日は後もう一話投稿する予定です。18時には投稿したい。




