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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
最終章 〜悠久の愚者編(下)〜

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◆464 奇中

「何故……何故貴様がここにいるっ!! ガストン(、、、、)ッ!!」


 皆の窮地(きゅうち)に現れた焔の大魔法士ガストン。

 ビリーの脳裏を過ぎるガストン最期の時。

 ガストンは確かに命を燃やし尽くした。

 しかし、現にガストンはこの場にいる。それが何よりも不可解でならないのだ。


「ガストンッ!!」

「ご主人っ!!」

「「ガストン様っ!!」」


 アイリーン、コノハ、リナたち魔法兵団や戦士兵団たちは、ガストンとの再会を最高の喜びで迎えた。


「気を抜くなっ!!」


 しかし、ガストンから聞こえてきたのは、皆と再会した喜び以上の警戒。

 ガストンはビリーから、ビリーはガストンから目を逸らす事はない。

 それは、互いが互いに警戒しているから。

 そして、この場はビリー以上の強者の眼前。魔王ルシファーがいる戦場なのだ。

 ガストンの強い指示により、皆は喜びを呑み込み、ただガストンの言う通り気を引き締めた。


「……か、彼は?」


 リーリアが立ち上がりトゥースに問う。


「援軍……ってとこだな。だが、ルシファーの前じゃ霞んじまうが……」


 トゥースはガストンのレベルと魔力を見抜いていた。

 ガストンの実力は飛躍的に向上していた。しかし、魔王ルシファーには届かない。

 このビリーがせいぜいといったところ。そう判断していた。事実、ビリーはガストンが現れてから攻勢に出られていない。

 充実したガストンの魔力は、先のアズリーを彷彿させる程。この魔力を受け、ルシファーがニヤリと笑う。


「面白い」

「魔王陛下……!」


 ビリーはルシファーに問いかけるように言った。

 これは、ビリーによる協力要請。だが、ルシファーが動く事はなかった。

 ルシファーは横目でビリーを見、侮蔑(ぶべつ)するように言い返したのだ。


「先の命令を忘れたか、ビリー?」


 瓦礫の上で脚を組み、ビリーに命令を思い出させるルシファー。


【では最初の命令だ。その身一つで、このくだらん(いくさ)を終わらせて来い。よもや、出来ぬとは言わせぬぞ?】

「……くっ!」


 魔王の命令撤回はない。あり得ないのだ。


「安心しろ。貴様が死んだら余がその鼠を殺してやる」


 それは、ビリーへの死刑宣告にも聞こえた。

 ビリーが焦りを顔に浮かべ、再びガストンを見る。

 すると、既にガストンはそこにいなかった。直後、ビリーの背中に走る強い衝撃。


「ぐぉっ!?」


 吹き飛ばされたビリーが中空で体勢を立て直す。


「攻撃の九! 今っ!!」

「「ほい! ガトリングライトニングッ!!」」


 光黄(こうおう)に輝く無数の雷が、ビリーの下へ走る。


「ガァアアアアッ!?」


 直撃したビリーから絶叫が漏れる。


「凄い……!」


 リーリアから聞こえたガストンへの称賛。

 そして、魔法兵団への称賛。


「戦士兵団!!」


 ガストンが今度は戦士兵団に指示を飛ばす。

 魔法兵団の指揮官でもあるガストンは、当然それと対を成す戦士兵団の戦闘法も知っていたからだ。


「攻撃の二! 今っ!!」


 戦士兵団がすぐに動く。

 そして、その指示はアイリーンの耳にも当然届き、その意図を知らせる。


「合わせろ、糞婆っ!」

「言われなくてもっ! よっ!」


 戦士兵団の皆が、剣を大地に突き刺す。

 狙う先は、宙に浮かぶビリーの真下。跳び上がったアイリーンはガストンと共に、ビリーをそこめがけて叩き落としたのだ。


「がっ!?」


 大地に打ち落とされたビリーに向かって来る、戦士兵団の強力な地走り。


「ぐぉおおっ!?」


 体内に重篤なダメージを負ったビリーは、強い憎しみを込めた目でガストンを睨む。


(何故だ、何故ガストンはこれ程まで強くなって現れたっ? 何故ガストンが生きている!? 何故私がここまで追い込まれているっ!? 何故っ? 何故!? 何故っ!?)


 そんなビリーの思考は、直後飛んで来る鼠によって止められる。


「んなっ!?」

「それ、儂の仇だぞ? お見舞いしてやれ!」


 ビリーの顔面に飛んで来たのは、いや、ガストンがビリーの顔面に放り投げたのは、ガストンの――――元使い魔(、、、、)


「うりゃりゃりゃりゃりゃっ!!」

「わっ!? くっ!?」


 コノハを振り払おうとしたビリーだったが、それを阻む二人のエルフ(、、、)


「「ぶっ飛べっ!!」」

「なっ!? ぐぉおおっ!?」


 腹部に叩き込んだトゥースの拳とリーリアの剣が、ビリーを大空へと舞い上げる。

 直前に離れたコノハが、肩で息を切らせながら「五回! 五回引っ掻いてやったぞ!!」と、嬉しそうにガストンに報告する。


「「ほいっ! ファイアランス・レインッ!!」」


 フユ、ナツ、ララ、ティファが吹き飛んだビリーに合わせる。

 空中の上昇地点――ビリーの眼前から降る炎の槍。

 これによりビリーは更なるダメージを負う。


(ば、馬鹿なっ! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!!!!)


 降下するビリーが口を開く余裕はない。

 確かにビリーは究極限界(アルティリミット)状態にある。しかし、回復魔法を放つにも口頭による魔法名の詠唱が必要である。

 たった一言。そのたった一言の詠唱すら許さぬ、ガストンたちの猛攻。


「「ほい! シャープウィンド・アスタリスク!!」」


 バルン、ウォレン、オルネル、そしてリナが放つ大魔法。

 分裂発動型魔法ではない。たった一つの大魔法。

 皆はこの短時間で辛うじて回復した魔力を、全てこの場、この戦闘に注ぎ込んだのだ。

 ビリーの身体に無数の傷を付けた魔法だが、致命傷までとはいかない。

 だが、まだ残っている。ボロボロになりながらもこの戦闘に参加する四人が。


「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」


 天獣灰虎(はいこ)、リナの使い魔バラード、オルネルの使い魔マイガー、そしてアズリーの使い魔ポチの四人による、強力な(きわみ)ブレス。

 ビリーの全身は焼け焦げ、それでも尚、原型を留めている。

 しかし、攻撃はこれで終わらない。既にガストンと魔法兵団が動いていたのだ。


「補助の七! 今っ!!」

「「ほい! パラライズマジックッ!!」」

「――っ!?」


 ビリーに向けられたのは、単純な麻痺(まひ)魔法。

 本来の魔力を纏っていたのであれば、ビリーにはまず効かない。しかし、ビリーの身体は弱り切っていた。

 ここでこの魔法を選択したガストン。そして、その指示に逡巡(しゅんじゅん)する事なく反応して見せた、ヴィオラ率いる元王都守護魔法兵団の精鋭たちを見て、トゥースが思わず零す。


「はっ、役者が(ちげ)ぇな……!」


 麻痺によってビリーの魔法は封じられ、全員の強い視線によってビリーの目は恐怖という名の震えを見せる。

 ガストンがゆっくりとビリーの下に歩く。

 そして歩きながら言うのだ。あの時と同じように。


「今一度言おう、ビリー」


 ガストンとビリーが対峙した、あの時のように。


「これが努力だ……!」

「っ!!」


 ビリーのこれまで全てを否定するように言ったガストンの一言。悪魔化し、キメラ化する事で強さを手に入れた、ビリーという全存在の否定。

 ガストンの指が静かに、正確に、素早く動く。

 ビリーの身体は麻痺によって震えさえ見せない。見せる事が出来ない。ただ瞳だけが震え、眼前で灼熱の焔を溢れさせる魔術陣だけを見る事しか出来なかったのだ。

 その動きにルシファーが目を見張る。


「ほいのほいのほい……天獄地獄っ!!」


 直後、ビリーの真下から天に昇る究極の火焔(かえん)

 この世の全てを焼き付くすかのような、眩しき太陽のような光に呑み込まれたビリーが叫ぶ。


「ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」


 麻痺という拘束すら解く程の強烈な炎の熱、痛み。止まる事のないかのようなビリーの悲痛の絶叫は、この魔術の消失と共に消え去った。

 その焼け跡だけ残して…………。


「さらばだ、友よ……」


 この世から姿を消したビリーに送る手向(たむ)けの言葉。

 ガストンが空に向かってそう言った後、その耳に称賛の拍手の音が届いた。


「素晴らしい。実に見事だった」


 拍手をガストンたちに送るルシファー。

 ガストンは鋭い視線でルシファーを睨む。

 皆もルシファーを睨むが、既に全員が満身創痍。これ以上、戦闘に臨めるはずもなかった。

 唯一力を残しているであろうガストンでさえも、ルシファーの絶大なる魔力には及ばない。

 だからこそのルシファーの余裕。ルシファーの称賛なのだ。

 それは、この場にいる誰もがわかっていた。そう、ガストンと、もう一人(、、、、)の存在以外。


「『余裕ですな、かつての我が(あるじ)』」

「ほぉ、やはりバディンか。先の魔術には貴様の匂いがした」


 ガストンの口から聞こえたのは、ガストンの声ではなかった。

 ガストンを宿主とする、かつてのルシファーの側近――バディン(、、、、)の声だった。

 そして、ルシファーは天獄地獄の魔術からバディンの存在を見抜いていた。


「『御健勝そうで何よりです』」

「ふん、人間の魂に宿るとはな。なるほど、神との契約……か」

「『流石のご慧眼。しかし、よろしいのですか?』」

「何をだ?」

「『私が何の策もなく、貴方の前に現れるとお思いで?』」

「…………何が言いたい?」

「『……あぁ、残念です。間に合って(、、、、、)しまいました』」


 少し溜めてから言ったバディンの言葉に、ガストンが反応する。


「遅過ぎだ、あの阿呆……!」


 ガストンから漏れ出た言葉を拾ったアイリーンが、その肩を強く掴む。


「ちょっと、どういう――っ!?」


 ガストンは答えなかった。しかし、行動で示したのだ。

 ガストンが振り向くは北東の空(、、、、)。それに釣られる者たち。

 空に見える一粒の赤点(せきてん)。それは泳いでるようにも見えた。


「……何だありゃ?」


 トゥースの疑問に、アイリーンが答える。しかし、それは答えではなかった。


「赤……赤い……翼?」


 アイリーンの言葉の直後、リーリアがバッとガストンを見る。

 そして、言うのだ。


「赤き翼……!」


 コクリと頷くガストン。近付く赤点(せきてん)

 焦点を合わせるためにルシファーの目が細くなり、逆にポチの目は大きく見開いていった。

 その赤点(せきてん)が人間の形だと皆が理解出来た瞬間、世界は一気に光り輝いた。

 それは、世界を包む緑光(りょっこう)

 そして響く。

 この戦場に。


「よぉポチ、待たせたなっ!!」

……はて? この台詞は一体だれの台詞だ?


次回:「14000字の答え合わせ(仮題)」


次話のせいでストックが消失した。また書き溜めます。

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